第五話:初期装備はセット装備
その胸の温もりから離れたくはない……。
『もうずっとここにいたい……』
羽虫改めヤタが、なんか病んだセリフを吐いた。
ちょっといいかな? ここって言うけど、僕の胸の……僕のアバターの胸の谷間にすっぽりと収まって、顔だけ出しているけどさ、そろそろ仕事してほしいんだけど?
はあ、とため息吐きながら、何やらぶつぶつと呟き続けるヤタ。
もうしばらくこのままにしてあげようか? と思ったけれど、いい加減、寒い。
ヴァーチャルの世界で、雪原みたいな地域の地形効果以外で寒さを感じるとか、リアルすぎない?
「はあ……。ヤタ、仕事して? この格好だと、寒くて大変なんだよ?」
肌着みたいな薄い上下姿で、ぶるりと震えて、我慢できなくなってしまった。
ヤタを胸から引っこ抜き、目を合わせる。すると、
『ミコトの中、あったかかった……。はっ!?、あ、ああ、ジョブを決定したか?』
いつの間にか消えていたウインドウを意識すればすぐに現れる。そして、例の特殊職の欄を見る。
決定? ここにタッチ?
『巫』の項目をポチっとな。
すると、身体が一瞬光り、薄着の身体が新品の服に包まれていた。これで寒くない。
上は、白衣。
下は、緋袴。
右手は弓掛、
左手は手袋に手甲、
弓と矢筒をベルトでたすき掛けして、
両手で薙刀を持っていた。
……いきなりすぎ!?
ウインドウを指でポチポチして装備を確認。確認大事。
頭:決意の鉢巻
胸:巫女の襦袢 (インナー)
腰:巫女の緋袴
腕:火伏せ猪の弓掛 (左右非対称)
脚:巫女の白足袋&巫女の草履 (セット)
外套:巫女の白衣
その他1:火伏せ猪のお守り
その他2:絵馬 (無病息災)
セット装備ボーナス:巫女服セット(全能力+20、全異常耐性+10%)
武器
メイン:巫女の薙刀
サブ:梓弓&矢筒(桃の枝の矢、鏑矢、破魔矢)
うーん、これ、初期装備……?
『普通は、一次職しか出ないから木の剣と布の服、布のズボンくらいだぞ? ……お、情報開示の許可が降りた。《かんなぎ》は複合三次職。成れる頃にはそのセット装備でもかなり弱い方になる』
お守りと絵馬はアホみたいに強力だけどな。
そんな呟きが聞こえてくるけど、聞かなかったふり。
『装備は、いずれ強化できるようになる。鍛冶屋とかの専門家に、強化したい装備と強化に必要な素材と報酬を渡すと、強化できる。で、強化すると+1とか付くわけだ。最大は+10。その他枠のアクセサリー系は、状態異常耐性や属性耐性なんかが強化されるのもある』
そのお守りと絵馬みたいにな。
そんな小声も、聞かないふり。
「ねぇヤタ、複合三次職ってなに?」
『んー? 情報規制に引っ掛かった。まだ教えらんないとさ』
小さいからだでやれやれと肩をすくめるヤタ。
おのれ、中途半端な情報開示は、かえって気になるじゃないか。
「ねぇヤタ、そこをなんとかならない? 気になるんだよ?」
『んー? 情報開示請求……お、通った。マジで?』
めんどくさそうなヤタにダメ元で頼んでみると、意外なことに、申請は通ったらしい。
申請したヤタの方が驚いた顔をしている。
さてさて、どんな情報が飛び出してくるのかな?
『クラスチェンジは一次職から二次職への《進化》と、一次職から別の一次職への《変化》がある。複合三次職っていうのは、三次職まで《進化》してから別の一次職へ《変化》して、三次職まで《進化》して資格を得た上で、さらに《進化》すれば成れる。実際は、データだけ存在する未実装のコンテンツだな』
……途中からちんぷんかんぷんになった。
……要するに?
『βテストの段階では二次職自体が解放されてないから、まだ意味がない』
視線に、分からん、説明ぷりーず。と思いを乗せて見つめると、また肩をすくめながらヤタはいう。やれやれって感じで。
……イラッ☆
この巫女服、生地は薄いみたいだけど、なんか温かいかも……。