第百七十四話:形見
《チェインクエスト:ご隠居のおじいちゃんが王都へ向かうので、護衛をしよう》clear!
プレイヤー:ミコトに対しクエストを依頼。
エルフの族長からの書簡を国王陛下の元へ届けるために、ヘンリー・ナイツ元伯爵が王都へ行くことになった。
道中の護衛をしてもらいたい。
よろしく頼む。
・依頼者:ヘンリー・ナイツ元伯爵
・対象:《王都》までの道中の護衛。
・報酬:トーマスの剛剣。
・備考:道中は馬車で7日ほどの期間になる。
・備考:長期の依頼になるので、準備は怠らないこと。
《チェインクエスト:《北の街》領主に王様からの書簡を届けよう》new!
プレイヤー:ミコトに対しクエストを依頼。
王様から、《大森林》にある《第六開拓村》(現在は無人)の権利を保証してもらった。
それについて書かれた書簡を、《北の街》の領主であるバラン子爵に届けよう。
・依頼者:国王陛下
・対象:《北の街》領主バラン子爵。
・報酬:《特命騎士の紋章:金》 (前報酬:受取済み)
・備考:問題が発生した場合は、些細なことでも王城に報告すること。
・備考:紋章は身分を証明するもののため、決してなくさないこと。
・備考:紋章は重要な意味を持つもののため、みだりに人に見せないこと。
お城で一泊して、朝食もいただいた後、土地をもらえるかと王様に相談して、地図を見ながら場所を確認すれば、トールくんの家族のみんなが暮らしていた《第六開拓村》は、申請書類の不備で開拓村の申請がちゃんと通っていなかったために、未認可+支度金が支給されていない状態だと判明。
開拓村の手入れは、ヘンリーおじいちゃんが私財を切り崩して行っていたとも判明。
王様から、おじいちゃん宛の書簡も預かってきたので、まずはおじいちゃんと会って話をしようと移動する。
王城の門で待っていたのは、ナイツ伯爵家の家紋が刻まれた馬車。
ウィルさん家のメイドさんが操る馬車に揺られて移動することしばし。
おかえりなさいませ。と執事の人に出迎えてもらってウィルさんとヘンリーおじいちゃんが待つ部屋へ。
「皆の者、おかえり。王城のベッドはどうだったかな?」
寝心地良かったよ。と僕が言えば、満足そうに頷くおじいちゃん。
「それはなによりだ。して、何か欲しいものはもらえたかな?」
「それも含めて説明するね」
先ほどの王様たちとのやり取りを、おじいちゃんとウィルさんに説明する。
《大森林》にある第六開拓村の所有権をもらったこと、《北の街》の領主に書簡を届ける必要ができたこと、おじいちゃんにも書簡を渡してほしいこと。
書類の不備も込みで、余すところなく、全部。
「……うむ。……そうか、……そうか。陛下に察していただけたのは、ありがたいことだ」
しばし、目を押さえるおじいちゃん。
少しして落ち着いてきたのか、そばで控えていた執事の人に、あれを、と指示を出す。
部屋を出た執事の人が台車に乗せて持ってきたのは、大きな剣。
幅広で鞘と柄を合わせると大人の背丈ほどもあるとても大きな剣だった。
「これは、この剣は、トールよ、そなたの父トーマスが使っていた大剣だ。非常に頑丈で比重も重いアダマント製のこの剣は、使いこなせばドラゴンの体も両断することができる。トーマスはこの剣で、グレーターデーモン、強大な力を持つ上級悪魔を、繰り出してきた魔法ごと叩き切ったと言われておる」
おじいちゃんがトールくんに促せば、両手で掲げるように持ち、引き抜こうとして、やめていた。
「トールくん、どうしたの?」
少し慌てて声をかければ、ゆっくりと首を横に振っていた。
「……これは、おれには扱えない」
「……うーむ……。今のトールならもしやと思っておったが、無理か……」
「なにか、悪いことでもあるの?」
トールくんとおじいちゃんは理解し合っているみたいだけれど、僕には分からない。
形見の剣を扱えないというのは、何か理由が? と重ねて問えば、
「……この剣、重すぎるんだ。今のおれだと、振るどころか持つのも苦労するんだよ」
「鍛え上げれば最高の武具になるとも言われるアダマントだが、その重さが最大の欠点なのだよ。逆に、重さを利用するハンマーなどは相性が最高だとも言われるがな」
トールくんも、おじいちゃんも、しょんぼりしちゃった。
「うーん、じゃあ、僕が預かっててもいいかな? 後で扱えるサイズに作り直すから」
僕がそう言うと、2人とも神妙な顔で剣を見つめる。
「……あ、この剣は形見なんだし、このままの方がいいのかな?」
扱うのなら、扱いやすい長さや重さに形を変えて、なんなら2本くらいに分けてトールくんに合うようにするつもりだったけど、形見の品ならそのままの形で残しておいた方がいいのかな?
「……今は、預かっていてくれるかい? どっちにしろ、このタイプの大剣はおれには扱えないから」
とても残念そうに言うトールくんに身を寄せ、上着の袖をつまむ。
「…………うん」
「そんな顔しないで。父さんの剣を手にすることができて、今は満足なんだよ。ずっと、どこにあるかも分からなかったから」
残念そうなトールくんを見て、僕もしょんぼりしちゃって、頭を撫でられ優しく抱きしめられちゃう。
慰めようとしたつもりが、逆に慰められちゃった。
お父さんの形見の剣をアイテムボックスに仕舞い、執事さんに案内されてお屋敷の端っこの部屋へ。
「こちらが、我が屋敷で現在は使われておらず、お客様を通すこともなく、掃除維持管理以外では私共も近寄らない部屋でございます。隣の部屋につながるドアが、ベッドの奥の仕切りの向こうに隠れております。そちらも合わせてお好きなようにお使いいただいて構わぬと、主人から仰せつかっておりますので、遠慮なくお使いくださいませ。また、意見要望あればなんなりとお申し付けください。よほどの散財にならなければ、費用こちら持ちで部屋の改修も承りますので」
案内された部屋は、リビングと寝室が一緒になった、ホテルみたいな部屋。
部屋の中央に四角いテーブル、その三方に2人座れるソファ。その奥にベッドが2つ。
窓際に仕切りがあって、窓には小物が置けるスペースが。
仕切りの先には、スライド式のドア。
パッと見壁と同化していて分からないけれど、騙し絵みたいに目立たない取っ手に手をかけると、引き戸の要領で壁に収納されるように軽く動くドアにちょっと感動。
隣の部屋は着替えをする場所みたいで、ドレスや女性ものの洋服なんかが収納されている移動式のクローゼットがたくさんあり、しかも車輪が付いてて動かせる大きな姿見も3つはあって、なんかすごいことになってる。
「…………えっと…………?」
大量の移動式クローゼットと姿見に、ちょっとひく僕たち。
案内してくれた執事さんは、微笑みのまままったく表情変わらず、
「主人より仰せつかっておりますので、お好きなようにしていただいて構いません。先代様を《祝福》していただいたことや、国王陛下を賊から救っていだたいたこともありますので。
むしろ、使わないドレスや洋服ばかりです。気に入ったものがあれば、遠慮せずお持ち帰りいただいて構いません」
よ、洋服にドレス……。
クローゼットにたくさん詰まったドレスに洋服、全部で100着はありそうなんだけど……。
欲しい? と、ミナトとステラに視線で問いかけると、ぶんぶんと首を横に振っていた。口元を引きつらせて。
だよね。分かる。
お貴族様の着たドレスや洋服とか、とっても高価だろうし、もらえないよねぇ……。
ヤタ『(ミコトやミナトが着てる天女装備とか飛竜装備とここにあるドレスだと、どっちが高いんだろうな)』
トール「(しー。ヤタ、そういうことはミコトに言わなくてもいいんだよ?)」
リンド「(……ふむ、仕立ての良いドレスだよね。手触りも良いし派手じゃないから誰でも着れそうだよ。トール、ミコトちゃんとミナトちゃんに似合うドレスを見つけてあげたらどうだい?)」
トール「(…………リンド兄は、ステラに選んであげなよ。きっと喜ぶよ)」