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Another Eden Online  作者: 平民のひろろさん
1ー1 第一次βテスト
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第十九話:命(いのち)を、諦めない。

 きっとまだ、大丈夫。

「……うっ……」


 ボロボロの少年を見て、怯む。

 もう、手遅れなんじゃないかと。

 楽にしてあげた方がいいんじゃないかと。

 ……でも、HPが、ほんの少しだけ残っているし、状態も『死亡』になっていない。

 それなら、まだ間に合うんじゃないかと。

 間に合うのなら、絶対に、助けたいと、助けなきゃと、気持ちばかりが焦る。


「……ひ、《ヒール》。《ヒール》。《ヒール》」


 魔法やスキルには、再使用時間というものが存在する。

 一度使うと、次に魔法を使うのに多少の時間が必要になる。

《ヒール》なら、ほんの数秒。

 けれど、その数秒が、もどかしい……!


『《ヒール》は主にHPを回復する魔法だ。怪我を治すなら《キュア》の方が効果的だ』


「ヤタ、ありがとう。《キュア》、《ヒール》」


 回復魔法を連発して、相棒に指摘されて、ようやく気づく。

 闇雲に魔法を使っても、瀕死の相手には効果が薄い?

 どこを治せばいいのか分からないと、効果が薄い?


 ……なら。


「……《鑑定》……っ!」


 少年が受けた傷が、状態異常となって、ログに箇条書きされて表示される。


 手足に肋骨(あばらぼね)に頭蓋骨にと何十箇所もの骨折に、ほとんどの内臓の損傷。

 さらに神経の断絶とも出ている。

 状態は最悪だ。

 今まさに、少年の命の火が消えかかっている。

 けれど、そんなの関係ない。

 僕が、全部、治す!

 それを可能とする手段が、僕にはあるんだから!


『そうだ。ログには、生命に危険を及ぼす状態が上の方に表示されている。死んでなけりゃあ、今のお前でも必ず治せる。手札を全部使いきれ。ミコト、お前は何が出来る?』


 今の僕に出来ること。

 スキル《回復魔法》以外の手段。

 それは……!


「《付与・自動回復》、《付与・活力》、《洗浄》」


《鑑定》を使って少年の状態を観察して、気付いたことがある。

 HPと一緒に、スタミナも減っていた。

《ヒール》でHPが、

《キュア》でスタミナが、

 それぞれ少しずつ回復していたものの、出血に合わせてHPもスタミナも減っていたのだった。


 なので、まずはこれ以上HPとスタミナが減らないように継続して回復する《付与・自動回復》、《付与・活力》を掛ける。

 次に、外傷を直接確認するために一度スキル《洗浄》で血を洗浄して、患部を直接確認。《キュア》と《ヒール》に加えてポーションを身体に振りかけて傷をふさいだ。

 次に、《鑑定》を使いながら《キュア》と《ヒール》で骨と内臓の修復。

 ここからは、患部が直接見えないから大変。でも、やりきる……!


 時間もかかったしMPもギリギリだったけど、何とか間に合った。


 ……けれど……。


「傷は、全部治したのに……。どうしてHPが減り続けるの……!?」


《状態:失血》


 これだけが治らない。


『血が足りないか。ポーションは血の代わりになるな。肺に入ったら、普通に溺れて死ぬけどな』


 血の代わりに、と聞いて、ありったけのポーションを取り出して、少年に飲ませようとする。けど、肺に入ったら、と聞いて、僕の手は止まった。


 ……じゃあ、どうすれば……?




 思い付くのは、ひとつだけ。




 必要なのは、覚悟だけ。




 それなら、やるしかないでしょ。




 死なせたくないんだから。




 (ミコト)。それが、僕の名前だから!




 少年を慎重に抱き起こし、木に寄り掛からせる。

 木に背を預けて座る少年を見れば、ただ眠っているだけにも見える。

 けれど実際は、ゆっくりではあるけれど今もHPが減り続けている。



「…………よしっ」



 覚悟を決めて、ポーションを一瓶の1/3ほど口に含んで、

 少年の顔に手を添えて、上を向かせて、

 口移しでポーションを少しずつ流し込んでいく。


 喉が動いているのを見て安堵して、

 焦るな、と自分に言い聞かせつつ、

 残りを二度に分けて飲ませきった。




「……ふはっ、……はぁっ……はぁっ……」


 口移しなんて初めてだったけれど、意外と何とかなるものだね。

 手で口を拭こうとしたけれど、なんだか失礼な気がして、やめた。

 それより、少年の状態を確認しないと、と我に返る。


《鑑定》で少年の状態を見ても、ポーション一瓶では変わらないように思える。

 一応、HPは回復したけど。


 ガラスとは違う、プラスチックにも似たポーションの空瓶を見て、ため息ひとつ。


 いくら血の代わりになるとはいえ、一瓶100ミリリットルくらいしか入ってないのだから、あとどれくらい飲ませればいいのかな? と少し不安になる。


 ポーション、足りるかな? ……でも。


「…………よしっ」


 深呼吸して、もう一瓶。

 三回に分けて口移しで飲ませる。

 飲ませたら、《鑑定》で少年の状態を確認。


《状態:失血》があるうちは、同じことの繰り返し。

 諦めず、焦らず、慎重に。

 必ず助けると、強く想って。



 ファーストキスは、血の味がした。


 キスなんてしたことないから、ドキドキするよ……。

 でも、今は考えないようにしなくちゃ。

 人命救助優先。だよ。


 あ、そうだ。

 これは医療行為だから、ノーカンってことで。




…………ノーカン、って、ことで…………。




…………うぅ、意識したら、ドキドキしてきたよ…………。





・リザルト

・称号《諦めない心》を取得。

・称号《救命士》を取得。

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― 新着の感想 ―
[一言] 救急救命士だね! キス...。 あれ?ミコトって男?女?どっち?
[一言] おおー!ww こ れ は!ww ホントにノーカンにしちゃってよかったのかな?(ニヤニヤ)
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