第三十九話:閑話:勇者 ユーノ
勇者といっても最初はみんなLV1。
あたしがしっかりしなくちゃね!
……若き妖精 ファウ
冒険者部隊、正式名称《先遣隊》のリーダー、ダクから聞かされた話は、なんとも信じがたいものだった。
冒険者は、いくらでも代えの利く使い捨て。
特に、中級から低級はそんな扱いが普通なのだという。
その上で、森で魔物が増えて外へ溢れ出す《大氾濫》は、街の人口を調整するいい機会なのだという。
街に人が増え過ぎれば、仕事が失くなり、住む家を追われ、浮浪者としてスラムへ流れ、治安や衛生面の悪化を招く。
だから、街を治める領主の貴族は、低所得者の街人に冒険者への志願を斡旋している。
街で稼げなければ、森へ行くしかなく。
森で稼ぐには、魔物と戦って生き残るか、こっそりと逃げて隠れるしかなく。
負けた者、逃げきれなかった者は魔物の餌となる。
増えた魔物の《大氾濫》が起きれば、守備隊が命懸けで食い止めるが、その最前衛は、スラムの浮浪者たちを強制的に連れてきて戦わせるのだという。
そんな風に、勝手に増えた人間を、森の魔物が勝手に減らし、その魔物を街の守備隊が減らし、領主秘蔵の騎士団がトドメを差して、くだらないちっぽけなプライドを守っているのだそう。
……って、街を守るんじゃなく、プライドを守っているのかよ!?
そんなわけで、俺たち《先遣隊》は、全滅することで街に危機を知らせ、重い腰の守備隊を動かすための決死隊。つまり、生け贄なのだという。
そして、三人の女性陣は、男性陣の壊滅を確認したら全力で撤退し、街に危険を知らせる任務を請け負ったのだという。
先ほどの、女性を好きなように発言は、別れを済ませることと、最後にいい思いをしておけという年長者の気遣いにして余計なお世話。あとは、俺を撤退組に組み込んだ証拠とか。
つまり、撤退組も無事に逃げ切れるとは限らない、別れと再会の約束をしておけ、ということだそうだ。
……ふざけやがって……。
今の俺の心は、怒りと反発心に満ちていた。
「ダクさん、今から俺をちょっと鍛えてくれ。お代は、あんたたちの生還でどうだ?」
ガキが生意気にニヤリと笑ってみれば、親子ほど年の離れたオッサンもまた、面白そうに笑った。
「いいだろう。今夜は寝かせんぞ? 覚悟しろ」
……ベテランからのありがたい特別授業は、学ぶことが多すぎて、マジで寝てる暇なんかなかった。
とりあえず転がされて、尻の穴付近を靴の爪先で蹴るのだけは、勘弁してもらいたかったけどさ……。
※※※
五日目。
朝までオッサンとくんずほぐれつ……最後の方は、素手の格闘戦と関節、寝技と、二人して寝不足の頭でぶっ倒れるまでヤりあった。ラりアッた。じゃなくて、ラリアット。最後は、同じ技でダブルノックアウト。明るくなって水ぶっかけられるまで寝てた。
……拠点の外で。
目を覚ますと同時に、危険な外で朝まで殴り合うとか、アホか!? と説教される。
……うーん、解せぬ。一応、安全地帯の内側だったんだが……。
ダクさんと二人してボコボコになっていたので、見かねたポーターの人がポーションを取り出すが、逆に俺がアイテムボックスからポーションを取り出し、全員に配る。
激戦を予想したファウが、素材を代償にトレードしておいてくれたらしく、傷を回復するポーションと、疲労を癒し体力を回復するスタミナポーションを一本ずつ配ることが出来た。
ファウにお礼を言って、オッサンと一緒にシャワーを浴びて、食事を取って、ダクさんの演説を聞いて気を引き締める。
いざ、魔物の領域へ……!
森に入ってからは3~4人のグループに分かれての探索になる。
基本的に、同じチームで組むのが普通なようだが、サーシャは俺と組んで、ダクさんのチームと一緒になった。
元々、幼馴染みでチームを組んでいたようだが、先日森で助けた時には、チームの男どもからゴブリンの群れに突き飛ばされて、身代わりにされていたのだと。……今聞いたよ、クソがっ!
仲間を見捨てるようなアホは、全く信用されないのはどこでも同じなようで、そのアホどもは、最前列の一番危険な場所に配置されていた。
で、俺たちは、前後左右を他のチームに守られる中央。
仮に全方位囲まれたとしても、最強のベテランチームが血路を切り開いて、撤退組を逃がすのだという。
普段は斥候を務める、ベテランチームの紅一点ナジャさん。
無口で、忍者みたいな服装にフードまで被っているアサシン……厳密にいえば、格下のシーフファイターだそうだ……の少女、ニア。
片手剣と小盾で、素早さを生かした戦闘をする軽戦士のサーシャ。
三人とも、見事に速度優先の装備で、鎧などの防具も最低限だった。
……今さらになって、不安になって来たよ……。
森での戦闘は、10~20体のゴブリンが基本の、小規模のものが多かった。
魔物の群れはファウが見つけてくれるので、先制攻撃が基本。
最前列のアホどもも、視界や足場の不安定な森での、本格的な戦闘を経験するいい機会だったようだ。
戦闘中は当然真剣だが、遭遇率の高さの割りに、小規模の部隊がほとんどで、上位種などは事前情報より大分少なかった。それでも、キングとは遭遇した。
『ゴアアアァァァァッ!!』
ゴブリンキングの咆哮をまともに浴びたが、《勇者》の基本スキル《ブレイブハート》で精神系状態異常に強くなっている今の俺には通用せず、ダクさんとの訓練で《剣術》と《格闘》のスキルレベルが上がっているためか、接近戦も負けてない。
いやむしろ、俺の方がわずかに早い!
「《牙斬り》! オラァッ!」
相手の武器を持つ手を斬り付けて武器を落とさせる技を打ち込み、丸腰になったゴブリンキングの腹に横蹴りを叩き込み、次の一撃でトドメを差すことが出来た。
大きく息を吐きながら周りを見渡せば、どこを見ても優勢で、敵は次々と数を減らしていた。
で、誰も見てないから、自分で勝鬨を上げる。
「ゴブリンキング、討ち取ったり!」
『エイ、エイ、オー!』
ノリノリなファウも一緒に声を上げた。
やがて、そこら中から勝利の雄叫びが上がり、多少の傷は負ったものの、全員無事で勝利を収めることが出来た。
更に、少数の手勢を連れたオークキングとも遭遇。
数に任せた一斉攻撃で、あっさり撃破。
俺は、オークキングとも一騎討ちをさせてもらい、パワーの違いに苦戦はしたものの、何とか討ち取ることが出来た。
※※※
日が暮れる前に森から離脱。また、ログハウス状の拠点を出して全員で休むことになった。
……サーシャを見捨てたアホどものことは外へ蹴り出したかったが、明日も森へ入って戦うからとダクさんから説得されて、渋々受け入れる……いや実際は、渋る真似してるだけだけど。
オークは、でかい。そして重い。
大量の肉を抱えて戦闘なんか出来ない。
だから、普通は必要な分だけ採って、残りは埋めて来るのだという。
……なんと、もったいないことか!!
その点、俺にはアイテムボックスがある。
今日これまでに倒したゴブリンもオークも、丸ごと確保できている。
さらに、あとで解体して素材を採れば、それなりの金額になるようで、街に帰還できるようになったら、まずはオークを解体。冒険者ギルドを通じて売って、現金を山分けとなるらしい。
つまり、今の俺は大事な金づる。ちやほやされるわけだ。
……というのは、夢幻のようだ。
ダクさんのチームのポーターの人が、
「メシにするからオークを出せ。解体して肉にする」
と、命令口調。悲しいけどこれ、現実なのよね……。
実際のところ、彼らは全員、今日死ぬために森へ来たため……一部、そんなこと聞いてないとぬかしてるアホどももいたけど……食料が残り少ないとのこと。
……つまり、街に戻るまで肉中心の食事になるらしい。
ワォ、ワイルド。
と、おどけて肩をすくめて見せれば、
「あ、あたし、下手くそだけど、料理頑張るから!」
「……ウチも、頑張る……」
サーシャとニアが、胸の前で両手を握りしめている。必死な表情が、なんか可愛い。
『魔石を取り出したゴブリンなら、トレード出してもいい?』
と、ファウが聞くので。
「なあ、あんたら。ゴブリンが豪華なメシに変わるぞ!」
と、発破掛ければ、
「「ウオオオォォォォォッ!!」」
野郎共の野太い雄叫びが返ってきた。
うまいメシのために、解体作業が始まった。
……どうしよう? この人数食べさせるには、ゴブリンじゃ足りないよぉ……。
かといって、オークはお金になるから、生ゴミしか出せないし……。
手に入る武器は、基本壊れてるし……。
お願いヤタ、交換のレート下げてぇ……。
……若き妖精 ファウ