第四十八話:キノコと甘い匂い
ミコトはまあ、心配ないだろうな。
なら、他のプレイヤーは?
……ま、オレが気にすることじゃないか。
……中位妖精 先触れ:ヤタ
北側へと移動する。
いずれここは、北西側の木が大きく育てば日陰になる予定。
今はまだ、直射日光が照り付けているけど。
毒草を植えた場所と、丸太を積んで、キノコの榾木にしている場所とは、離してある。
両方、布を広げて屋根代わりにしていて、日陰を作っている。
「……わ、すごい。これは……」
……で、毒草とキノコの中間あたりに、複数の種類のキノコが、少しずつ勝手に生えていた。
《クルシミマッシュ》:食べると、激痛に見舞われる危険なキノコ。その激痛は長く続き、苦しんで苦しみ抜いて、やがて死に至る。一応美味しいが、その代償は大きい。
《参っ茸》:致死性の猛烈な毒をもつ。誤って飲み込んでしまえば、処置する前に死んでしまうほど。
「もう、まいったけ」とは、『手の施しようがない。参ったね』という意味の、ブラックジョーク。
《まだら茸》:複数の毒をもつ《まだら蜘蛛》から付けられた。見た目も似ている。
その名の通り、複数の毒をもち、どの種類の毒が強いかは、一本ずつ違う。
生成次第では、複数の解毒剤の材料にもなる。
《菌糸卵》:卵形のキノコ。ゆで玉子のような食感と味がする。
もちろん毒を持ってますが、それがなにか?
「と、トールくん……」
《鑑定》した結果が、なんとも洒落にならないもので、無意識に、トールくんの服を掴んでしまう。
……や、その……怖いよ? まじで。なんなの?これ?
「ミコト、とても珍しいキノコだよ。……とても危険だけど」
……もう、やだなぁ……。
毒草とかは、解毒剤とかの材料になるから栽培してたのに、なんで、ガチで殺しにかかるような毒キノコが勝手に生えてくるんだろ?
棒かなんかでへし折っておこうかな?
『なあミコト、このキノコ、そのままにしておけ? 悪いこといわないから』
えー? ヤタの頼みでも、ちょっとそれは……。
「えーとね、おとぎ話なんだけど、毒草が大量に生えてる場所に、一株だけ《毒を持たない毒草》があった話があるんだ。その《毒を持たない毒草》、高名な薬師の手に掛かって、強力な霊薬になったっていうおとぎ話……つまり、うまくいけば」
「上位の霊薬を作る材料を、ここで作れるかもしれないってこと?」
「かもしれないね」
おとぎ話かぁ……。
意外とバカに出来ないんだよね。
トールくんがいうなら、いったんこのままにしてみようかな?
ヤタも言ってるしね。
明日になったら、増えてたり、また違うのが生えていたりするのかも。
そうなったら、……面白いかもね?
北東側へ移動する。
ここには、薬草類と甜菜とサトウキビが植えてある。
甜菜とサトウキビって、育つ気候が違う気がしたけど……。
「うん、順調に育っているね、ミコト」
「そ、そうだね……」
両方、もりもり育ってた。
むしろ、野菜や果物といった他の作物よりも元気一杯に見える。
……なんでだろうね?
『ご主人さま』
『甘い匂いがしますワン』
ワンコ二体は、鼻をスンスンさせてはうっとりしていた。……あ、ベロリと舌なめずりしてる。
既に甘い匂いがするんだろうね。でも、一応《鑑定》してみても、収穫にはまだ何日か掛かるみたい。
「ジョン、メグ、それは砂糖が採れるみたいだけど、採取できるにはまだ何日か掛かるみたいだよ?」
ワンコ二体のゆらーんゆらーんと揺れていたしっぽが、はたりと下を向いた。
分かりやすくて面白いね。
見渡した限り、薬草の生育は順調。
森から採取したうちの一部はもう収穫できそう。
「ヤタ、薬草の収穫、少しでもやっておいた方がいいかな?」
『増やすことを前提とするならな。採取の方法は分かるな?』
周りの土ごと掘り返して、根っこを傷付けないように土を落とす。
昨日やったから、たぶん大丈夫。
……うん? 昨日じゃなくて、何日前だっけ? まあいっか。
このまま手を離すのが名残惜しいなーと思いトールくんを見てみれば、目が合って、ちょっと見つめ合って。
「ミコト、おれがやろうか?」
代わりにやって? と訴えていたわけじゃないんだけどね。
みんなで薬草を収穫して、《生産》スキルで種にすれば、二つから三つの種を得ることが出来た。
薬草が、種から収穫できるまでの時間は何日かな? その度に倍になるなら、サトウキビや甜菜と一緒に収穫できるかも。
楓の木から、メープルシロップはいつ採れるかな? 冬まで待たなきゃならないかな?
楽しみなことが一杯だね。
リザルト
・薬草+サトウキビ=甘味草
・薬草+甜菜+サトウキビ=魔力草
・薬草+甘味草+薬草=霊日草
・魔力草+甘味草+死呪苦水仙=霊月草