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Another Eden Online  作者: 平民のひろろさん
1ー1 第一次βテスト
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第三十話:閑話:初心者冒険者二人組の話

 田舎者だけれど、女にだってプライドがあるんだ。

 あんなやつなんかに、頭下げたりするもんか!


 …………ソナ村のカティ

 十五歳となったカティとティアは、村を出て最寄りの街へと行き、冒険者となった。




 田舎村ではあるけれど、裕福な暮らしをしてきたあたしとティアの二人は、毎日毎日同じことを繰り返す日々に飽きていた。


 春に畑を耕し、

 夏に川と森の恵みを集め、

 秋に実りを収穫し、

 冬は縄を結う。


 毎日毎年、同じことの繰り返し。




 田舎村では、成人となる十五歳になれば、女は村長の選んだ男のものになる。

 そうでなくとも、成人となった段階で相手がいない女は、訳有りということにされる。

 それは、家の恥となる。

 だから、村長に先んじてあてがう男を親が決めるのが習わしだった。


 村での生き方に飽きていたのは本当。けれど、親に恥をかかせるような仕事はしてないつもりだった。


 ……だというのに、親が選んだ男は、女を物のように思っている、最低の男だった。

 女に言うことを聞かせるために、暴力を振るうようなやつ!


 あたしは、あたしたちは、あんなやつに組み敷かれるために、踏みつけられるために生きてきた訳じゃない!


 だから、あたしは、一番の親友のティアと一緒に、田舎村を出て、街へ行く決意を固めた。


 もう、二度と帰るまい。


 ティアと二人、くそったれな故郷に別れを告げ、いざ、新天地へ……!



※※※



 街での生活は、金がかかって大変だったけれど、とても充実していた。


 日銭を稼ぐために、あたしたちはまず冒険者ギルドに顔を出した。

 故郷の村にはたまに冒険者が来ていたけれど、いいことばかり聞こえてきて、結局何をするものかは分からなかったけれど、自由があった。

 今日とは違う明日があった。

 毎日、違う仕事をしても良かった。

 少しの金を払えば、適性を調べた上で、冒険者ギルドの先輩から稽古をつけてもらうことが出来た。


 あたしは、弓とナイフ。

 ティアは、杖と魔法。


 稽古をすれば、少しずつ上達するのがわかった。


 あたしは、矢を射れば的に当たるし、ナイフを振るえば筋が良いと誉められた。


 ティアも、杖での接近戦と、魔法! 魔法だ!

 特別な才能が必要とされる、魔法。

 ティアは、そんな、特別な才能があったのだ。


 あたしは、自分のことのように喜んだ。

 だって、親友にして相棒が、魔法を使えるんだ!


 冒険者としても引く手 数多(あまた)

 貴族に見初(みそ)められることだってあるかもしれない。


 また、違う明日が見られるんだ。


 こんなに嬉しいことはない!



※※※



 冒険者として日銭を稼ぎ、故郷の村での蓄えを切り崩して稽古をつけてもらう日々も、一ヶ月。


 見るもの全てが真新しい都会の風景に飽きたわけではない。けれど、そろそろ街の外での依頼を、討伐依頼をこなしてみたい。


 そんな欲求を、押さえられなくなってきた。


 それは、ティアも同じのようで、最近あたしにうかがいをたてるような視線を送ってきている。


 今日とは違う明日が見たい。


 二人の思いは、同じだった。



※※※



「話が違う!」


 紹介されたのは、赤い髪に赤い目の、同年代の少年。


 優しい目、穏やかな顔、年下の娘相手に丁寧な挨拶。

 どれをとっても、好感しか持てないような男の子。

 田舎者のあたしからすれば、くたびれた服装さえしっかりすれば、一目で惚れていたかもしれないくらい。

 顔立ちじゃない。背格好でもない。装備の良し悪しでもない。


 この人だ。この人が良い。


 一目見て、そう思った。

 それは、ティアも同じみたい。

 だからこそ、赤髪に赤目のその少年は、ダメだった。


 一目惚れした初恋の相手が、《汚れた赤》だなんて、断じて、認めるわけにはいかなかった。



 赤は、血の色。罪の色。

 赤目は、血に刻まれた、咎人(とがびと)の消せない烙印。

 赤髪赤目は、《汚れた赤》は、生まれながらにして、咎人の一族。



 故郷の村では、そう教え込まれて生きてきた。

 皮肉にも、決別した故郷の教えに、あたしは囚われていたんだ。

 だから……。


「あたしは、女の先輩を頼んだんだ! こんな、こいつみたいな《汚れた赤》なんか、頼んでない!」


 ……ざわっ。


 ギルド内の、空気が変わった気がした。それも、あたしたちにとって、悪い方向に。


「6年も冒険者やってて、ランクが2 !?それに、こんなボロい服着て、稼げてないって証拠じゃない! こんなやつに教わることなんか無いっ!!」


 ……なんも知らないで、バカなやつ。


 誰かがそう呟いた。


「……謝った方がいいと思う……」


 ティアもまた、小声で呟いた。


 ……分かってる。あたしが間違ってるって、分かってる。でも、受付の人は、女の人を紹介してくれるって、約束してくれたんだ。なのに、紹介されたのが、よりにもよって、《汚れた赤》の少年。


 ぎっ、と、なんの罪もないはずの少年を睨み付ける。


 怒って怒鳴って殴り付けて。そうやって、あたしの罪を罰して欲しかった。


 …………なのに。


「ナリエさん、やっぱり、今からでも他の人を紹介してあげた方がいいですよ」


「トールくん、あなた……」


「いいんです。そんな風に教えられて育つ人もいるって、知ってますから。おれは、気にしてません」


 気にしてないって言うなら、


「きみも、ごめんね? すぐに、もっといい人に変わってもらうから、少し待っててね」


 どうして、そんな寂しそうに笑うの?




 結局、ティアに説得されるかたちで、あたしは赤髪の少年を受け入れることとなった。あたしは膨れっ面のままで一言も謝らなかったけれど。



 あとになって悔やんでも、遅い。どうにもならない。

 そんな当たり前のことを、彼から教わることになるなんて…………。

 あたしはいったい、どう償えばいいんだろう?



 …………ソナ村のカティ

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[一言] まさかのトールくんの過去編でもあるとは!? 《汚れた赤》……、いったい……。
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