第百六十四話:閑話:採掘隊出発
《クエスト:鉱石採掘隊の護衛》
最近の魔物の発生状況により、武器や防具として消費している『鉄』が足りない。その他の鉱石も足りない。
街より北東の《鉱山》で鉱石を採掘する中規模な採掘隊を編成する。その護衛をしてほしい。
・依頼者:生産者ギルド
・対象:《鉱山》にて鉱石を採掘する坑夫の護衛。
・報酬:前金:銀貨30枚、成功報酬:銀貨50枚。鉱石の採掘量により追加報酬の可能性有り。種類、品質、量により変動。
・備考:冒険者ランク3以上、または、護衛依頼の経験者に限定させてもらう。クランでの参加も歓迎する。
・備考:準備期間3日の後、往路4日、採掘期間3日、復路4日の、計11日間の予定。十分に準備すること。
・備考:鉱石の値が上がっている現在、鉱石を狙った野盗の出現も考えられる。復路こそ警戒を怠らないように。
・備考:人数制限有り。依頼を受ける際はきちんと確認すること。
十七日目。さっそくやらかした。
採掘隊の護衛依頼を受けて、出発の準備を整えるため手分けして必要なものを集め、生産職のプレイヤー、ヒイラギを仲間にした翌日、採掘隊は早朝から出発。
採掘専門の労働者が15人で馬車2台、無職の期間限定労働者が10人で馬車1台、冒険者がクラン2つで15人とフリー7人で馬車2台馬7頭、冒険者ギルド職員や配給係などの支援要員で馬車1台の、合計馬車6台馬12頭+7頭50人ほどの大所帯での移動。
フリーの冒険者は馬に乗れる者たちで構成されていて、移動中の護衛を主に担当。
クラン組は休憩中や夜営中の護衛を主に担当することになっていた。
馬車での移動は、思ったより揺れて大変だし、馬を休ませるために頻繁に休憩を取ることで、徒歩よりは速いはずの速度も、総移動距離は割りと大したことがないようだ。
……と思っていたら、俺たちはファウたちの権能によるテレポートでだいぶ距離を稼いでいたらしく、《街》の北にある《魔の森》まで早朝から夕方までかけてようやくたどり着くのが普通なんだとか。
移動中は魔物が出てきても馬移動のフリー冒険者たちが対処してしまうため暇なもので、ついぼやいてしまう。
「あー、早く着かないかな」
「移動に4日を予定しているから、まだ着くわけないわ」
そんなボヤキを、シオリにツッコまれてしまう。
『ユーノ、早く着けばいいんだよね?』
うん? ボーッとしてて、ファウが何を言ったかちゃんと聞いてなかった。なので、聞き返そうとしたら、馬車が停止していた。
「あれ? 停まってるね?」
アキラが首をかしげて不思議そうにしている。
「ねえ、インデックス? なにをしたの?」
シオリがインデックスに詰問するような強めの口調で問いかけるも、無表情で無口の妖精は、グッと親指を立てるだけでなにも言おうとはしない。
……あ、これ、ファウと一緒になんかやったな?
『成功したようね。数が多いからどうなると思ったけれど』
と、得意気にふんぞり返っているのは、ティータ。
……えっ? 失敗したらどうなってたの?
「ティータ? 失敗したらどうなってたの? ねえ、ティータ?」
『うるさいわねアキラのくせに。成功したからいいじゃない』
ツンとおすましなティータは、どこ吹く風とばかりに、プイッとそっぽ向いてる。
「あ、あのさ。なんか、馬車の前の方が騒がしいよ?」
「あー、なんつーか。……まあ、そりゃそうだよな」
馬車の外を見てみると、視線の先には《魔の森》が。
まあ、要するに。
「馬車で半日分の距離を、妖精テレポートでサクッと移動しちゃったってわけね」
ウンウンと、チーム最年長のマキさんが訳知り顔でうなずく。
ドンドン、と馬車の壁を叩く音に振り向いてみれば、
「おい、ユーノ。なんか言いたいことはあるか?」
頬をひくつかせてるダクさんが。
……俺がなんかやっちゃったわけじゃねえんだけどなぁ……。
「移動の際に方角を見失うということは、命綱を無くすことと同じことなんですよ?」
で、今は冒険者ギルドの職員さん(巨乳)と生産者ギルドの担当者から3柱の妖精たちの相棒である俺とシオリとアキラが、説教食らっているところ。
「事前に相談があれば、それに応じたスケジュールを組むし、歩調を合わせて《転移》してくれたら、護衛の冒険者が乗る馬が驚いて落馬することもなかったんだよ?」
それも、心にクる理攻めの方で。
『ごめんなさいー……』
『…………』
『…………ふ、ふんっ』
ファウとインデックスとティータも、合図もしないでテレポートしたせいで、地面のでこぼこを避けるために馬を操作したら、転移先の目の前に大きめの岩があって、避けたはずなのに別の障害物が!? と驚いた冒険者が手綱を引いたら、馬も驚いて若干パニックになって冒険者が振り落とされたらしい。
幸い落ちた冒険者のケガも大したことなかったし、ダクさんのチームにいるヒーラーの人が念のため回復魔法をかけたので、そっちは問題ない。
むしろ、みんなのためになると思い勝手な行動をして、驚かせてしまったことがよくなくて、事前に相談すればなにも問題なかったわけで。
とはいえ、信仰対象な妖精を叱りつけるわけにもいかず、その相棒である俺たちが説教食らっているというわけだ。
でも、ファウはやらかしたことをちゃんと理解して、謝ってる。
インデックスとティータは……。うん。
まあ、まちがったことは一切言ってないし、なにが悪くてどうすれば良かったかを分かりやすく説明してくれているので、反省する他ないが。
……いや、その、な?
次は、俺らも不意打ち食らうようなテレポートは、やめてくれな? マジで。
頼むよ、ファウ?




