第三十二話:閑話:勇者の場合
別のβテスターの場合。
勇者視点
『ダイブ・コンプリート。新たなエデンへようこそ。我々は、あなたの来訪を歓迎します』
新しいVRゲームを先行プレイ出来ると聞いて応募してみれば、見事当選。
義務や制約も少しあったけれど、気になるものでもない。楽しんでプレイして、感想を報告すればいいような感じだったから、なにも考えずにゲーム開始したものの……。
俺、勇乃進は、さっそくブルーになっていた。
というのも、普段からゲームに使う名前の『ユウ』が、既に使われていたから使えない、といわれたから。
アキラとシオリには、ユウでいくって言ってるしなぁ……。どうしよう?
名字をもじった『イクス』や名前の一部の『シン』を使ったときは、二人に見つけてもらえなかったこともあって、『ユウ』の名前は使いたかった……。
その時、ふっと思い付いたものがあった。
『ユウ』と同じように、自分の名前を使いつつ被らない名前。
『ユーノ』。これでいこう。
ゲーム開始すれば、すぐに妖精がサポートしてくれて、戦闘もこなし、スキルも使い、拠点で傷んだ武器も直して、
……まあ、その、食事だけは、自分で何とかした。
ファウと名付けたこの少女型の妖精はまだ若い個体だそうで、生産は苦手と自分で言っていた。
けれど、彼女の明るい性格は、アキラやシオリと合流できなかった俺の、確かな癒しとなっていた。
「おやすみ、ファウ。良い夢を」
『おやすみっ、ユーノ!』
※※※
さて、二日目。
今日は、森へ行ってみることにした。
大分遠いようだけど、周囲には草原しかない。
草の中にはなにか素材もあるのかもしれないが、そもそもファウが生産は苦手としている。俺も、なにか作るのは苦手だ。
なので、やることは、遠くの森へ行くことくらいしかないのだった。
……で、拠点はどうするのか? という話になったのだが……。
「《収納》」
『……ええーーっ!? 拠点って、アイテムボックスに収納できたのーーーっ!?』
できたみたいだ。
ログハウス状の拠点。
リビング、キッチン、トイレ、浴槽の無いシャワーだけの風呂、二階に、鍵のかかる個室が二つにトイレ。
2~3人で生活するには、十分な広さだった。
俺と、アキラと、シオリの三人なら、十分。
……まあその、三人とも、料理とかできないんだけどな。
その点だけは、心配。
いやいや、絶対安全な拠点を、移動先へ持っていけるのは大きなメリットだ。
※※※
……で、10分後。やって来ました。森の前。
徒歩で一日はかかるとファウは言っていた。なのになぜ、10分で森の目の前にいるのか?
それは、
『ほんとは、いけないことなの。だから、内緒ね?』
妖精の、ファウの能力のようだった。
遥か遠くの森へ。移動は徒歩。
挫けないか。それだけが心配だったが……。
実際のところ、移動は一瞬だった。
……ま、まあ、気を取り直して、森へ。
※※※
森での戦闘と採取もこなし、適当に昼食も済ませ、エンカウント率の低さから、森歩きにだんだん飽きてきた頃のこと。
突然、ファウが耳に手を当て、辺りの様子を伺いだした。
『ユーノ、魔物だよ! 10体くらいの群れ。大丈夫?』
「よしきた! 片っ端からぶった斬ってやるぜ!」
ファウの案内で森を駆け抜け、魔物の群れに飛び掛かり、
「ツインスラッシュ!」
剣術スキルLV1から使える技、《アーツ》を起動。
通常より早い速度での二連撃。ゴブリン二体が光の粒子へ変わり、ドロップを落とす。
……で、固まった。
俺も、ゴブリンどもも、ゴブリンに組み敷かれている少女も。
『……うーん? ユーノ、どうするの?』
「た、助けてくださいっ!」
「あ、ご、ゴブリンども、その子を解放しろ!」
呆れた様子のファウの言葉で、少女、ゴブリン、俺の順で我に返る。
なんたる失態か!
ゴブリンどもは、せっかくの獲物……獲物? を奪われまいと、少女を押さえ付けている三体を除いて、残りが前に出て壁になるが……
「甘いぜ、《ワイドスラッシュ》!」
武器の長さの数倍の範囲を攻撃できるアーツを繰り出せば、ゴブリンの壁ごとき一撃で光の粒子へ変わる。
あとは、
「《ファストトリック》!」
超高速で移動するアーツで一気に距離を詰めて膝蹴りを叩き込み、
「《ストレート》!」
武器を持たない左手で、ストレートなパンチをぶち込み、
「これで終わりだぁっ!」
最後の一体を剣で貫けば、あっという間に掃討完了。
あとは、少女を助ければ……。
「み、見ないでください……」
……ごめんよ? バッチリ見ちゃった。
……いや、さ、その、無事を確認するためだったんだよ? わざとじゃないんだ。ほんとだよ?
The DO ・ GE ・ ZA ☆
日本人の謝罪の最上位、土下座をして許しを乞う。
「きみの気が済むのなら、蹴りつけてもいい。踏みつけてもいい。好きなようにしてくれ」
「……え? あ、あの……」
少女の、戸惑いの声が聞こえる。けれども。
「きみが許してくれるまで、頭を上げるつもりはない。さあ、気の済むまで、何度でも、語彙がなくなるまで罵りつつ、踏みつけてくれ! それで、きみの気が済むのなら!」
『……ねぇ? ユーノ? ……混乱してるの? ゴブリンになんかされたの?』
心底呆れ果てた、ファウの声。
結局、少女が、
「命の恩人を踏みつけるなんて……。どうか、許してください……」
と、泣きべそかきながら土下座したところで、俺の土下座は意味を成さなくなった。
・クエスト: 魔物の領域に進入しよう ……crear!
・クエスト: 現地人(NPC)と接触しよう ……crear!
・緊急クエスト!: 現地人(NPC)を救出しよう ……crear!
・クエスト: 現地人(NPC)との好感度を高めよう ……crear!
・シークレットクエスト!? : ラッキースケベを発生させよう!? ……sineyarh!!