第二話:キャラ、メイキング出来ない
楽園へようこそ。
『ダイブ・コンプリート。新たなエデンへようこそ。我々は、あなたの来訪を歓迎します』
電脳世界へのフルダイブは、明晰夢で目を覚ます感覚に似ていると言う。
夢の中で目を覚ますとか、正直よく分からないけれど、目を覚ます、という感覚は何となく分かった。
目に映るのは、灰色の世界。
辺り一面、何もない。
自分の身体も曖昧な、不思議な空間だった。
周囲を見渡してみるけど……。
『おーい、どこ見てるんだよ?』
女性の声とは違う、生意気そうな子供の声。
どこよ? とキョロキョロと声の主を探してみるけど、やはり何も……?
『おい、無視すんなコラ。お前の目の前にいるぞ』
目の前?
改めて、正面を向いてみる。
……で、視線を少し上に向けると、トンボのような透明な羽を持つ小人がいた。
…………うん、ちっさ!
『ようやくか。めんどくせーからさっさとキャラメイキングやるぞ』
ずいぶんと口の悪い羽虫だなー。やる気くらい出しなよ。
『……つっても、キャラクターは、事前にスキャンしたバイタルデータそのままだけどな。文字通りメイキングしたいなら、正式サービスまで待ってくれ』
うん? なら、自分の身体も曖昧なこの灰色の空間は、何のために?
『この灰色の空間は、制作中を表現するためにわざとこうなんだと。ぶっちゃけ意味ねーな』
……この羽虫とも、会話が成立してるのかな?
『正式サービスだと、種族や、身長、体重、体格、髪の長さや色なんかもここで設定するんだ。今はまだテスト段階だから、正式サービスまで待てって説明するだけの場所』
あ、そう。
そんなにめんどくさそうに話さなくても。
ため息吐きたいのはこっちなんだけどな。
この羽虫、チェンジしてくれないかな?
『じゃ、こっち。ついてこい。次に行くと、キャラメイキングの結果が反映されるから』
今はまだテスト段階だから、アバターは僕の姿そのままってことだね。
羽虫が指差した方向にスポットライトが当てられ、何もない空間に両開きの扉が現れた。
木製の扉は、どこか厳かな雰囲気を放っている。
その扉が、僕を歓迎するかのように音もなく開かれた。
なんか、いい……。
粋な演出に感動していると、羽虫が騒ぎだした。
『さっさと来いよグズ』
もう、うるさいよこの羽虫。空気読め。
ただいま準備中でございます。