第四十一話:閑話:賢者 シオリ
……人間怖い……
…………人間怖い…………
………………人間怖い………………
……? この人間、あんまり怖くない?
なら、いっか。仕事だし。
……無口な妖精 インデックス
五日目。
今日も森で戦闘と素材集め。
他の人がいないから、基準が分からないけれど、《賢者》はMPが多いと思う。
だからといって、無限ではない。
攻撃魔法も、選択してから発射までに、《キャストタイム》と呼ばれるタイムラグが存在する。
さらに、同じ魔法をもう一度使うためには、《リキャストタイム》と呼ばれる待機時間が存在する。
また、同じ魔法を二発同時に発射する《ダブルスペル》にも、《リキャストタイム》が存在する。
つまりその、一撃で倒せないと、キモいゴブリンにキモいことをされそうな怖さがある。
《飛び出る魔物図鑑》も、欠点を克服するには、多くの素材とMPが必要になる。
……では、今一番の問題は?
「インデックス、MPを回復させる手段は?」
問われた妖精は、首をかしげた。そして、両手の平を上に向けると、空中に一枚の画像が浮かび上がった。
「これは、薬草の一種?」
呟きに合わせるように、ログが勝手に開かれ、妖精からのメールを知らせてきた。
浮かび上がった画像には、その薬草の名前と詳細な情報。そして、周辺マップと連動した、大森林における植生分布図。
ご丁寧に、一日で歩ける範囲まで書き込まれてあった。
目の前に展開された情報を、しばし吟味する。
特に、周辺マップが示すある一点に着目した。
「インデックス、この、村を示す表示は?」
第六開拓村と表示されているその場所に、人、店、食料、水、寝床などはあるのか?
色々と聞いてみれば、寝床だけはあるのだと言う。
そして、人はいない。つまり……。
(廃村……なのかしら?)
その村に今は魔物はいないということなので、まずは森の中の村を目指すことにする。
「《飛び出る魔物図鑑》、起動」
MPのほとんどを消費して、昨日召喚した鉄のナイフと革の防具のゴブリンを五体召喚。
二体を前に、右、左、後ろに一体ずつ配置して、森の中へと歩を進めた。
※※※
行程は順調。
召喚したゴブリンが魔物を倒しても、わずかに経験値は入るらしく、ほっといても勝手にレベルが上がっていく状態になっていた。
ただ、それだとスキルのレベルは上がらないので、適度にMPを消費しておく。
……数分歩けばゴブリンが出てくるような状況なので、段々うんざりしてきたのだけれど。
そんな時だった。前衛のゴブリンが茂みの中へ突撃し、そのうちの一体が私に向かって吹っ飛ばされて来たのは。
そして、前と後ろの茂みの中から、ぐしゃり、と何かが潰されたような音。
二体のゴブリンが、あっという間に倒されたのだった。
僅かな間をおいて、のそりと茂みから姿を現したのは、豚人間、オーク。
2m近い身長と、体重200kgを越えていそうな巨体。
肌の色は、豚に似た肌色。腰には汚い布切れを巻いている。
ゴブリンを蹴り飛ばし、踏み潰したのであろう右足は、血に染まっていて。
私の姿を見つけるなり、ニチャアと気持ちの悪い嗤いを浮かべた。
……うん、キモい。ムリ。
「《ダブル》《ウォーターボール》《アースボール》」
今の私に出来る全力。二種の魔法の二連発。これが、通じなければ……。
そんな懸念は、不要だった。
むしろ、オーバーキルだったようで。
二発当たった段階で倒せていたみたいで、私のレベルが高いのか、《賢者》のジョブが強いのか、魔法が強いのか、オークが弱いのか、判断が付かなかった。
これで終了、と思いきや、無口な妖精は別の魔物の接近を知らせてくる。
ドスドスと重い足音を響かせて走り来るのは、二体のオーク。
余裕を持って倒すために、覚えたばかりのLV2の魔法を叩き込む? それとも、少し待って《リキャストタイム》の終わったLV1を撃ち込む?
僅かに迷い、先にゴブリンをけしかけて時間を稼ぐことを選択。LV2の魔法を起動して……《キャストタイム》が長い!?
ゴブリン三体では僅かな時間も稼げず、文字通り蹴散らされた。
(……オーク二体。一撃で倒せないなら、色々覚悟する必要があるわね……)
今まさに、LV2の魔法が発動する、その瞬間。
「《イカサマ》《ダイスロール》《トリックスロー》」
一体の頭にはナイフが突き刺さり、
「当たれっ!」
「《ウォーターボール》」
もう一体には、木の矢と水球が当たって、それだけでは倒せなかったので、LV2の魔法 《マッドショット》と《ウォーターアロー》が突き刺さった。
ほぼ同時に、肉の塊や皮、魔石へと姿を変えるオーク。
……助かったのは確かだけれど……。
「よう、危ないところだったじゃないか、ご同輩?」
作り物のような笑顔を張り付けた、胡散臭い黒髪の少年と、
「だ、大丈夫ですか?」
少年とは、少し距離を取っているようにも見える、腹や手足を露出した茶髪の少女と、ローブ姿の茶髪の少女、
『アハハ、オークも一撃! ユウはやっぱり強いんだあ!』
少年に寄り添う、何が面白いのか? ケタケタ嗤う女性型の妖精という組み合わせは、なんとも胡散臭く。
助けられた礼より先に、顔がひきつるのを自覚した。
……この人間、ボクがいないと、なんも出来ないね……。
ふふん♪
……無口な妖精、インデックス