第百六十八話:閑話:お試し
十九日目。
昨日めちゃくちゃ説教されたせいか、今日はファウたちがなんだか元気がない。
昨日はあれから俺たちに、妖精に対する要請は的確にしないと、死人が出たかもしれないのだ。などと商業ギルド職員のオッサンからネチネチと説教されてるときに、よせばいいのにインデックスが、
『……妖精に要請……ぷくく……』
とか笑った上で、ティータが、
『コラッ、ダジャレを言ったわけじゃないんだから、黙ってなさいよっ』
と、なぜ笑ったかを解説する始末。
さすがに頭にきたのか、商業ギルドの担当は、パートナーの俺たちが危険にさらされるかもしれなかったのだと、説教の方向を変えてくるし。
あの程度の強さと数なら、全然問題なかったわけだが、周囲を魔物に囲まれるという体験は、戦えない商業ギルド職員にしてみれば、命の危険を感じる事態のようで。
その点を態度ににじませながらも口には出さないようにしつつ、ネチネチと説教を続ける商業ギルド職員に、ダクさんとオネエさんが強制で話をぶったぎった。
そのおかげで寝ることができたわけだが、全体の空気が悪くなったのはさすがに俺でも分かった。
で、その翌日。
今日も朝から商業ギルド職員から、危険を排除するための護衛が危険を呼び寄せたとジト目で見られているわけだが、妖精たちがしょんぼりしているのを見て、さすがに言い過ぎたのかと思ったのか、すぐにばつの悪そうな表情になる。
朝からグダグダしててもしょうがないので、冒険者ギルド職員のオネエさんが発破をかけて、みんな黙々と出発の準備を整えていく。
馬車が動き出せば睨まれることもないわけで。
岩肌が目立つ坂を登り、昼休憩を挟んだ午後にようやく《鉱山》の入り口にたどり着いた。
ではさっそく採掘か? と思ったが、採掘期間3日を支えるための拠点を設置するようで、採掘要員が夜寝るためのテント、水浴びするためのテント、馬を休ませるための屋根付きの柵、魔物の侵入を防ぐ《結界石》の効果範囲を指定するための柵を順番に設置していく。
俺たちも、柵の外に俺の《拠点》を取り出して設置。
これで俺のチームは準備万端だ。
……あ、冒険者ギルド職員のお姉さんが木製のコテージをでかいバッグから取り出して設置したぞ?
……あれが、以前言ってた静音結界付きのコテージか?
……人気のサービス……。少し、気になるな……。
「なに鼻の下伸ばしてるのよ?」
「い、いや、伸ばしてないぞ?」
人気のサービスがどう人気なのかを考えてたら、シオリにチョップされてしまった。理不尽。
拠点の整備が終わると、あとの時間は休憩ということになった。
といっても、《鉱山》入り口のなにもない場所なので、やることもない。
結界石のおかげで、魔物を警戒する必要もないんだとか。ただし、時間制限があるみたいだけどな。
念のため、護衛は交代で警戒するとも言ってたけど。
どうすっかなあと時間の潰し方を考えていると、ダクさんのチームに、《鉱山》に入ってみないかと誘われる。
拠点の守りはフリーの冒険者たちに任せるというので、ダクさんチーム6人と俺たち9人で……と思ったら、ヒイラギは残るそうだ。出発前にたくさん買い集めた古着などの布素材をバラして組み直して上質な布を作って、上質な下着や肌着を作るんだと。
それと、シオリ、カティ、ティアも残るという。
フリーの冒険者たちには、回復魔法を使える人がいないのもあって、何かあったときのためと、妖精を通じて鉱山内部の俺たちと連絡を取り合う役をすると言っていた。
鉱山周辺には、岩ヤギ、岩トカゲ、岩ヘビ、岩クモ、岩ムカデに大コオロギなどいるようだが、こちらの人数が多いせいか、寄っては来ない。
岩ヤギとか岩トカゲとか仕留めれば、肉や毛や皮など日常に役立つ素材が採れるのではとも思ったが、今日のところは鉱山内部の魔物を減らしておくことが目的なので、ひとまず無視して進む。
鉱山内部に入れば、坑道ネズミ、洞窟コウモリ、洞窟カマドウマなどがいて、さっそく襲いかかってくる。
十を越える魔物同士の連携などはないが、こちらを見つけ次第突撃してくる。
坑道ネズミはウサギサイズだし、洞窟コウモリは両腕を広げたくらい大きいし、洞窟カマドウマなんて中型犬サイズだ。どれもデカい。
夢に出そうな光景に嫌な気分になったが、どれもあまり強くはない。けれど、上と下から一斉に攻撃してくるので面倒ではあった。
こういうときに、カティの弓矢やティアの魔法が役に立つのだが、今はフリー冒険者たちと一緒に居残りだ。
「油断するなよ?」
ダクさんの声に頭を上げると、洞窟コウモリの1匹がこちらを向いて口を開けた。
次の瞬間、俺とサーシャとニアが、ふらつく。
耳がキーンとなり、軽いめまいがして、立ちくらみしたように足元がおぼつかなくなってしまっていた。
「危ないっ!」
動きが鈍った俺とサーシャとニアに、残りの洞窟コウモリが急降下してくるが、アキラが飛び上がりサクサクっと倒していた。
「洞窟コウモリのスキル《超音波》だ。勉強になったろ?」
残りの敵を仕留め終えたダクさんが、イタズラが成功したような顔で言ってくる。
「……あー……クラクラする……。まあ、たしかに勉強にはなったよ」
事前に教えて欲しかったけどな!
「実際受けて初めて危険が理解できることもある。ま、悪く思うなよ?」
あ、ニアが地面に両手ついてリバースしてて、サーシャがこめかみを押さえながらニアの背中をさすってる。
さすがにこれは、悪く思うぞダクさんよ?
「……こりゃ、今日はもう無理かな?」
「…………まだ、いける…………」
乱暴に口許を拭ったニアがいけると主張するが、
「いや、今倒した魔物を解体して討伐証明部位と素材を取り、残りは捨てて戻ろう。明日からのために無理は禁物だ」
ダクさんが中止を宣言する。
今倒した魔物といっても、そんなにたくさんはないが……。
「ねえユウくん、解体して捨てる素材はトレードに出してみない?」
アキラの言葉にハッとする。
そういえば、以前別のプレイヤーからトレード申請が来てたっけな。
《トレード申請》
各プレイヤーに対しトレードを申請。
・依頼者:シン (プレイヤー)
・対象:魔物の素材。種類は問わず。
・報酬:腐った肉、古びた骨、死霊の衣、呪われた骨、呪いの血、灰、古い和紙、古びた包帯、汚れた服、裂けたズボン、ボロい靴、布切れ。
……うーん、使い道が、あるのか……?
※
《緊急クエスト:死者の軍勢》
全プレイヤーに対し、緊急のクエストを発行。
北の地より侵攻する死者の軍勢を討伐してみせろ。
・依頼者:※※ (非公開)
・対象:死者の軍勢の討伐。
・報酬:参加報酬で金貨10枚 + 討伐報酬。
・制限時間:死者の軍勢が《街》に到達するまで。
・補足事項:死者の軍勢 = 今回は、マミーを中心とした、日中も活動するアンデッドの軍勢だ。
とりあえず500ほど用意した。
せいぜいがんばってくれ。
・特記事項:戦闘に参加したプレイヤーには、参加報酬として1人につき金貨10枚。
・特記事項:討伐報酬は、チーム単位でまとめてリーダーが受け取る手はずになっている。
※
トレードを済ませ、拠点に戻るかというときに、緊急クエストなるものが発行される。
どうするべきか、ひとまずシオリと合流して相談しようと急いで帰れば、
※
《クエストは既に受諾されました》
※
と、受けることができなくなっていた。
結局、なんだったんだろう? と首をひねるも、答えは分からずじまい。
念のため警戒はしつつも、明日のために休むことにした。
・討伐証明部位 (魔石も同数入手)
・坑道ネズミのしっぽ×11
・洞窟コウモリの牙×8
・洞窟カマドウマの右後ろ足×14
・素材 (ドロップ品含む)
・ネズミの肉×11
・ネズミの皮×11
・コウモリの翼×16
・コウモリの肉×8
・虫の体液×14
・虫の甲殻×4
・虫の足×7
解体して捨てる素材と、余っていた素材をトレード。
・死霊の衣×20
・古い和紙×20
・古びた包帯×20
・汚れた服×20
・裂けたズボン×20
・ボロい靴×20
・布切れ×40
※レシピ解放
・死霊の衣×4 = 闇のローブ
・闇のローブ×3 = 闇の法衣
・モンスターの肉か内臓×2 =なにかの血
・死霊の衣 + なにかの血×2 =呪われた服
・古びた包帯 =清潔な包帯
・汚れた服 =布の服
・裂けたズボン =布のズボン
・ボロい靴 =革の靴
・布切れ =布素材




