第五十二話:閑話:勇者 ユーノ
ヤタにお願いしたら、交換のレート下げてもらっちゃった。
運営からもボーナスもらったし、食料に関してはもう大丈夫だね!
……若き妖精 ファウ
六日目。
本日は、森の中にある開拓村……の、現在は廃村となった第六開拓村を目指す。
開拓村の状況の確認と、以前に配置しておいた魔物避けの結界石の状態確認をするそうな。
昨日と言ってること違うんじゃね? と思ったけど、本来は廃村の確認までがセットだったという。
生き残ったのだから、その分仕事はちゃんとやれってさ。
昨日のようにゴブリンを探して歩くこともなく、速度優先の移動がメインになるとか。
そのため、夜行性の魔物の動きが鈍り、昼行性の魔物はまだ眠っているギリギリの時間の明け方直前に起き出して、準備して出発だそう。
コーヒーみたいな黒くて苦くて不味いという茶を配られたので飲んでみたら、あまりの不味さに目も覚めたよ!
朝食は、ベテランのダクさんチームのポーターの人、ドクさん(ダクさんと兄弟らしい。似てないけど。異母兄弟という話だ)主導で、女性陣が助手について結構な量のスープとオーク肉の串焼きを作っている。
匂いとか大丈夫? と聞いてみれば、ガキが余計なこと言うんじゃねぇ。と静かだけれどドスの利いた声で怒られた。
……なんだよ、もう。確かにガキだけどさ!
不貞腐れながらも、ダクさんに朝の稽古を頼んでみる。すると、苦笑しながらもいきなり殴り掛かってきた!?
ガードは間に合ったけど、
「なあユーノ、これが鉄の剣や魔物の爪だったなら、お前はどうなってた?」
……まあ、控えめに言っても、血を見ることになっただろうな。
……だから。
「ありがとうよオッサン。今度は俺が転がしてケツを蹴り飛ばしてやる!」
「ヤれるもんならヤってみろ! ケツの青いチェリーボーイにヤられるほど、耄碌してねぇよ!」
「いちいち嫌らしいんだよ!オッサンが!」
「生意気だぜ! 女を知らないガキが!」
「今それ関係ないだろ!?」
ガチバトルになった。
……で、騒ぎすぎて、ドクさんにガチで怒られた。
朝食抜きにされそうだったので、オッサンと二人並んで土下座して許してもらった。
……いやさ、サーシャたちが作ってくれた朝食を食べないとか、なんの拷問だよって感じです。はい。
朝食を済ませて片付けという名の休憩を挟んだら、行動開始。
昨日と違って全員の顔が見えるくらいの密集隊形。それぞれが三、四歩ほどしか離れていない。
今日もサーシャの幼馴染みたちが一番前だが、その後ろはダクさん率いるベテランパーティー。
周囲に配置されている各チームも、皆真剣な表情で、周囲の警戒は怠っていない。
……で、ダクさんたちの後ろに配置されている俺、サーシャ、ニア、ナジャさんの撤退組は、ぶっちゃけ暇だった。
小走りぎみに移動するのだから、無駄口叩くのは余計な体力を消耗するばかりか、耳のいい魔物をおびき寄せることになるという。
じゃあ、鼻のいい魔物は、森に入った俺たちのこと気付いているんじゃない? とデカい声で誰かに聞いているバカもいたが。
そいつらには、ダクさんたちベテランがグーをプレゼントしていた。そして、
「黙って移動しろ、クソガキども」
胸ぐら掴んでメンチ切っていた。
うーわ、怖ぁ……。
サーシャの幼馴染みたち……もう、バカどもでいいか……バカどもの中には、強面のオッサンたちに凄まれて股間を濡らしてるやつもいた。ざまぁ。
『(ねぇねぇ、ユーノ、ちょっとつまんないね)』
「(しー。怒られるから、静かにな?)」
小声でありながら、しっかりと聞こえたファウの声にびび……驚いて、ちょっと慌てて口に指を当てて、黙らせた。
ファウが素直な子で良かったよ。
慌てた様子で両手で口を塞ぐファウが、ちょっと可愛かった。
それからは、たまに遭遇する魔物を、一斉攻撃で瞬殺。俺は死骸をアイテムボックスに回収して、痕跡を消す係。楽なもんだった。
そんな風に、散発的に戦闘しながら、移動すること二時間ほど。ようやく目的地の開拓村跡に着いた時のことだった。
原型をとどめてはいるものの、人気のない村内の木造の建物から、焦った様子で飛び出してくる見知った少女一人と、知らない少女二人。そして、少女型の妖精を伴った上半身裸の少年。
少女たちは三人とも、服が少し乱れているように見えた。遠目なので、確たることは言えないが。
……だけど、少年型の妖精が寄り添う見知った少女のことは、見間違えるはずなんてなかった。
その少女は、俺の幼馴染みにして初恋の少女、シオリだったから。
「………………シオリ?」
情けないほど震えた声が出た。