第十九話:命(いのち)を、諦めない。
きっとまだ、大丈夫。
「……うっ……」
ボロボロの少年を見て、怯む。
もう、手遅れなんじゃないかと。
楽にしてあげた方がいいんじゃないかと。
……でも、HPが、ほんの少しだけ残っているし、状態も『死亡』になっていない。
それなら、まだ間に合うんじゃないかと。
間に合うのなら、絶対に、助けたいと、助けなきゃと、気持ちばかりが焦る。
「……ひ、《ヒール》。《ヒール》。《ヒール》」
魔法やスキルには、再使用時間というものが存在する。
一度使うと、次に魔法を使うのに多少の時間が必要になる。
《ヒール》なら、ほんの数秒。
けれど、その数秒が、もどかしい……!
『《ヒール》は主にHPを回復する魔法だ。怪我を治すなら《キュア》の方が効果的だ』
「ヤタ、ありがとう。《キュア》、《ヒール》」
回復魔法を連発して、相棒に指摘されて、ようやく気づく。
闇雲に魔法を使っても、瀕死の相手には効果が薄い?
どこを治せばいいのか分からないと、効果が薄い?
……なら。
「……《鑑定》……っ!」
少年が受けた傷が、状態異常となって、ログに箇条書きされて表示される。
手足に肋骨に頭蓋骨にと何十箇所もの骨折に、ほとんどの内臓の損傷。
さらに神経の断絶とも出ている。
状態は最悪だ。
今まさに、少年の命の火が消えかかっている。
けれど、そんなの関係ない。
僕が、全部、治す!
それを可能とする手段が、僕にはあるんだから!
『そうだ。ログには、生命に危険を及ぼす状態が上の方に表示されている。死んでなけりゃあ、今のお前でも必ず治せる。手札を全部使いきれ。ミコト、お前は何が出来る?』
今の僕に出来ること。
スキル《回復魔法》以外の手段。
それは……!
「《付与・自動回復》、《付与・活力》、《洗浄》」
《鑑定》を使って少年の状態を観察して、気付いたことがある。
HPと一緒に、スタミナも減っていた。
《ヒール》でHPが、
《キュア》でスタミナが、
それぞれ少しずつ回復していたものの、出血に合わせてHPもスタミナも減っていたのだった。
なので、まずはこれ以上HPとスタミナが減らないように継続して回復する《付与・自動回復》、《付与・活力》を掛ける。
次に、外傷を直接確認するために一度スキル《洗浄》で血を洗浄して、患部を直接確認。《キュア》と《ヒール》に加えてポーションを身体に振りかけて傷をふさいだ。
次に、《鑑定》を使いながら《キュア》と《ヒール》で骨と内臓の修復。
ここからは、患部が直接見えないから大変。でも、やりきる……!
時間もかかったしMPもギリギリだったけど、何とか間に合った。
……けれど……。
「傷は、全部治したのに……。どうしてHPが減り続けるの……!?」
《状態:失血》
これだけが治らない。
『血が足りないか。ポーションは血の代わりになるな。肺に入ったら、普通に溺れて死ぬけどな』
血の代わりに、と聞いて、ありったけのポーションを取り出して、少年に飲ませようとする。けど、肺に入ったら、と聞いて、僕の手は止まった。
……じゃあ、どうすれば……?
思い付くのは、ひとつだけ。
必要なのは、覚悟だけ。
それなら、やるしかないでしょ。
死なせたくないんだから。
命。それが、僕の名前だから!
少年を慎重に抱き起こし、木に寄り掛からせる。
木に背を預けて座る少年を見れば、ただ眠っているだけにも見える。
けれど実際は、ゆっくりではあるけれど今もHPが減り続けている。
「…………よしっ」
覚悟を決めて、ポーションを一瓶の1/3ほど口に含んで、
少年の顔に手を添えて、上を向かせて、
口移しでポーションを少しずつ流し込んでいく。
喉が動いているのを見て安堵して、
焦るな、と自分に言い聞かせつつ、
残りを二度に分けて飲ませきった。
「……ふはっ、……はぁっ……はぁっ……」
口移しなんて初めてだったけれど、意外と何とかなるものだね。
手で口を拭こうとしたけれど、なんだか失礼な気がして、やめた。
それより、少年の状態を確認しないと、と我に返る。
《鑑定》で少年の状態を見ても、ポーション一瓶では変わらないように思える。
一応、HPは回復したけど。
ガラスとは違う、プラスチックにも似たポーションの空瓶を見て、ため息ひとつ。
いくら血の代わりになるとはいえ、一瓶100ミリリットルくらいしか入ってないのだから、あとどれくらい飲ませればいいのかな? と少し不安になる。
ポーション、足りるかな? ……でも。
「…………よしっ」
深呼吸して、もう一瓶。
三回に分けて口移しで飲ませる。
飲ませたら、《鑑定》で少年の状態を確認。
《状態:失血》があるうちは、同じことの繰り返し。
諦めず、焦らず、慎重に。
必ず助けると、強く想って。
ファーストキスは、血の味がした。
キスなんてしたことないから、ドキドキするよ……。
でも、今は考えないようにしなくちゃ。
人命救助優先。だよ。
あ、そうだ。
これは医療行為だから、ノーカンってことで。
…………ノーカン、って、ことで…………。
…………うぅ、意識したら、ドキドキしてきたよ…………。
・リザルト
・称号《諦めない心》を取得。
・称号《救命士》を取得。