第百七十三話:土地
メイドさんから起こしてもらって、朝もまた王様や王子様たちと一緒に朝食。
メニューは、麦のおかゆと野菜スープ、薄切りハムと野菜のサラダ、カットフルーツのヨーグルトかけ。
お腹に優しい朝食を、みんな無言でいただいている。
騎士団長のウィルさん一家は昨日自宅に帰ったみたいで、今朝は一緒ではないけれども。
王様サイドは、ヤタが満足できるか心配だったみたいだけれど、当のヤタは、
「……ん? うん。これはこれで」
とじゅうぶん満足そう。
朝食も終わり、お茶で一服していると、王様から声をかけられる。
「ミコト嬢。食事の1回や2回で、一国の王たる儂の命を救ってくれた礼とは吊り合わぬ。それゆえ、今回のことは借りにしておく。いつか、なにか困ったことがあったり、欲しいものが見つかったなら、遠慮なく相談にくるといい」
うーん、欲しいものか……。
……あ、アレはどうだろう?
「……土地とか、もらっても?」
「人が住んでいない、空いている土地であれば、権利をそなたに移すことはできよう。どこの土地が欲しいのだ?」
どこと言われて、北の森の中にある開拓村と言ったら通じるのかな? と上の方に目を逸らして首かしげ。
「よい。地図を見ながら話そうか。移動しよう」
お茶を飲み終えて、移動する。
移動した先は、立派な机のある広い部屋。
聞けば、王様や宰相さんたちが書類のお仕事をする執務室なのだとか。
部屋の中央にあるテーブルに、文官の人が王様の指示で大きな巻物を広げて重しを乗せる。
「これが、我らが住まう国 《フロンティア王国》の地図だ。ここが《王都》、これより北に、馬車で七日ほどの距離にあるここが、《北の街》。それよりさらに北に徒歩で1日弱、そこを端にして西へ広がる広大な森林地帯が、《魔の森》とも呼ばれている《大森林》。この森にはエルフたちの住む地域もある。そこより東にある山脈が、《無限鉱山》だ。この鉱山の一角には、ドワーフの集落もあると聞く。……して、欲しい土地はどの辺りだ?」
「えっと、《魔の森》……というか、《大森林》にある、第六開拓村……なんだけど……」
……地図上には、《大森林》の開拓村は第四までしかないね?
「……ふむ。……《大森林》の第六ですと……、ああ、ありました。開拓の許可と資金援助の申請だけ出されていて《北の街》の領主のサインがありませんな。これであれば、申請の段階で却下されます。そこが既に村として機能していて人が住んでいるのであれば、国として調査が必要ですが、無人であれば、すぐにでもミコト嬢の所有ということにしましょう。……今、書類を用意します」
宰相さんが提出された書類を確認すると、まさかの申請却下案件。
これ、どういうことだろう?
「たまにあるのですよ。必要な事柄が記入されていない書類で申請されて、再提出を指示しても守られず、そのまま忘れ去られる案件が。新たに開拓村を作りたい街の領主などは、書類は一度提出したからもう大丈夫と思い込んで、再提出の指示を忘れ去ってしまうことが。……あるいは、何か事情があって代理が書類を用意して、肝心の責任者のサインや印璽を忘れて再提出を指示される場合ですか」
……うわぁ……。
「地方であれば、提出した書類の返事が届くまでに時間がかかりますからな。……とはいえ、《北の街》はそこまで遠くもありませんし、単に領主が無能なだけでしょう」
「あそこの領主は、たしか子爵だったか? 中身の詰まっていない頭を引っこ抜いて、その座にヘンリーをすげればよかろうに」
王様も宰相さんも、おかんむり。
そりゃあ、部下の人が書類再提出の指示を守っていないことが分かったのだから、頭にくるよね?
……でも、開拓村を作るとか、書類のやりとりだけで許可が下りるものなの? それとも、勝手にやっちゃうものなの?
「……新たな村や町の誕生は、のちの税収増が見込まれますので、国として歓迎することなのですよ。それこそ、陛下直々にお言葉を掛け支度金を渡すくらいには。しかし、《大森林》における開拓村計画は、複数の領主が名乗り出て行動に移しながらも過去すべて失敗。仮に成功しても、すぐに維持できなくなり撤退を繰り返しています。それにより、近年では申請段階で調査が入りそれによって申請が却下されるようになり、計画は頓挫しています」
「国庫から支度金を出す関係上、開拓村建設と運営の計画書を提出することを義務付けたのよ。あまりにも、《大森林》での失敗が相次いだのでな。そうしたなら、申請すら出さぬようになりおってからに」
計画書かぁ。
めんどくさいんだろね。
……国からのお金……。
それ、もらえるだけもらって、やっぱりダメでしたって投げ出すことが多かったのかな?
でも、トールくんのご両親が眠る第六開拓村は、すぐにでも人が住めそうなくらい綺麗だったけど……。
「なるほど。それは、ヘンリーが私財を投じて墓を守ってきたのだろうな。定期的に《結界石》に魔力を注ぎ維持しないと、無人の村など森の魔物にすぐ荒らされてしまう」
そのことを伝えれば、おじいちゃんが頑張っていたのだろうと、目を細める王様。
「さて、ミコト嬢。こちらが、第六開拓村の土地の権利書になります。ミコト嬢がなくさないように持っているのですよ。後で地図に追加するために国から調査に伺います。そしてこちらが、《北の街》の領主に宛てた書状。申請が通っていない以上、今後第六開拓村には手出し無用と書かれています。こちらが、ヘンリー元伯爵への書状です。開拓村を維持しようとしていたのなら、我らに相談しなさいと書かれています。
領主の子爵や別の誰かが何か苦情を言ってきたならば、この玉璽の捺された権利書を見せてやりなさい。しっかりと、ミコト嬢のものであると書かれてあります。奪おうとしたならば、遠慮なく懲らしめてやりなさい。そして、嫌がらせなどあれば、些細なことでも陛下か私に報告するように。多少時間は掛かりますが、合法的に懲らしめてあげます。報告の際は、こちらを兵に見せるように」
宰相さんからの頼もしい言葉と書状と、竜に乗り剣と盾を構える騎士が刻まれた五角形の金の紋章を受け取って、ありがとうと感謝を伝える。
『うむ。大義である』
すると、ヤタが偉そうにふんぞり返っていたので、ちょっと注意しておかなきゃ。
「ヤタ、王様や宰相さんは偉い人なんだから、そんな偉そうにしちゃダメなんだよ?」
『いや、お前も、権力者には相応の態度と言葉遣いをしろよ。マイペース過ぎるぞ』
「……ぷ、くくく。いや、仲の良いことだ。実に良い。許すぞミコト嬢。式典のような公的な場では少々困るが、他の者の目がなければそのままで構わん」
僕とヤタのやり取りを見て、王様と宰相さんは顔を合わせて、吹き出した。
「ではな。ヘンリーと子爵とに、書状を頼むぞ」
お願いされたので、任せてと胸を叩いて応じたら、メイドさんに案内されて城の外へ。
お城の外で待っていたウィルさんの家のメイドさんに案内を引き継いでもらって、移動する。
じゃあ、まずはウィルさんの家に行って、おじいちゃんに会わないとね。
・リザルト
地名の詳細が一部判明しました。
以後、判明した地名で表記されます。
・《王国》→《フロンティア王国》
・《街》→《北の街》
・《魔の森》→《大森林》
・《鉱山》→《無限鉱山》
《シークレットクエスト:地名の公開》clear!
テスト段階における現在は、《街》などの地名は略式で表記されている。
テスト期間中に、略式で表記されている各地名の正式名称を調査せよ。
・依頼者:運営
・対象:略式表記されている地名の、正式名称を判明させる。
・報酬: 公開された地名一箇所につき金貨10枚 + ランダム報酬 (奥義書または魔導書)。
・制限時間:正式サービス開始まで。
・特記事項:正式名称が判明した場所は、以後は正式名称で表記呼称されるようになる。
・備考:地図や看板などで知った場合は、クエスト達成にならないため注意。必ず人から教えてもらう形をとること。
判明した箇所:4箇所。
金貨40枚 + 《歩法:幻夢踏舞》の奥義書 + 《付与:防盾》の魔道書 + 《マジックアロー》の魔道書 + 《アームハンマー》の奥義書




