第二十一話:汚れた赤
かつて妖精は、咎人共に呪いを掛けた。
前期文明・ラグナの書 : 転の章、一の節
『チッ……《汚れた赤が》……』
ヤタが、いきなり舌打ちする。
《汚れた赤》
その言葉を聞いた時、胸が締め付けられるような気分になった。
どこか息苦しさを感じるくらい。
「妖精さま? ……ならば、こちらの方は、使徒様!?」
少年が飛び起きて、ワイバーンのシートから這い出て、地面に膝を付いて土下座……ううん、平伏した。
:……なんで、そんなことを……?
「知らぬこととはいえ、とんだご無礼を……!」
地面に頭を叩きつけた少年の意図が分からず、しばし、無言で固まる。
「咎はこの身で受けまする。何卒、その怒りをお沈めください!」
何が起きているのか分からない。
呆然と、ヤタを見る。
すると、少年の方に顎をしゃくった。
こんな時に、なにさ、もう。
しゃくれてしまえばいいんだよ!
それにしても、この少年。
そんな態度は、気に入らない。気に入らないんだよっ。
「やめて」
僕自身、信じられないほど冷たい声が出る。
でも、しょうがないんじゃないかな?
僕は、目の前の少年を、命を、災厄に怯えさせるために助けたわけじゃないんだから。
「顔、上げて? お願いだよ」
少年は、恐る恐るといった様子で顔を上げる。
その、ルビーのような赤い瞳に、吸い込まれそうになる。
『……チッ! 赤髪に赤目。本当に汚れた赤かよ』
「ヤタっ!? もう、どうして、そんなっ!」
『少し黙ってろ』
忌々しい。そんな言葉が聞こえてきそうなほど、ヤタの言葉に負の感情が乗る。
ヤタは、口は悪くてもいい子。
そう思っていただけに、我慢できずに声を上げれば、叩きつけるような言葉が返ってきた。
何が起きているのか、分からない。分からないから、だから、今は黙って様子を見守ることにした。
『小僧、貴様らだ、貴様ら《汚れた赤》共がかつて何をしたのか、伝わっていような?』
威厳すら漂う、厳かな雰囲気。
この子はほんとにヤタ?
……そんなこと、聞ける空気じゃないなぁ……。
「しかと。千と幾年の昔、我らの先祖が犯した罪。それは、今の世にも、しかと伝わっております。それゆえ……」
死の覚悟すら決めた様子の少年。
その少年を、冷たく見下ろすヤタ。
ただならぬ雰囲気に、僕がごくりと唾を飲んだときだった。
『あー、ならいーや』
急に、いつものようにだるそうな口調になるヤタ。
「…………ふぇ?」
急に、態度が変わったヤタに、気の抜けた声が出る僕。
「…………えっ?」
急に、態度が変わったヤタに、バッと顔を上げる少年。
……ポカーンとした表情が、なんか可愛い。
『帰るぞ』
何から何までいきなり過ぎる。ちょっと文句言おうかな? と思ったところで、追加のお言葉。
『そろそろ帰らないと、日が暮れる。野宿したいのなら、こんな森のなかでボンヤリしててもかまわんがな』
「もう、ヤタ? 言い方っ」
つーんとそっぽ向いてしまう。
こりゃダメだ、と、まずは少年に向き合う。
「ねぇ、きみ? 僕の名前は、ミコト。きみの名前、教えてくれないかな?」
主犯と、実行犯。より罪が重いのは?
前期文明・ラグナの書 : 転の章、二の節




