第四十三話:六日目、朝
※メールが届いています。
・運営より
プレイヤーネーム:ミコトに、シークレットクエスト攻略を祝し、特別ボーナスを贈呈。
内容を確認すること。
……おめでとう。君がもらって喜びそうなものを、選んでおいた。
今後の役に立てたまえ。
……紫斬の将、サザン。
どこか遠くで、コケコッコーの鳴き声が聞こえる。
ニワトリ!? と、ビックリして目を覚ましたけれど、そもそも昨日、拠点内の東側に牛舎と鶏舎を造ったんだった。
造るといっても、拠点用設備チケット(酪農)と家畜チケットなんてものを使用したので、なんの苦労もないけれど。
外を確認すれば、まだ薄暗い。それならとばかりに、二度寝しますぅ……。すやぁ……。
とんとんとん、
とんとんとん、
引き戸を叩く、リズミカルな音。
誰かがノックしている?
ノックする人といったら?
……ああ、そっか。そろそろ起きなきゃね。
「……ふああぁぁぁ……」
大きく延びをして、一応、鏡に向かって手櫛で髪をすいてから、引き戸の鍵を開ける。
「おはよう、トールくん!」
朝の挨拶だから、できるだけ元気にいこう。そう思って声をかければ、なぜかビックリしたような顔で固まっているトールくんの姿。
あれー? どうしたの?
首をかしげれば、慌てたように手を伸ばしてきて、襦袢の合わせ目を整えてくれた。
寝起きで気にならなかったけど、もしかしたら、だらしないくらいに襦袢が乱れていたのかも?
「ミコト、なんで格好をしているんだい? その……それは、インナーだろう?」
「それ? 襦袢のこと?」
鎖骨の辺りの生地を、つまんで引っ張ってみる。だからって、肌は見えない程度に気を付けてるよ? そんなに顔を反らさなくてもいいじゃない?
「あのね、ミコト。ひと声かけてくれれば、着替えるまで待っていたのに」
襦袢なら、インナーといっても、Tシャツなんかよりはずっと生地が厚くて、肌が透けて見えることなんてないんだけどな。
でも、見るに耐えないって言うんなら、パジャマとか作ってみようかな?
コットンとか、あったはずだし。
そうだね。今日は、生産の日になるだろうね。
鶏や牛や畑の様子を見て、服とか作ろう。
トールくんの服も、前から着ている粗末な一張羅のままだし、いくら《洗浄》スキルで綺麗にしているとはいえ、着たきり雀じゃね。
「ごめんね? 気が利かなくて。で、さ。ご用事なあに?」
「ああ、それはね……うわっ!?」
なんか、急にビックリしてのけ反ったトールくん。
なになに? 何かあるの?
廊下に顔を出してみれば。
『……よう』
『ご主人さま♪』
『おはようございますワン♪』
不機嫌な妖精と、ワンコ二匹が尻尾振ってお座りしていた。
どうしたの? と問えば。
『朝飯を作れ』
あ、そろそろ時間ですね、ハイ。
「分かったよ。すぐ作るね♪ それで、トールくんのご用事は?」
「食事の後でも大丈夫だよ」
見てると、ホッとするような微笑み。
いつまでも見ていたいなー。と思うけれど、まずは朝御飯だね。
「ミコト、ちゃんと服を着なさい……もう、危なっかしいなあ……」
はーいっ♪ と、笑顔でお返事。
あ、そうだ。ちょっとイタズラしちゃえ。
引き戸の隙間から顔だけ出して、
「覗いちゃダメだよ?」
と、ちょっとだけ困った顔を意識してみれば、
「大丈夫。覗いたりしないから」
と、微笑んでくれる。
えへへー。なんだか、胸がポカポカしてくるね。
今日も、美味しいご飯を作ってあげなきゃ。
寝起きだからって、あんな無防備で……。
足とかほとんど見えてたんだけど、気付かないのかな……?
おれの理性は、いつまで持つだろうか……?
……赤髪の少年、トール




