第三十八話:閑話:勇者 ユーノ
幼馴染みで親友の二人と会えないことが、こんなに心細いとは思わなかった。
アキラとシオリに、会いたいな……。
……《勇者》ユーノ
森で冒険者の少女を助けてから、街まで案内され徒歩半日以上。
街に着いてからは、準備期間というので一晩明かし、三日目には冒険者ギルド……やっぱりあった……へ顔を出し、森で発生しているゴブリンやオークの大部隊を迎撃、というか、森へ逆侵攻する予定の冒険者たちに参加を表明しにいって、アキラやシオリなどの妖精を連れている人物の情報を集めてみるも、空振り。それもあるが……。
「これ、必要ですよ。水は絶対に必要です」
今は、森で助けた少女、サーシャに教えてもらって、冒険者に必要なものをかき集めている。
両手をフリーにするためのリュック、水を容れる革袋、財布用の小さめの袋、素材を回収して小分けにしておくための袋、雨をしのぐためのマント、木のコップやスプーンに皿、マントや食器をまとめておく袋、鉄の鍋、採取用の小さいナイフ、他にもたくさん。……いや、袋多くね?
言われるがままに買い集める。
一応、アキラとシオリの分も。
ログハウス状の拠点は、ベッド、テーブル、イスなど最低限の家具はあったが、食器や予備の毛布やシーツなど、買い足さなくてはならないものも結構あった。
カマドがあるのに、ヤカンや鍋がないとか。どういうことだよと思ったりもした。
けど、サーシャのおかげで足りないものは無さそう。
数人分の食器を買ったときは、なんか変な表情だったけど。
その顔が気になったから、「今ははぐれて居ないけど、仲間の分」と言えば、納得していた。
あ、そうだ。小さい鍋を買い足して、食料を買い込んでおこう。
料理のイロハも知らないドシロウトが生産した食事モドキを、無心で食べるのはもう嫌だからな。
サーシャに聞いてみれば、食材さえあれば、簡単なものは作れるという。
……愛人になってくれないかな?
いやその、嫁は、シオリにお願いしたい。
……何年か前に、一回フられてるけどな……。
※※※
四日目。ベテラン冒険者数人を含めた、二十三人の侵攻部隊に参加した俺とサーシャは、妖精を連れていることは珍しがられてよく話しかけられたが、ベテランのオッサンたちの共通の話題に辟易していた。
……まあその、なんていうか、あれだ、下ネタ。
昨夜はサーシャとなんかあったのかとか聞かれたが、別々の部屋だったよ、と言えば、詰まらなさそうに離れていったり、聞こえるように舌打ちしたりするものまで居た。
……なんなんだよ?
サーシャもまた、年上の女性冒険者に話しかけられたりしていたが、なぜか慰められているようだった。……なぜだー?
その日の夕方には森の手前まで着いたが、今日はここで夜営をするのだという。
まだ明るいうちから食事を取って、3~4人ずつに分かれて交代で夜番をするという。
食材や鍋は、ポーターと呼ばれる職業の、大きな登山リュックを背負った人が持ってきているらしいし、見張りの数人を除いて、全員で楽しみながら料理……というよりは、適当なごった煮? を作って食べるのだという。
何かいい食材がないか、妖精のファウに聞いてみれば、オーク肉の塊があるという。
倒した覚えはないけれど、解体済みの肉を、トレードでもらったとか。
肉を二十人分となると、どれくらいなんだろ? 適当な塊をアイテムボックスから出すと、随分と驚かれた。え? なんで?
ベテラン冒険者たちが、代わる代わる口から唾を飛ばしながら話すから半分は聞き取れなかったけど、そのベテランと同じパーティーの女性……きれいな大人のお姉さんだった! ……がまとめていうには、
・フリースペース(アイテムボックスの劣化版)のスキルを使えるものは、貴重。
・フリースペースのスキルがあれば、上級の冒険者や商人や騎士団など、引く手 数多
・冒険者が数日掛ける場合、荷物を減らすために食事は日持ちする固いパンや干し肉、干し野菜と水くらいが基本。新鮮な野菜や果物、調理が必要な生肉とか、普通食べられない。
だそうな。
鍋なら、盾や兜の代わりになるし、水を汲んで湯にすればなんにでも使えるから、持っていく人も割りと居る、とも言っていた。
……それならさ?
ログハウス状の拠点を出して、全員を招く。
拠点の周囲は安全地帯になるので、魔物は立ち入れない。見張りも必要ない。
そう説明すれば、皆喜んで中に入った。
備え付けのテーブルやイスを片付けて、床に座って食事を取る。
それぞれ持ち寄った固いパンと、干し野菜とオーク肉のスープ、オーク肉の串焼きというメニュー。
俺よりでかい人たちが多いのに、そんなんで足りるのかな? と、街で買い漁った焼き立ての黒パンを出してやれば、大層喜んでいた。
……まるで、最後の晩餐だ、とでも言いたげに。
食事が終われば、三人だけの女性陣からシャワーだけの風呂。
タオルは自前で何とかしてもらう。
風呂も終われば、女性陣は二階の一部屋へ。
男性陣は一階で雑魚寝。
みんなそれぞれ、マントや雨避けのシートにくるまって、思い思いの場所で横になる。
俺だけは、食事、寝床、湯浴みの提供者として、二階の部屋で寝る権利をもらった。もちろん、女性陣とは別の部屋で。
その際、女性三人を、好きに抱いていいと言われたが、キレぎみに断った。
そんなつもりで拠点を使わせてるんじゃない! とな。
同じクエストを受けた女性のことを軽視するような発言をしたのは、ベテランチームのリーダーの男性。
ダクという名の、全体の指揮を取っているこの男性は、俺の親と同じくらいの年齢のように思える。
人並みに親を尊敬している俺からすれば、親と同年代の男性は、目標にするべき大人だ。
そんな人から、まるで女性を物のように扱っているような言い方をされると、よく聞きもせずに反発してしまう。
……しかし、それもまた、事情あってのことのようだった。
「ユーノ、少し、外で話さないか?」
街を守る守備隊は、森まで遠征には行かないって聞いた。
街を守るために居るのに、街を手薄にしておくわけにはいかないって。
……それは分かる。だからって……。
なら、俺がみんなを守ろう。
この《勇者》のジョブは、そのために授かったと思うから。
……《勇者》ユーノ




