第四十二話:閑話:五日目。
AEOスタッフルームにて。開発室主任:赤井視点。
(注)連勤五日目。ハイになっている。
今日は朝からイイモノを見せてもらった。
ミコト嬢の行かないで、とか、もう、涙なくしては語れないね。
その後の、妖精の提案。アレを見たときは、しばらく笑いが止まらなかったな。
部長みたいに言えば、素晴らしい!! ってとこか。
……いやその、笑いすぎて、様子を見に来た岩崎を驚かしてしまったな。
つい興奮して、岩崎に抱き付いてなんか色々したような気もするけど、興奮しすぎて覚えてない。
妖精が、自らの意思で、バトルモードを提案、実行したことは、快挙と言えた。
というのも、妖精は、個体それぞれの性格はあっても、基本的に運営からの命令以外のことはやらない。
小さい子供が、親の言うことを素直に聞くようなものだろうか?
それが、この短い期間で、自分から提案するとか。
自我が、個性が、強固なものになってきた証拠だろう。
それが、なんのメリットを生み出すのか?
それはまだ、部長の腹の中に収まっている。
ただ、妖精の進化と自我の確立は、部長からボーナスの対象だったりする。
つまり、スタッフ全員に、臨時賞与が確定した瞬間でもあった。
いやー、ほんと、ミコト嬢さまさまだ。
おいちゃんがイイコトしてあげよう。
何がいいかなー?
上級のポーションやMPを回復するポーションの素材か?
拠点用の施設チケットか?
鉱石詰め合わせか?
帰還用ポータルゲートか?
レイドボスのレアドロップか?
ミコト嬢は、何が一番喜ぶかなー?
「……あの、主任? 部長への報告は、いかがしましょう?」
俺が行くー。
サンキュー岩崎、愛してる!
「……あ、あれ? 今の、告白? ……えっ?こんなあっさり? ……ど、どうしましょう?」
岩崎がなんか言ってる気もしたが、ボーナスに浮かれてる俺の耳には届かなかった。
「素晴らしいではないかっ!!」
あー、耳痛てぇ。
髪が紫なオッサンは、相変わらず声がデカかった。
「……で、これが、お話しした部分になります」
「……うむ、……うむ、……うむ、うむ、これはよい!」
その時の映像を見せてやれば、何度も頷いている。正直、何がそんなに嬉しいのか分からんが、オッサンのニヤニヤ笑いはなんとも不気味だった。
「じゃ、私はこれで。例の巫の娘にボーナス渡さないと」
なので、適当に理由付けて部長室を出ようとすれば、
「待ちたまえ」
ガッシと肩を捕まれてしまった。痛てぇよ。
何の用すか?
「……これを、やってみたまえ。サインは、これでいいだろう?」
適当に引っ張り出した紙の白紙部分をメモ帳代わりにして、ペンでカリカリ書いて渡してきたのだが……。
「……部長」
上司に対する態度として、問題あるのは分かるんだが、大きくため息を吐く。
「な、何だね?」
「正式な文章なら、指示書の様式があって、常に何枚も置いてるはずでしょう? ……ほら、ここに。適当な紙の裏とか、こんなことでケチらないでください。……やり直し! 部長! 正式な用紙に、書き直ししなさい!! ちゃんとコピー取って、判子押して、自分で控え持っておかないと! 前に失くしたって騒ぎになってたでしょ!! ……こら部長! 聞いてるんですか!?」
オッサンが肩を落としてしょんぼりする様は、なんとも哀愁が漂っていたものだが、誰得だよ? と鼻息を荒く吐き出すのだった。
ふんすっ。
プレイヤーネーム:ミコトに、シークレットクエスト攻略を祝し、特別ボーナスを贈呈。
以下を選定されたし。
(確定)
※ポータルゲートの解放及び設置許可。
拠点用親機×1、携行用子機×1、別拠点用子機×1を支給。
(選択)
※報酬を選択してください
・中級ポーション類生産レシピセット
……必要素材、対応器材、レシピのセット。素材の最低数は各100。
・レイドボスのドロップ装備+素材セット
……《泥濘の角塞主 : 泥裂主》のドロップ品、牙の剣、角の槍、骨の棍棒、革の胸当て、革の手甲、革のロングブーツ+素材。
・拠点用拡張施設チケット(万能)
……拠点に、建物や畑などに必要な設備を設置可能。詳細は、チケット使用の際のヘルプ参照。