第二十四話:正義とは
金髪碧眼は王族の証。
贅沢を嫌い、華美を禁じ、質素を好み、されど、格は落とさず。
王族として、影ながら国を護り、導き、律しながら、世界そのものたる神に、精霊に、妖精に、祈りを捧げる。
その、祈りを捧げる彼らは、生き残った。
前期文明・ラグナの書 : 結の章、一の節
「お腹減っちゃったね。すぐ、ご飯作るから」
トールくんも手伝うというので、スープ用の野菜を刻んでもらうことにした。
これが、意外なほど手際が良かった。慣れているのかな?
助かっちゃうね。
さて、僕はというと、まずはスープ用の鍋を火にかけた。
ニンジンとか、火の通りにくいものから鍋に入れて、と指示したのち、アイテムボックスからオークのドロップ品である《高級豚肉》を取り出し、一枚ずつ厚くスライスする。
残りのブロック肉から脂身を切り出し、フライパンにかけて熱して、食用油の精製を試みてみた。
……そしたら、
「……えっ? なにこれ?」
フライパンを火にかけて三秒。ろくに暖まってないはずなのに、白い脂の塊が、透明な食用油へと変化していた。
「すごいね。これが生産スキルか……。ミコトは、《料理》のスキルを持っているの?」
トールくんの言葉に我に返り、肯定しつつ、まずは油を鑑定。ちゃんと精製できていることを確認出来たので、今日使う分だけ残して、厨房に備え付けの、プラスチック的な蓋付き透明容器に移し、改めてフライパンを火にかける。
スライスした厚切り肉に、手早く包丁を入れて筋切りっぽいことをやっておく。
フライパンが十分に暖まったら、豚肉をフライパンに投入。
じゅうぅぅ、と肉の焼ける音といい匂いが漂い、ついよだれが。
肉は一度に三枚焼けるけど、うちには食べ盛りが三人……妖精はどう数えるんだろ? 一人? 一体?一柱? ……三人いるので、間違いなく足りないだろうね。
フライパンをもう一つ出し、火にかける。
油を敷いて少し待つうち、最初の肉がいい感じに焼けたみたい。
……って、早いからっ!? ま、まあ、いいけど。
食いしん坊三人のことを考えてみる。
一人一枚で足りる? 無理無理。
トールくんも、どれだけ食べるか分からないし、一人最低二枚ずつかな? ……僕は、半分食べられるか微妙だけど。
とりあえず、二枚のフライパンで二回ずつ焼くことにして、最初のお肉は、一口サイズに切り分けて、皿に盛り付けてからアイテムボックスへ。
これで焼きたてを食べられるね。
さて、お腹もくーくー鳴ってるし、ワンコも舌なめずりの音が何度も聞こえてくるし、ヤタは無言で睨んでいるし……って、目力すごいなぁ。あ、トールくんもそわそわしてる。
もうちょっと待ってね。美味しく焼けたら食べましょう。
「……うーん、お腹が苦しい……」
麦ご飯と、野菜スープと、高級豚肉のステーキ。一人前食べただけでお腹一杯になっちゃった。
他のみんなは、ステーキ二枚をペロリと平らげていた。それでも、ジョンとメグはもの足りなさそうにしていたので、三枚目を出してあげた。最後の一枚も、ヤタとトールくんとで仲良く分け合ってた。
二人で食べてと最後の一枚を差し出せば、「どうぞ、妖精様」と笑顔で皿をヤタの方に寄せるトールくんと、そっぽ向きながら、『オレは、ヤタだ』と言って、皿を元の位置……二人の中間……に押して、さっさと食べていた。……自分の背丈より大きいフォークを、槍のようにふるって。
トールくんも「ありがたく、頂戴致します」と一礼してから、お肉を一切れパクリ。
うまーっ。
ヤタとトールくんの声が重なったりして、みんなにこにこ笑顔の食事は、楽しく終了した。
美味しいご飯は、正義だと思う。
国は、機能しなくなった。
身分は、意味をなさなくなった。
王は、貴族は、高みから引きずり下ろされ、全てを失った。
民は、食べ物を求め、魔物と化した。
人は、文明を忘れた。
人は、己のしたことを恐れた。
寒さに震え、夜に怯え、ひもじいと涙した。
それでも、人は生き残った。
僅かだか、生き残った。
自らの業を悔い、祈りを捧げたものだけが。
人は、自然に寄り添い、共に生きると誓い、祈りを捧げた。
繁栄を極めた、豊かで傲慢で愚かな時代が終わり、長く苦しい、再生の時代が始まった。
前期文明・ラグナの書 : 結の章、終の節




