第三十五話:行かないで
……別に、黙っていてくれって頼まれた訳じゃないから、言ってしまってもいいと思うんだが……。
…………中位妖精 先触れ:ヤタ
「……んー?」
朝、目を覚ます。
なにか、違和感を感じる。これ、少し前にも感じたような気が……?
なんとなく、ログを見てみる。
「……あー」
覚えがないけれど、なぜか服とかたくさん作っていたみたい。
……なんで?
「ヤタ、いる?」
『おう、どうした?』
適当に声をかけてみれば、すぐに相棒の声。ちょっと安心。
「あのね、なんか……」
ログにあった、たくさんの服とかのことを聞いてみる。けど、なんか、はぐらかされてしまったみたい。ちゃんと答えてくれない気がした。
『なあ、ミコト。なんか腹減ったんだけど』
「あ、うん。すぐに作るね」
ヤタからの催促は、初めてかも。
でも、調味料が少ないと料理が限られてくるから、今日こそは、大豆からお醤油やお味噌を作れるか試さないとね。
『……うーむ、言うべきだろうか……?』
ヤタが何か言った気がするけど、引き戸の開閉音で聞こえず仕舞いだった。
※※※
解体したことでたくさんあるオーク肉と、拠点内に無限供給される塩を合わせると、ハムやベーコンが作れる。
けれど、挽いてない麦と種類の少ない野菜では、どうしてもレパートリーに難が、ね。果物が早く実が成って欲しいよ。
今日は、生産スキルで小麦を粉にして、オーク肉のベーコンを使って、朝からお好み焼きと、あとは野菜スープ。
味付けは塩だけだけれど、たくさんのキャベツとタマネギのおかげで、甘味もでて大変好評。
お好み焼きソースが出来れば、もっと美味しいんだけど。
ついうっかり漏らしてしまうと、妖精とワンコ二匹の目の色が変わった。
美味しいものには目がない三人……三匹? だった。まる。
さて、今日も騒がしい朝食だったけれど、一人だけ鬼気迫った表情で上の空……食べたら、美味しそうにほほが緩んでいたけれど……な人がいたんだよね。
「トールくん、どうかしたの? 美味しくなかった?」
どうしても気になって、聞いてしまう。なにか、思い詰めてしまっているみたいだし。そしたら、
「今日も、とっても美味しかったよミコト」
にっこりと笑うトールくん。
その笑顔は、とても演技とは思えない。
なら、なにが理由で、そんな苦しそうな顔をしていたの?
「ねぇ、ミコト。話があるんだ」
トールくんが、真剣な表情に戻る。
僕もつられて、唾を飲み込む。
なにを、言われるのだろう……?
「ミコト、きみに命を助けられておきながら、何の恩も返せていないけれど、ここを出ることを許して欲しい」
………………うーん?
「つまり、僕、捨てられるの?」
「どうしてそうなるんだっ!」
わっ、びっくりした。
急に立ち上がって大声出すから、びっくりしちゃった。
「じゃあ、どういうこと?」
ちゃんと、トールくんの目を見て、真剣に聞く。どんな答えでも、受け止められるように。
トールくんの語る内容は、信じがたいというか、信じたくないというか。
大森林と呼ばれる森で、魔物の大量発生が起きており、ゴブリンキング率いる大部隊が複数確認されたらしい。
その数、一つの部隊だけでも、少なくとも200。
ジェネラルとかナイトとか、通常のゴブリンとは格の違う強さを持つ上位種も、少なくとも10以上居るだろうし、一つの部隊にキングが複数いるケースもあるとか。
それに対して、現地人側は、ベテラン含む冒険者20人程度。
街を守る兵士たちは、森へは遠征しないし、他の冒険者は、報酬の少ない仕事はしないという。
……自分達の住む街の危機なのに!
そのなかでもトールくんは、自分が世話した後輩の女の子二人!のことが気になるってさ。
……僕のことをほっといて、その、女の子たちのところに行きたいってさ。
……むーっ!
「僕も行くっ!」
「今大森林では、複数のキングが同時に発生していて、100以上の部隊が複数動いている。とても危険な状態なんだよ。それに、ゴブリンやオークに、女性が捕まったら……その……た、大変な目に遭わされるんだ。ミコト、きみを、そんな危険なところに連れていきたくないんだよ。どうか、分かって欲しい」
少し困ったような、真剣で真摯な目と態度。
僕のことを、心の底から案じているって、すっごく伝わってくるんだよ。
だから、そんな優しいトールくんだから、死なせたくないって、一緒にいたいって思うんだよ。
どうか、分かって欲しい……。
「ううう……」
知らず、目に涙がたまる。
怯んだ様子のトールくん。でも、決意は固いようで。
「泣かないで、ミコト。おれは、必ず戻ってくるから。だから、泣かないで」
肩を抱いて、こぼれる涙を拭ってくれる。けれど、
「三日で戻ってこなかったら、おれのことは忘れて? 大丈夫。何日か前に戻るだけだから」
それは、別れの言葉に違いなくて。
……だから、
「やだ、行かないで。死んじゃやだよぅ……」
……だから、引き留めるには、抱き締めるしかなくて。けれど、
「……ごめんよ。許してくれなくていい。代わりに、忘れて欲しい」
……けれど、それだけでは、全然足りなくて。抱き締める手をそっと解いて、肩を押されて離される。
なら、どうすれば……?
『オホンッ。あー、二人とも。現状を解決する手段があるんだが』
その、手段があるのなら、飛び付かないわけがなかった。
ヤタ (あー、いちゃつくのは後にしてくれねーかな?)
ジョン (ふんふん、ご主人さま、泣かないでほしいワン)
メグ (くぅん。邪魔しちゃダメだワン)
ワイバーンの鱗 × 52 を消費して、各種防具を生産。
コボルト (ジョン、メグ)
獣牙の剣 → 飛竜爪の小太刀
獣牙の槍 → 飛竜牙の太刀
獣爪の手甲 → 飛竜鱗の手甲
獣爪の足甲 → 飛竜鱗の脚甲
毛皮の鎧 → 飛竜鱗の鎧
に装備変更。