第百八十七話:奴隷
先輩エルフのキトーくんが連れてきたちびっ子たちにあいさつしたら、目をそらされちゃった。
眉がぎゅーっと寄っていくのを自覚しつつも、説明を求めてキトーくんを見上げる。
「このガキ共は、理由があって処分されそうになっていたところを、俺が買い取った奴隷だ。お前らに預けようと思ってな」
「…………奴隷」
「ああ。肯定しても、否定しても、返事するだけで教育と称して罵声と暴行を受けていたみたいでな。おかげで、ただ黙って視線をそらすのが一番マシだと学んじまったガキ共だ」
「…………なに、それ…………」
何気ない様子で語られる理不尽に、ぐっと手を握りしめる。
そんな僕を見た奴隷の子たちが、おびえてしまって、胸が痛くなる。
「こんなナリだが、捕まるような悪さはまだしてねぇようだ。さすがに、手癖の悪ぃヤツを預けはしねえ。他のヤツも真似するからな。……で、どうする?」
「…………どうするって、なにを?」
「こいつら、引き取るか? 引き取らねえならこっちで適当に処分す」
「引き取るよ。連れて帰ってうちの子にする」
キトーくんの「処分」の言葉に、奴隷だというちびっ子たちがビクッと反応するのを見て、即座に引き取ると言い放つ。
「で? この子たち、いくらしたの?」
そして、買い取ったと言っていたキトーくんに、言い値にプラスしてお金を渡す。
お金を面白くなさそうに受け取るキトーくんに、追加で紙の束を渡す。
「なんだこりゃ?」
「これは、護符と呪符。護符は貼り付けると付与魔法の効果で、呪符は敵に貼ったり敵に向けて念じると効果を発揮するよ。ものによって違うから、使い勝手を聞いてみたくて。……これ説明書ね」
作ってみたけど使う機会がまだない護符と呪符。
これを機に、他の人からの評価を聞いてみたいと思って渡してみた。
「ふーん……。まあ、使ってみるわ。使い勝手の良し悪しはどうしても主観になるが、評価は次に会ったときでいいな?」
「うん。お願いね」
態度から、期待してなさそうな雰囲気は伝わってくる。
さて、なんて評価されるかな。
キトーくんが去ってから、トールくんたちとちびっ子たちは冒険者ギルドへ。僕とミナトは奴隷だという子たちを連れて《拠点》へ戻る。
ミナトと協力してお風呂に入れてあげようとボロボロの服を脱がせると、体中に痛々しいアザがあったのと、背中に変な模様があった。
ヤタによると、変な模様は奴隷の印である奴隷紋なんだとか。
奴隷に奴隷紋を刻むことで、魔法的な力で強制的にいうことを聞かせたり、罰として模様を介して痛みを与えたりするのだという。
「なにそれ」
この模様、邪魔だなあ。消えちゃえばいいのに。
イラッとした気持ちを込めて奴隷紋に触れると、光とともにガラスが割れたような音が鳴り、奴隷紋が消滅した。
『付与魔法の応用による、外部干渉での奴隷紋の強制破棄か。あまり無理をするなよ。MPの消費が激しいし、正規の手順を踏まないと反動で奴隷が死ぬこともある』
「うぇっ!? そ、そうなのっ!?」
『まさかとは思ったが、やはり知らないでやったか。まあ、この奴隷紋は一般的なやつだから、奴隷紋に干渉できる者がそれなりのMPを込めれば破棄できる』
ああ、びっくりした。
奴隷紋が邪魔だなあって思って触って、相手が死んじゃったりしたら、さすがに嫌だよ。
その後も、ヤタに確認してもらいつつちびっ子たちのアザを回復魔法で、奴隷紋を外部干渉で消し去って、頭から足先まで丁寧に洗って一緒に湯船に浸かって、うちの子たちと同じ服を着せてあげて、遅めの朝ごはんを食べさせてからライラさんに事情を説明。今のうちに《拠点》にいるみんなに紹介した方がいいと言うので、今《拠点》にいるみんなを集めて、まとめて事情の説明と新入りの子の紹介。
まだちょっと、おっかなびっくりなところがあるみたいだけど、新入りの子たちに興味津々なちびっ子たちが話しかけると、緊張してた顔がホッとした感じになって、お互いに受け入れることはできそう。
ちびっ子同士、仲良くなるのは早いみたいだね。
良かった。ホッとしたよ。
あとは任せても大丈夫そうなので、新入りの子たちをぎゅーっとハグして頭をなでてから、ホームポータルで《北の街》の孤児院へ。
行ってくるねと手を振ると、遠慮がちに振り返してくれて思わずにっこりだよ。




