第百六十七話:閑話:《鉱山》へ
十八日目。
だんだん道が悪くなってきて、揺れが大きくなってきた馬車の中で、今はカティに膝枕されている。
馬車の床では、アキラとニアが昨日のことで自主的に正座している。
俺は最初から気にしてないって言ったけれど、それでは気が済まないから、罰をってアキラが言うもんだから、じゃあ正座。とシオリが。
座席の反対側を見てみれば、ふくれっ面のヒイラギが、アント素材でツルハシを作っている。
昨日の惨劇(笑)を聞いたとき、1人だけ腹を抱えて笑ったものだから、尻をひっぱたいてやった。連続で3回ほど。
それを根に持っているようだが、手を上げようとしたりすると、ビクッと反応したりするので、また尻をひっぱたいて来るかと警戒してるのかもしれないな。
で、俺は、シオリ、ティア、マキさん、カティの順で交代で膝枕してもらっている。次はサーシャ。
さすがにあんまりだからと甘やかしてくれているが、これも一応断ったんだよな。大丈夫だからって。
でも、シオリに顔色が悪いと言われ、寝不足かもとマキさんに心配され、たとえ眠れなくても、目を閉じて休むのよ。と言われ今に至る。
ちなみに、順番はじゃんけんの結果だ。
「なあ、アキラ、ニア。そろそろ、自分を許してやることはできないか?」
2人は、誰に言われたわけではなく、自分で罰を望んだ。
揺れる馬車の床での正座は、だいぶ堪えると思う。
もう十分じゃないかと、また声をかけてみるが、
「むむむ……。さすがに……まだ……」
「…………ぐぎぎ…………」
昨日クリティカルをやらかしたのはニアだが、熱が入りすぎたのはほんとだからー。とアキラもかたくなになってしまっている。
「分かった。じゃあ、リーダー権限。2人とも正座をやめて座席に座りなさい。何かあったとき、その状態だと対応できないだろ?」
「うーん……?」
「…………」
そうかなあ? と首をひねるアキラはまだもう少し余裕がありそうだけど、ニアの方はさすがに無理そうだ。
「足がしびれて動けませんとなった方が困ると思うんだが……」
ここで、他のメンバーの顔を見渡す。
元々、アキラとニアが自主的にやっていることなので、やめるきっかけがあればそれでいいらしく、みんなうなずいていた。
「そんじゃ、終わりな。ちゃんと座席に座ってくれ。……で、ニアはこっち」
フラフラしてるニアの手を引いて俺の膝の上に乗っけて腕はニアの腹に回して固定。
「……えっ? ……えっ? ……えっ?」
「元々、訓練は俺が言い出したことだし、事故は付きもの。怪我を恐れてちゃ訓練はできないし、深刻なものでなけりゃ回復すればいいんだよ」
膝の上で戸惑うニアはかわいいなあ。
顔は見えないけど。
「まさに、深刻なことになるかもしれなかったわけで」
「でも実際は大したことなかったろ。はい、この件はこれで終わり。……もう少ししたら、アキラの番な」
まだ心配げなアキラに、次順番だと告げると、顔を赤くして黙ってしまった。
実際に何かあるとは思っていなかったが、この日は本当になにもなかった。
夕方夜営の準備ができた頃、ダクさんチームとフリーの冒険者たちと冒険者ギルドのお姉さん2人とオネエさんついでに商業ギルドのオッサンがやってくる。
昨日 《ネスト》対策としてアリを召喚して倒したことで、報酬の確認と今日もまた強制召喚からの討伐をするかの確認にきたという。
……昨日の分? ……あれ? 半裸で格闘したオネエさんって、ギルドの職員じゃなかったっけ……? ……まさか、オネエさんも数えてないの……?
「……もう、私が昨日の分もちゃんと数えているわよ」
数かぞえるのを完全に忘れてた俺が黙っていると、シオリが他の人の分までジャイアントアントの討伐数を答えてくれた。
じゃあ今日はどうするか? となったとき、ファウが首をかしげる。
『……今日もアリ退治するの?』
「そのつもりだけど……。どうした? なにか、都合よくないか?」
『ううん。近くにあんまりいないだけ』
「そっか。…………うん?」
いや近くにいないって、昨日は大量にいるって話だったろ?
ファウが少しおかしなことを言っているので、俺も首をかしげる。
「インデックス、昨日ジャイアントアントを召喚した辺りに、アントのネストがあるんじゃないの?」
シオリの問いかけに、インデックスは首を横にふる。
「あれー? じゃあ、ネストは? ネストがあるからアリがたくさんいるって話じゃなかったの?」
『…………他の妖精が着いてるヤツが、先にネストを潰したのよ。だから、今朝まではたしかにネストはあったけれど、今はもう無いの』
アキラがティータに問えば、そんな返事が。
「つまり、ジャイアントアントはもうほとんどいないってことだな?」
俺の問いに、妖精たちは首を縦にふる。
じゃあ解散だなって空気になるが、
「じゃあ、それ以外を含めた近場の魔物を、ランダムで召喚してくれるか?」
気落ちしかけた場に、戦意の火が灯る。
自然と口角がつり上がり、既に獰猛な笑みを浮かべている者も。
『いーよー。《おいで、おいで~》』
周囲に、数十の魔物。
まさか、数もランダムで召喚したのか!?
夜営の場所のはずが、ちょっとした戦場になった。
……で、冒険者ギルド職員の少し若い方のお姉さん(半泣き)と、商業ギルドの担当者 (怯え)から、めっちゃ説教された。
……テンション上がり過ぎて、平らな地面にクレーター作り出すほどの大技ぶち込んだオネエさんも、正座して一緒に怒られてた。
あんた何やってんだよ? ギルド職員じゃないの?
ファウ『……しょぼ~ん……』
インデックス『………………』
ティータ『……どうして私まで……』




