第百八十二話:色着きの魔剣
妖精に促されて、ひときわ大きな工房のドアを開ければ、入り口近くにいたドワーフの男性は、怪訝な表情。それが、不審者を見る目に変わり、
『やあやあ、王の子を救った子たちが、呼び出しに応じてはるばるやってきてくれたぞい。王を呼んできておくれ』
ドワーフが口を開こうとした瞬間、妖精が嬉しそうに声を張り上げた。
……耳がキーンとなるような、鍛冶の鎚音に負けないほどの大声を。
それは、呼んできてと言っておきながら、自分の声で王を呼び寄せたよう。
その妖精の声に追い立てられるように、ドワーフが奥に引っ込み、少ししてから肩を落として姿を現す。
「……客人のみなさんには申し訳ねぇが、王は今手が離せなくて。ワシが案内するから、王のところまで来てもらえねぇか?」
本当に申し訳なさそうに言うドワーフに、ならついて行こうかと言おうとすると、また妖精が声を張り上げた。
『王よ! 客人が、来たぞい! 礼儀を尽くすと言ったのは、お前だろうっ!?』
「いやあの妖精さま、王は、礼儀ではなく礼を尽くすと言ったのであって、その礼をするために寝食を忘れて作業中なんですよ、ええ。ワシが今、客人を王のところへお連れしますんで」
こちらのみんなが、妖精の大き過ぎる声に耳をふさいで耐えていると、ドワーフが妖精をなだめて僕らを奥に促した。
『……チッ、うるせえなあ……』
ヤタ、口が悪いよ?
「王よ、お連れしましたぜ」
「…………ご苦労…………。……客人たちよ…………しばし、待たれよ…………」
工房を案内され、紹介されたドワーフの王は、僕たちを見もせずに言う。
今は、台に固定した砥石で剣を研いでいる最中だったみたい。
時折剣の様子を見定めては、じゃっ、じゃっ、と音を立てながら、無言で剣を研ぐドワーフの王。
その様子は、先ほど大声で王を呼びつけた妖精でさえも、声をかけることを躊躇するほど。
やがて、納得のいく仕上がりになったのか、何度も角度を変え真剣な眼差しで剣の具合を確かめた王は、剣を鞘に納めて台に置き、大きく息を吐いて、頷いた。
「…………ドワーフの里によく来た。ワシが今のドワーフの王だ。歓迎する。まずは、呼びつけておいて出迎えもせずに待たせたことを謝罪しよう。そして、アントの《ネスト》へ連れ去られるところだった我が子を救い出してもらい感謝する」
お腹に響くような低い声を出して、謝罪と感謝を述べるドワーフの王。
威圧感のあるその声は、本人の元からの性質によるものなのか、機嫌が悪いことに起因するものなのか。それとも、たんにお疲れなのか。
「……我が子?」
アントの《ネスト》でドワーフというと、アントの群れから救い出して麻痺毒を治したら、いきなり罵倒してきた恩知らずというか恥知らずというか、それしか知らないけれど……。
「うむ。妖精殿を通じて知ったことではあるが、家出して出戻りした我が子の詳しい様子を、妖精殿から伺ったことで判明した。無謀にもジャイアントアントの群れに挑み、あっさり負けて巣へ連れ去られようとしていた我が子を、そなたらが救ってくれたと。そして、そのときどのようなやりとりがあったかも、な」
あらら……。どこに反応すればいいか分からないくらいツッコミどころ満載だね。
「そなたらが去ったあとは、里へ戻ってきた我が子は、あろうことか、自分の足で歩かず妖精殿を呼び出して楽をし、あまつさえ、感謝の祈りも捧げないなど、あまりの醜態に、親子の縁を切りこの手で半殺しにして里から追放した次第」
うわぁ、過激だなあ……。そこまでされるくらいの態度って、いったい……?
「ともあれ、我が子を救ってくれた恩人に報いる必要があるため、我が技術をもって鍛えた武器を急ぎ支度していたところだ。受け取ってくれ」
ドワーフ王が手で促した先には、作業台の上に鞘に収まった状態で並べられた6本の剣。
鞘と柄の色が、赤、青、黄、緑、白、黒。
ふと、以前《拠点》で確認したランダム鉱石袋から出てきた色付きの鉱石を思い出す。
「魔力を帯びて変質した鋼、魔鋼をベースに、属性を付与する色鉱石を練り混ぜて鍛えた属性持ちの魔鋼剣6本。火、水、土、風、光、闇と各属性揃えた。魔鋼はミスリルに1歩も2歩も劣る金属だが、普通の鉄や鋼で造られた武具よりも威力や強度は数段優る。売れば良い値がつくだろうし、装備しても役に立つだろう。また、魔鋼はミスリルほどではないが、エルフの拒絶反応が出にくい金属でもある。やや短めに造ったゆえ、副武装としても使い道はあろう」
『ミコト、もらっておけ。オレが見たところ、ずいぶんと質が良いもののようだぞ』
「……それだけ良いものを、6本ももらっていいのかな……?」
ぶっちゃけると、ワイバーン素材の飛竜装備やミスリル製の装備には劣ると《鑑定》で出てるんだよね。
属性を持った武器はまだ少ないし、今の装備より劣るといっても要らないとも言えない雰囲気。
「これがワシの、子を救ってもらったことに対する誠意だ。そなたらはそれだけのことをした。受け取ってもらいたい」
頭まで下げたドワーフ王に慌てて頭を上げるように言ってから、6本の剣を受け取る。
・赤の魔剣 + 5
・青の魔剣 + 5
・黄の魔剣 + 5
・緑の魔剣 + 5
・白の魔剣 + 5
・黒の魔剣 + 5
各魔剣に付与されている効果は、以下の5種。
・属性付与(火、水、土、風、光、闇)
・装備性能向上
・攻撃力向上
・耐久向上
・劣化耐性
これらを、僕がよく使う装備付与も無しに、自分の力だけでここまで付与できるドワーフ王の技術力に驚きだよ。
本物の職人はすごい技を持っているなあ。
・属性付与 : 装備品に属性を付与する。攻撃や防御などで、付与された属性の影響を受けるようになる。
・装備性能向上 : 装備品の性能が全体的に向上する。
・攻撃力向上 : 武器の攻撃力が向上する。
・耐久向上 : 装備品の耐久値の最大値が向上する。
・劣化耐性 : 装備品の耐久値が減りにくくなる。
○色鉱石 (属性持ち)
: レッドストーン : 火属性
: ブルーストーン : 水属性
: グリーンストーン : 風属性
: イエローストーン : 土属性
: ホワイトストーン : 光属性
: ブラックストーン : 闇属性