第百七十一話:閑話:せどり
第二次βテスターの視点です。
胸糞描写が若干あります。
『ダイブ・コンプリート。新たなエデンへようこそ。我々は、あなたの来訪を歓迎します』
『キャラメイキングを実行します。種族を選んでください』
獣人。
一言でいっても、その種族は多様で多彩。
それぞれに特徴があるが、メリットがあればデメリットもある。
第二次βテストで選べた種族は、
・人間
・獣人:犬 (いぬ)
・獣人:猫 (ねこ)
・獣人:猿 (さる)
・獣人:狸 (たぬき)
・獣人:狐 (きつね)
・獣人:鼠 (ねずみ)
・獣人:蛇 (へび)
以上。人間と獣人7種の計8種類。よりどりみどりだ。
これだけあったら、100人のテスターのうち、何人かは人間を選ぶとしても、ほとんどは獣人を選ぶだろう。
その上で、
・獣人:鼠 (ねずみ) new!
などと、各獣人の項目に、 new の文字が点滅してアピールしていたなら、誰もが運営の意図を察して獣人を選んでも仕方がないとすら思える。
これは、テストなんだから。誰も選ばないような種族を選んでこそだろ。
そうして選んだ種族が、鼠獣人だった。
身長体重体格など様々な情報を入力するごとに、正面に浮かぶ3Dモデルが変わっていく。
年齢は固定、性別は……変えられるけど、すぐ戻す。
身長体重体格なんかは、数値に限度がある。
鼠獣人だから、どうしても背は低く体は細くなるようだ。
まあ、生産職のテストなんだから、気楽にいくか。職場も決まってるみたいだしな。
「だから、何度言ったら分かるんだお前はっ!」
「っひぃっ!?」
「あー……、すまん。お前さんに怒鳴ったわけじゃあねぇんだ」
「いえいえ、こっちこそ。すいませんね。獣人、耳が良いもんで。つい、ビクッとなっちまいやす」
工房の親方が他の弟子を叱りつけるとき、決まって怒鳴り声をあげる。
それは、俺に向けられたものでないと分かっていても、反射的に体が竦んでしまう。
そのたびに、親方に気まずい思いをさせるのもまた、精神をゴリゴリと削ってしまう。
リアル過ぎるゲーム世界は、世界観やステータス以外の多くのものが現実に準拠している。
人の感情とか、自分の心の傷とかも。
それらはあまりにリアルで、精神的な病気と判断されヒキニートになったリアルの俺の心も、そのまま映し出してしまっていた。
担任の男性教師から、個別指導と称して、何時間もの間、まるで洗脳するかのように、お前はダメな人間だ。クズだ。社会に迷惑をかける。などと言われ続け、謝罪のタイミングが少しでもズレると、机を強く叩きダミ声で怒鳴りつけられる。
執拗に人格を否定され、機械のように謝罪を強要され、泣いたりやめてほしいと訴えれば、胸ぐらを掴み上げられ締め上げられ床に叩きつけられ踏みつけられる。
次第に心を病み、引きこもりになった、弱い俺。
その傷付いたままの心が、トラウマが、ゲーム世界でも付きまとっていた。
ただそれも、狭い閉鎖空間というか屋内でなければ特に問題はないようで、親方に事情を説明し工房から去ることにした。
すまねえと何度も頭を下げる親方に非がないことを説明するのに手間がかかったが、1日に何十回も怒鳴られても、ロクに仕事を覚えられない一部の弟子が悪いと思う。
……他人への叱責に反応してしまう俺は、もっと悪いと思うけれども。
工房から去って自由の身となった俺は、《街》をうろつくうちに、露店巡りして掘り出し物を見つけては安く買いよその欲しがる人へ高く(といっても適正な価格で)売りつけることにハマってしまった。
「ようっ、どうだいおっちゃん?」
「おう。今日もあれこれ仕入れたぜ。見ていきな坊主」
数日通ううちにすっかり馴染みになった露店の店主に、片手をあげて挨拶する。
向こうも慣れたもので、ずらり並ぶ小物類は昨日と少し品揃えが変わっていた。
簡素なテントの下、折りたたみテーブルに並べられた商品をざっと見渡すと、固有スキル《商人の嗅覚》が発動する。
嗅覚といっても実際に匂うわけではなく、俺が求める商品や、適正価格よりずっと安い商品、俺以外の知っている人が求める商品などに反応するスキルで、匂うような感覚で鼻が反応する。
「……ふん……ふんふん……。おっちゃん、これをくれ」
「あいよ」
魔物の魔石とも違う、よく分からない黒い丸玉。それを、スキル《鑑定》でよく調べてみると……。なんと、適正価格は金貨1枚と出た。でも、この露店での販売価格は銀貨1枚だ。
罪悪感を覚えるほどの、ひどいボロ儲けになるなあ。とはいえ、適正価格で売れるかというとそうでもないから、こんな露店で適当に売られているのだろう。
「しっかし、こんななんの役に立つか分からんから謎アイテムなどと呼ばれてるもんを、なんのために買うんかね?」
「…………仮に、これがなにかの役に立つとして、おっちゃんだったら、なんの役に立つかオイラにタダで教えるかい?」
「はっはっは。そりゃあ、タダじゃあ教えねぇよ。なんだお前さんもすっかり商人だな」
「えっへへ。褒めてもなんも出ねえよ? ……こいつもおくれ」
「まいどあり」
適度に牽制しつつ、今すぐは必要でないが多少の役に立つ品を追加で購入する。
今後のことを考えて、支払いは銀貨3枚。
追加の品は銀貨1枚なので、余計に支払うことになるが、これでこの黒い丸玉は相応の価値があるとおっちゃんも理解できるだろう。
となれば、また黒い丸玉を見つけたら確保するだろうし、俺を見つけたら売りつけようとするだろう。
次もまたおっちゃんが仕入れていたなら、もう少し色を付けても問題ない。なんせ、他のプレイヤーとのトレードで付与つきの装備品プラスアルファが手に入るから。
……この、付与つきの鉄製品、いったいいくらするんだろうな……?
露店でたまに売っている、何らかの効果がついた品は、適正価格が金貨1枚を下回ることがない。
それは、『不運』、『悪臭(微)』みたいなものでも変わらない。
顔には出さず、心の中でニヤけ顔。
すでに確保した付与つきには、《付与:魔力》の付いた杖や、《付与:攻撃》の付いたダガーなんてのもある。
誰に、いくらで売り払うか。
少し考えただけでも、ニヤけ顔を我慢するのが大変だ。
・リザルト
ゴーレム・コア × 23個をトレード。
銀貨×230枚、青銅のナイフ23本入手。
以下、ランダム報酬
鉄の剣 +1 (自己修復)
鉄の大剣 +1 (速度)
鉄のナイフ +1 (運)
鉄のダガー +1 (攻撃)
鉄のダガー +3 (耐久 + 自己修復 + 速度)
鉄の槍 +1 (器用さ)
鉄の斧 +1 (最大HP)
鉄の棍棒 +1 (物理防御)
鉄の弓 +1 (器用さ)
鉄の杖 +1 (魔力)
鉄の杖 +3 (最大HP + 最大MP + 魔力)
鉄の小盾 +1 (速度)
鉄の盾 +1 (活力)
鉄の兜 +1 (運)
鉄の鎖帷子 +1 (自動回復)
鉄の胸当て +2 (最大HP、体力)
トゲ付き肩パッド +1 (攻撃)
鉄の手甲 +1 (器用さ)
鉄のガントレット +1 (物理防御)
鉄の脚甲 +1 (速度)
鉄板入りブーツ +1 (活力)
鉄板入りブーツ +2 (体力 + 活力)
鉄の剣と鞘 (セット) +4 (自動回復 + 耐久 + 自己修復 + 最大HP)




