第二十話:膝
状態:失血 → 睡眠
「……はぁ、良かった……」
少年の状態が回復して、ようやく一息つける。
ヤタに頼んで、ワイバーンの翼膜から大きなシートを作り、少年をそっとシートの上に移動。
《洗浄》を掛けて二人とも綺麗にしてから、なんとなく……ほんとになんとなく……少年の頭を膝の上に乗せる。
長めの前髪をそっと撫でて少年の顔をじっと見つめる。
年齢は、僕と同じくらいに見える。
身長は、平均くらいかなぁ? 僕よりは高いみたい。
体重は……痩せぎみだなぁ。ちゃんと食べてるのかな?
髪の毛、綺麗な赤毛だけど、ちょっと痛んでるのかな?
服は……元々粗末な布の服みたい。ボロボロになっちゃってるから、一応《付与・自己修復》を掛けとこう。
視線があちこち彷徨って、最終的に顔に戻って、吸い寄せられるように唇を見て。
指で、少年の唇にそっと触れて。
その指で、僕の唇をそっとなぞって。
……さっきの、《医療行為》を思い出して、またドキドキして。
……もぅ、このままだと、心臓がどうにかなっちゃいそうだよ。
なにか、別のこと考えよう。
……そうだ、使ったポーションは……全部で10本。
人一人救うのに、ポーション10本……。
たくさん使ったなぁ……。
ううん。命には代えられないね。
ヤタが言うには、もっと上級の回復魔法なら、足りない血を補う必要なんかなかったってさ。
それに、もっと上級のポーションなら、肺に入っても問題なかったってさ。
上級どころか、中級のポーションを作る素材も手元にはないって言うから、僕のしたことは間違いじゃなかったみたいだね。
……うーん……。またドキドキして来たよ……。
「すー、はー。すー、はー」
胸に手を当てて、深呼吸。
ドキドキが膝から伝わらないといいけど。
『そいつが目を覚ますまでここにいるつもりか?』
ヤタがちょっと不機嫌そうに尋ねてくるけど、ついさっきまで死にかけてた少年だよ? まだ動かせないでしょ。
『つまり、暇なんだな。MPが回復したら装備に付与をしろ。そらっ』
がちゃがちゃがちゃ。
わーお。
目の前に、鉄製品と思われる装備が山のように積まれたよ……。
『ご主人さま、またオークが近付いて来てますワン』
「……またなの……? もう、サクッとやっちゃって……《装備付与》っと」
しっぽを振りながら、二体のワンコが飛び出していく。
で、ブタの断末魔が聞こえてくるわけで。
すぐに二体のワンコがしっぽ振りながら戦利品を抱えて戻ってくる。
ワンコの頭を撫でてから獲物を収納。
MPを確認して、回復したら装備に付与。
そんなことを何度か続けた後の事。
「……う……。……えっ? ……天使……?」
なんのことでしょう?
「ねぇヤタ? この鉄製品、どうしたの?」
『他のプレイヤーからの依頼品だ』
「僕に依頼が来たの? どうして?」
『他のプレイヤーのうち何人かは、戦闘しすぎて拠点に帰る前に武器が壊れたんだと。バカだよな』
「……つまり、僕より戦闘しまくった人がいたんだね」
『ミコトの初日のなんて、可愛いもんだぜ? 昨日だけで千単位殺りまくったアホもいたみたいだからな。最後は武器が壊れたから拳でいったみたいだぞ。控え目に言って、狂ってるな』
「……。(どうしよう。ヤタの気持ちが分かるかも)」