第百六十九話:閑話:二十日目
二十日目。
昨日の緊急依頼が発令されてから、念のため交代で起きて警戒していたが、夜が明けても特に何もなく。
少しずつ起き出す人が出てくる中で、寝直すのもなんだからと冒険者ギルド職員が寝泊まりするテントに向かう。
事前の説明どおり、1人起きて待機している……と思ったら、筋骨隆々のオネエさんだったよちくしょうめ。
「あら? ウフッ、ボウヤ、アタシに何か用? それとも、他の子に夜這い?」
「オネエさんでもいいや。ちょっと聞きたいことが」
「外へ出ましょう。2人はまだ寝ているから」
禿頭のオネエさんに促され、テントの外へ。
「ウフッ、ボウヤ、聞きたいことってなあに? スリーサイズはヒ・ミ・ツよ?」
そんなん聞きたくねぇわ。
メートル単位ありそうな胸筋の数字とか聞いてどうすんだよ?
「魔物の素材の買取りとか、どうするのかなって」
「ギルド職員は、《鉱山》の中まではついていかないわ。鉱石と一緒にここまで持ち帰ってくれたら、鑑定して精算するけどね。ウフッ」
いちいちバチコンとウインク飛ばさないでくれねえかな?
「なるほど。で、オネエさんは?」
「アタシはもちろん鉱山の中に入って、採掘者の護衛をするわよ? 複数の班に分かれて採掘するものだから、手が足りなくなるのよね」
「ここの守りは?」
「不要よ。そのために高価な《結界石》を用意したんだもの。それに、他の2人もある程度戦えるわ。有事を見越しての人選なの。まあ、商業ギルドの職員たちはまるっきりダメみたいだけどね」
護衛も雇わずに、どうするつもりかしらね? と首をかしげてるオネエさん。
商業ギルド職員は、寄生するつもりだって、絶対分かって言ってるだろ? もしくは、護衛の費用を既に受け取っているかだろうな。
「他に聞きたいことがあったら、いつでも言ってちょうだい。……戦闘中と、夜中だと、刺客と間違って仕留めてしまうかもしれないから、明るいうちに、ね?」
おおこわ。誰が、暗くなってから俺より頭ひとつ分は大きいオネエさんに近づくかよ。
身の危険を感じるわ。
朝食と身支度を済ませて、集合すると、《鉱山》内部の地図が配られ説明が始まる。
採掘専門の労働者15人と、無職の労働者10人は、5人ずつの4班に分かれ、採掘労働者の中で指導する者が各班に1人ずつ、残りの1人が全体の総括を担当して、冒険者ギルド職員と一緒に拠点に居るのだという。
俺たち護衛の冒険者たちは、俺たち、ダクさんチーム、フリー冒険者たち、ギルド職員のオネエさん(1人!)の4班に分かれ、それぞれ担当する区画で採掘者の護衛をするよう頼まれた。
採掘者たちは、木製のトロッコを1人1台引いていき、満杯になるまで帰って来るなと言われていた。
ノルマは厳しそうだな。
4班24人の採掘者がトロッコいっぱいに鉱石を採って来たとして、実際の量はどれくらいになるのだろうか?
少し物思いに耽っていると、注意事項が。
護衛の冒険者は、採掘してもいいけれど、採掘者がトロッコいっぱいに鉱石を採るまで帰ってこれないとか、採掘者が怪我でもしたら、治療費を成功報酬から天引きするとか、持ち帰った鉱石は、冒険者ギルドでも商業ギルドでも買い取るが、買取価格は双方のギルドで統一されてはいないとか。
忘れてしまうと、まずいことになりそうな話もあるな。
「あ、オレは今日もパスな」
地図で指定された採掘ポイントまで採掘者の前後を守る編成をどうしようかと相談していたら、ヒイラギは今日も拠点に籠もって服を作るのだという。
おいこら待て。お前何しにここにきたんだよ?
……といっても、昨日、他のプレイヤーとトレードした際のボロい服とかズボンとかを押し付けたからなあ。
まあ、そのおかげで、今俺たちが着ているのは《上質な布の服+2》や《上質な布の下着+2》だったりするから、ありがたくもある。
「分かった。頼むぞ。余ったら売ったりトレードしたりできるだろうから、じゃんじゃんやってくれ」
「……は? お前何言ってんの? 売るわけねぇだろ。余った分は、私服を複数用意するに決まってるだろうが。冒険中ならともかくとしても、拠点の中や街でゆっくりするときくらいは、おしゃれしたりお気に入りの服で過ごしたいだろうに」
ヒイラギが、侮蔑すら浮かべた視線で睨んでくる。
えっ? それちょっと言い過ぎじゃね? とみんなを見てみれば、分かるとばかりに頷いていた。
……誰一人、味方はいなかった。
そんな感じで、1人泣きそうになりながらも護衛をこなす。
敵は大したことなかったし、ヒイラギが作ったアリ素材製のツルハシを貸してやったら採掘効率が良くなったらしく、時間が余ってしまった。
そのため、魔物を倒してみたいっていう採掘者のために、魔物を弱らせてトドメだけ刺させるということをしばらくの間繰り返した。
しばらく戦ってから帰ってみると、それでも1番早かったみたいで、あちこちから理由を尋ねられる。
アント素材のツルハシが理由と分かれば、売って欲しいと言われるわけで。
作ったヒイラギに売ってもいいかと聞いてみれば、すぐに残りの素材でツルハシを増産して売りに出し、そこそこの儲けになる。
アント素材の売却価格は銀貨が数枚みたいだが、アント素材で作ったツルハシは、金貨に化けた。
そして、それが飛ぶように売れる。
それもそのはず。事前に用意していた鉄のツルハシで採掘するよりも、より質の良い鉱石を採ることができているからのようだ。
つまり、俺たちの採ってきた鉱石は、他の班が採ってきた鉱石より全体的に質が良いのだと。
採掘しやすく、しかも質の良い鉱石を採れるとあって、金貨を支払ってでも買って使いたいんだと。
……でもさ、鉱石掘ってもらえる報酬と釣り合ってなくない?
ちょっと心配になってポロッと漏らしたら、採掘者たちの道具は、終わったら冒険者ギルドが預かるそうで。
その際に、今回のアリ素材のツルハシみたいな特別な道具であれば、ギルドが買い上げる形でお金を支払うらしい。
で、また次の機会に冒険者ギルドが支給して使うから、問題はないんだと。
今日使った鉄のツルハシも冒険者ギルド側から支給したものみたいだしな。




