第百八十三話:王で父
「じゃあ、ありがたくいただくよ」
せっかく造ってもらったのだからと、遠慮せずに受け取ることに。
ひとまずはアイテムボックスに入れておいて、あとでトールくんやリンドくんに渡そうかな。
「ドワーフ王よ、発言よろしいだろうか?」
6本の属性持ち魔鋼剣をアイテムボックスに入れると、エルフのステラが片手を上げてドワーフ王に発言の許可を求める。
それに対して、うむ、と鷹揚に頷くドワーフ王。
「先日助けたドワーフの若者が、王の子かどうかは別としても、我らが助けたのに、里から追放したというのは、いささか。その点について、もう少し王の考えを聞かせてほしくてな」
「親子の問題について、他者が口を挟まんでくれ。……と言いたいところだが、助けた側の言い分も理解できる」
ちょっと困った様子のステラと、頑なな様子でありながらも、やっぱり困った感じのドワーフ王。
「どうせなら、無事を確認したかったであろうか。しかし、帰還したアレの口から出た言葉は、感謝などではなくそなたらの尊厳を傷つけるような口汚い罵倒であった。なにをどうしたらそれほど舌が回るのか、というほどに罵詈雑言を重ねたゆえ、妖精殿に問いただしたのよ。そなたらがアレをアントどもから救い出したそのときに、なにがあったのかを、隠れてアレの様子をうかがっていたであろう妖精殿にな」
一度言葉を切り、大きくため息を吐くドワーフ王。
その顔に浮かぶのは、強い失望と傷心、少しの諦念。
我が子をアレ呼ばわりだし。
「妖精殿は嘘をつけぬ。その口から発せられた言葉は、信じられないものであった。……信じられないほど、アレは、愚かであった……」
ため息を、またひとつ。
「ワシが王になったのは、ほんの数年前。それまでも、ワシは鍛冶に打ち込んで、アレの教育にはあまり関わってこなかった。仕事が忙しいと言い訳し諸々を妻に任せきりだった。……だとしても、時おり、手が空けば鍛冶の業を見せ、道理や礼儀や先人の教えを語って聞かせたものだ。そして、いずれなにをやりたいか、なにを成したいかを、よく考え心に定めよ、ともな。……間違っても、恩を仇で返すような恥知らずに育てた覚えはなかった」
王は、かぶりを振って、もうひとつため息。
「王として、父として、我が子を救ってくれたそなたらには礼を尽くしたいと思っておった。ゆえに、妖精殿を通じて呼び寄せたのであるが。しかし、アレがそなたらを見かけたならば、我らに語って聞かせた胸糞悪くなる罵詈雑言を、今度は命の恩人であるそなたらに、直接吐きかけたことだろう」
うーん……。あのときの言葉を思い出すと、胸焼けがしそうだよ。
酷かったもの。
「さすがにそれは、ドワーフという種族としても、その王としても、父としても、一人の男としても、許容できぬものであった。ゆえに、許せ、としか言えぬ」
王は、大きくうなだれて、大きなため息をもうひとつ。
その、哀愁漂う様子に、僕らもかける言葉がない。
……むーん……。なんだってまた、そんな風に育ったものやら?
「とはいえ、心配には及ぶまい。我らに寄り添う妖精殿は、常に子どもたちの味方だ。悪さをしてきつい仕置きを受けた悪ガキどものことも、決して見捨てぬ。ゆえに、アレを処して里の外に放り出したあとは、妖精殿が安全な場所まで運んだことだろう」
じろり、と王は自分たちの妖精を睨みつける。
敬意を持って接し、祈りを捧げる存在に向ける視線とは違って、とても強いものを。
それはまるで、余計なことをと怒っているようにも見えて。
そんな視線を向けられた妖精も、自分は悪くないとばかりにそっぽ向いてしまっている。
頑固おやじと甘やかす祖父とが、それぞれの主張をぶつけて、へそを曲げてるみたい。
なんだかなあ。
「…………どう、言えばいいのか、上手く言葉が出てこないが…………。事情は、飲み込めた」
そういうステラは、ぎゅーっと眉が寄っていて、いまだ戸惑いが強い表情。
「すまんな。……こんな話をしておいてなんだが、そなたらに一つ頼みたいことがある」
「……んー……。内容次第、かな?」
「内容はとても簡単だ。この地は《無限鉱山》の北側。そして、南側とは採掘できる鉱物が幾分違う。頼みとは、近場の採掘箇所から鉱石を採掘してきてほしいのだ。我らドワーフも定期的に採掘していて、数日後に大がかりな一斉採掘をするところだったのだ。その前にある程度素材を貯めておけたなら、採掘の規模を縮小できるのでな」
ドワーフ王からの頼みと聞いて、ちょっと警戒してしまうけれども、その内容は至って普通。
「こちらが求めるのは、今回の依頼でそちらが採掘した総量の半数。もう半分は自分たちのものとして持ち帰って構わぬ。こちらの取り分は里の備蓄に回すゆえ、必要な者が随時必要な分だけ消費する。少なくても構わん。クズの石ころなぞは要らんがな。ただ、宝石やレアな鉱石を見つけた場合は、取引交渉するかもしれぬ。そのときは応じてもらえると助かるな」
うーん? 思ったより、ずいぶんとゆるい依頼だね。
もしかしたら、この依頼も僕らへの報酬のひとつなのかもね。
でも、鉱石の量はたくさん欲しいだろうし、僕もたくさんあればなにかの役に立つと思うから、がんばろうか。




