第百六十五話:閑話:アリ退治
早朝から夕方までの移動距離を短縮できたことで、本来なら翌日に到着するはずの村までたどり着くことができた。
妖精様々だと喜ぶやつもいるが、村に入ってみれば、雰囲気が暗いことに気づく。
冒険者ギルド職員や商業ギルド職員が中心になり、宿の手配をしたりする間、俺たちはヒマになってしまうわけで。
聞き込みというか、暗い雰囲気な理由を尋ねてみる。
「《ネスト》。……それは、なんだ?」
分からんことは分かる人に聞くのが一番。
そんなわけで、ネストのことをしゃべった人にそれがなんであるか詳しく聞いてみると、魔物の大量発生というのが分かった。
そして、なぜ村の雰囲気が暗いかも教えてくれた。
それは、《鉱山》方面に魔物狩りに出掛けて帰ってきた者の話では、鉱山付近で見かけたアリ型魔物の数が既に何百もいそうな、非常に多い数なのだと。
それはつまり、この村も危険になるのではないかという、不安なのだという。
ジャイアントアントは、時折《鉱山》の近くに《ネスト》を作り出すことがあるらしい。
冒険者ギルドには、過去に《鉱山》近くに発生したネストを討伐したことを示す資料があるらしく、今回もネスト発生の危険は当然考慮したそうだ。
……で、ネストって、魔物の大量発生なんだよな?
普通なら、どんだけいるの?
基本的な数を聞いて、驚いた。
最低でも100単位とか、文字通り桁が違う。
そんなん無理だろ。こっちは、フリー組とクラン組合わせて、20人ちょっとだ。
100とか200とかの数、対応できるわけがない。
そんな風に言ったら、冒険者ギルド側としては、ダクさん達ベテランチームとフリー冒険者たちの力を合わせれば、ジャイアントアント200~300匹くらいまでは十分対応可能だから、問題ないと太鼓判押されてしまった。
……なんか、ダクさん達、また貧乏くじ引いたんかな……?
「はいっ。そんなわけで、門限までジャイアントアントの対処をしたいと思います。ドンドンパフパフ~」
…………俺以外、誰も拍手しない…………。
開幕早々盛大にスベったが、現在位置は村の門から出た少し先。
この場には、俺たちのチーム、ダクさん達ベテランチーム、フリー冒険者たちと冒険者ギルド職員のオネエさん。
ここでなにするかっていうと、俺たちのやり方で、ジャイアントアントのネストに痛打を与えることと、そのやり方を見せて、討伐証明をしてもらうことだ。
「というわけで、ファウ、よろしく頼むぜ」
『はいは~い。……《おいで、おいで~》』
『《チュートリアル・バトルモード》、開始!』
『………………』
ファウは、なんとも可愛らしく魔物を呼び寄せ、ティータは、力強く高慢に。
……おい、インデックス、せめてなんかしゃべれや。
土と石ころが露出した地面に光の線が走り、魔法陣を描く。
一瞬、光の柱が生まれて消えて、その後には、全長1メートルほどの大きなアリの姿が。
遠くにいる魔物を強制的に呼び寄せる。
それが、チュートリアル・バトルモード。
事前の打ち合わせ通り、召喚された3匹のジャイアントアントが動き出す前に襲いかかる。
さすがはアリというべきか。
頭部の甲殻は非常に頑丈で、クエストの報酬でもらった、強化された鋼の剣+3でも一撃では倒せなかった。
シオリは水属性の攻撃魔法で一撃。
アキラは、飛び上がって縦に一回転しつつ銅のハンマーで腹部を一撃。
どちらもクリティカルで、一撃で倒していた。
……うわ、発起人の俺が、一番手間取ってんじゃん……。
スマートに一撃といかず、ちょっと恥ずかしい。
ともあれ、妖精にでかいアリを召喚してもらい、それぞれ1体ずつ倒してもらう。
マキさんやヒイラギは、危なげなくメイスやハンマーで一撃。
サーシャやニアは、スピードを生かし少しずつダメージを積み重ねて倒した。
カティとティアは、レベルが低いのもあって、2人で1匹を。
ダクさん達のベテランチームは、みんな一撃で倒していたし、フリー冒険者達もほぼ一撃。
さすがにこれは、経験のなせる業だな。
……あと、なんか知らんけど、冒険者ギルド職員のオネエさんは、なぜか上半身裸になって気合いと共に筋肉を盛り上げつつ、拳とか、踏みつけとか、肘打ちとかで一撃だった。
「さすがに脆いわね……ンフっ」
なんか、俺にウインクしてくるんですけどっ!?
この場にいる誰よりも、背が高く、胸板厚く、腕も足も太く、声も野太い禿頭のオッサ……オネエさんは、迫力が段違いだったぜ……。
そんな感じで、全員がジャイアントアントを複数回倒して解体して、魔石と討伐証明部位の触角、防具に使える頭部や胸部の甲殻、ツルハシみたいに使える脚部先端の鉤爪を剥ぎ取り、オネエさんに査定してもらって金額をはじき出してもらう。
俺たちは、無限に入るアイテムボックスがあるために、参加したみんなから素材を査定額で買い取る。
それが終わったら、解体された残骸も回収して、シオリの水魔法で痕跡を消しておく。においとか残ってて、後になって集まってきたら大変だしな。
いや水魔法っていっても攻撃魔法 : 属性 水 だから、地面を対象に攻撃したわけではなく、シャワーで洗い流すようなイメージで魔法を使ってもらった。
妖精の感覚を持ってしても痕跡を感知できないレベルまで洗い流したら、ダクさん達のチームのヒーラーの人が、「なんかこういう魔法、生活魔法にあったな」とか言い出す。
シオリも言われて気づいたらしく、MPを結構無駄に消費していて、やりきれない気持ちになっているみたいだ。
無言でむくれてる姿も可愛いが、俺をにらむのはやめてくれ。
・リザルト
・蟻の頭×37-6(残31)
・虫の外殻×48-48(残0)
・虫のアゴ×48-28(残20)
・虫の触角×96-8(残88)
・蟻の鉤爪×178-52(残126)
・虫の足×285-154(残131)
・蟻の甲殻×86-82(残4)
・蟻酸×88-40(残48)
・ジャイアントアントの魔石×103
妖精たちに頼んで、防具を作ってもらった。
・虫殻の兜×4
・虫殻の胸当て×4
・虫殻の小手×4
・虫殻の脚甲×4
・虫殻の小盾×4
・虫殻の盾×2
・虫殻の鎧×2
・蟻頭の兜×6
・蟻殻の胸当て×6
・蟻殻の小手×6
・蟻殻の脚甲×6
・蟻殻の小盾×6
・蟻殻の盾×6
・蟻殻の鎧×4
素材が結構減ってしまったが、意外と性能が良い防具ができたと思う。
……でも、仲間たち誰も装備しようとしないぞ……。
今度《街》に戻ったら、どっかの店に売り払うか……。




