第百六十六話:閑話:アクシデント
ちょっと問題が起こった。
ジャイアントアントの素材を買い取って、ファウたちに頼んで防具を作ってもらったんだ。
そうしたら、ヒイラギがすねた。
「防具なら、オレも作れると言っただろうに……」
存在を否定された感じなのだろうか?
長めの髪をまとめてしっぽみたいにしてるボーイッシュな少女がむくれる姿もかわいいけれど、さっきシオリがすねたばかりなので、ちょっと気を使う。
「いや、その……。……あ、そうだ。このアリ素材でスコップとかツルハシとか作れないか? なんなら、古着屋で買ったボロい服を修繕してもらいたいんだが……」
せっかくなので、揺れる馬車では作業は無理だろうと思っていた、中古服の修繕も頼んでみるか。
「頼まれたらやるけどさ。そのためにオレがいるんだから。馬車の揺れ程度なら、修繕作業に問題はないよ。既存の製品をバラして素材にして、1から上質な布製品を作るとかなら、わずかな揺れも大敵だけど」
できんのかよ。
なら、中古服直してもらおうか。
みんな、着替えとかほしいだろうし。
……あ、そういえば、みんな、着替えとかどうしてたんだ?
「私とティアが生活魔法で綺麗にしてますがなにか?」
一張羅かよ……。まあ、俺もそうだけどさ。
シオリはまだすねてる。機嫌直してはくれないらしい。
「旅をするっていうのは、そういう問題もあるのよね」
マキさんがうんうんとうなずく。
マキさんは話題の締めに発言することが多く、マキさんが発言するとこの話題は終わり。みたいな空気ができあがりつつあった。
「俺は、特に困らなかったからなあ……」
『あたしがいたからねっ!』
ファウが元気に胸を張る。
今日もかわいいなあ。
「じゃあ、宿に行って上質な布製品作るわ。邪魔するなよ?」
「そうだな。みんな戻るか」
そうして、村に戻ると、もう少しで門を閉めるから閉め出されたくなかったら門の外にでないでくれ。と警告された。
門番の目付きが悪いのは、まあ、俺が女の子たくさん連れてるからだろうな。
で、実際に宿に行ってみると、冒険者ギルドのお姉さんとオネエさんに、部屋割りを提示される。
俺たちとダクさん達のクラン組で2部屋ずつの4部屋、フリー冒険者で2部屋、冒険者ギルドと商業ギルドの職員で2部屋。全部4人部屋だそうだ。
……全部、4人部屋、だそうだ。
……いや、ちょっと待ってくれないか? 2部屋使えるとしても、俺たち、9人なんだが。
1人は床で寝ろってか?
ギルド職員のお姉さんとオネエさんに抗議というか質問すれば、
「「誰かと同じベッドで寝ればいいのよ?」」
と、声を揃えて言われた。
誰かってそれ、自分にしろってことか?
もう1人の受付嬢さんに目を向けると、首が取れそうなくらいブンブンと横に振っていた。
……ああ、アカンやつなのね。
1人だけまともで、苦労してんな。
しょうがないので、フリー冒険者たちにでも使わせてやってと言って宿は辞して、村の外へ。
村の門が安全地帯になるように、アイテムボックスからログハウス状の《拠点》を取り出し、設置する。
ヒイラギには上質な布製品を作ってもらうとして、あとはマキさんを中心に食事を作ってもらい、俺とアキラとニアは速い相手に対処するための訓練をする。
アキラは、速さが最大の武器のニアより、さらに速い。
2人がかりで攻撃してもらって、防いだり躱したり捕まえたりと、マキさんとやりあうのとはまた違った訓練ができる。
アキラは猛スピードで猪突猛進してきながら、ジャンプして上から来たり、スライディングして足元を攻めたり、サイドステップして死角に回ろうとしたりで、まるで動きが読めない。
ニアは、主にサイドステップして正面から攻めないようにしている。
背が小さいので、1歩が短いものの、急に加速したり減速したり、サイドステップで視界の右から左へ一気に移動したりと、こっちも予測が難しい。
縦横無尽に動き回って木の剣を振り回すアキラの動きに翻弄されながら、木のナイフで関節や急所を狙ってくるニアに対応するべく動き回ったり、アキラと距離を詰めたり、ニアから距離を取ってみたりと色々試してみる。
でもやっぱり、素手だと対応できないことが身に染みて分かったので、俺も木の剣と木の盾を装備して訓練再開。
自分より速い敵との戦いは、動きを予測する勉強になるな。
……なんて思ってたら、アキラのやつ、二段ジャンプして空中で軌道を変えて、縦回転して威力を増した一撃を頭に打ち込んできやがった。
回避は間に合わないので、頭だけそらして左肩で木の剣を受ける。そして、こっちも反撃だ。
しかし、アキラは攻撃直後の無防備な状態だったにも関わらず、回転の勢いを利用して、右手1本で空中前転して俺の反撃を躱し俺の後ろに回った。
さすがにもう二段ジャンプはできないだろと、振り向きざまに《二段斬り》を発動。確実に1本取った。
……と、思ったら。
「「あっ」」
ニアと目が合う。
低い位置から腰辺りを狙った木のナイフの突きが、俺が振り向いたことによって、股間に……。
「「ああーーーっ!?」」
「えっ? ちょっ! ユウくん!? た、大変、シオリちゃーーーんっ!!」
…………ちゃんと《ヒール》してもらって完全に回復したはずなんだが、寝るまでずっと股間が痛む錯覚が……。
……日が昇るまで、あの悪夢のような一瞬が、何度も夢に出てきて、よく眠れなかったぜ……。
……《勇者》ユーノ




