第百六十二話:閑話:テスト終了
AEO開発スタッフの視点
「24:00。現時点をもって、第二次βテストを終了する。お疲れさま。各班、トラブル対応要員以外は休んでくれ」
二十一日目、24時00分をもって、第二次βテストも終了した。
ここからは、これまで得られたデータの分析とフィードバック、サーバーの増設、浮かんできた問題点の洗い出しや予想されるトラブルの対応策など、やるべきことはいくらでもある。
ただ、今日このタイミングだけは、トラブル対応要員を除いて十分な休息を取ることが推奨されている。
……というか、そうなるようにゴリ押しした。
どうせ部長のこったから、またスケジュールに無い追加要素をねじ込んでくるとか、デスマ案件をブッ込んでくるだろう。
その時対応できないとマジで終わるので、この段階での大休止は絶対に必要だと熱弁した。
つーか、ここ1ヶ月単位のスケジュールが狂いまくってるのは、だいたい部長のせいなんだよな。
……あー、おもいだしたらまたムカついてきた……。
「主任、お疲れさまです」
「あー、サンキュー岩崎」
「しゅにーん、お疲れっすよー」
「梅原さっさと寝ろ」
「あたしだけ対応塩辛くないですかー?」
もはや定番となりつつある、部長が支給する発光薬草茶を岩崎が持ってきてくれたので、一服する。
寝ろって言われて寝ていられる立場でもないが、今寝ておかないと明日以降が大変なんだよな……。
「あの、主任。まさか、明日も出勤するつもりですか?」
「んあ? どうした岩崎? 当たり前だろ?」
「あちゃー、ダメだこの人」
「なんだ梅原? ケンカ売ってんのか? そんなオシオキされたいのか?」
「あのですね、主任。主任と、私たち。3人とも明日は休みになってます」
「…………あれ、マジ?」
「マジですよぉー。だから、おうちに帰りましょーよー」
「……あー……そんなら、関、あとは頼むな」
「もげろ」
梅原に右手を、岩崎に左手を引っ張られて立たされたので、もう帰ることにする。
開発チームのサブリーダーである関に声をかけると、ちらりと目を向けたと思えば、罵倒が返ってきた。
……いや俺、お前の上司なんだけど……。
「はい、久しぶりに帰ってきました我が家ーっ」
「社員寮だけどな」
寮といいつつ、一軒家。
今のメーカーに世話になる時に、3人で借りた借家だ。
そのため、定期的に掃除サービスも入っていて、何週間か戻っていなくてもホコリが溜まっているとかもないしカビが生えているとかもない。
夏とかは庭の雑草むしったりしてくれるみたいだし、そこにかかる費用は全部メーカー持ちとか、太っ腹だ。
庭付き一戸建て4LDKと聞いて借りたが、一階はリビング、ダイニングキッチン、畳の和室、風呂、トイレ男女別。二階は、3部屋にトイレ男女別で、各部屋にクローゼット有り、駐車場有りと、部屋数も広さも十分過ぎる優良物件だったりする。
最近は何日も帰ることができなかったが、やはり我が家は落ち着くなあ。
仕事が落ち着いたら、犬とか飼ってもいいだろうし、車も軽じゃなく普通乗用車とか乗り心地良いのにしてもいいだろうな。
「悟さん、清掃サービスから、冷蔵庫の中にあった賞味期限切れの食品は破棄したとのメモ書きが」
「あー、分かった。またしばらく帰れない可能性はあるが、明日買い物行って少し買い足すか。期限短いのはナシとして、小百合、必要なのメモっといてくれ」
「分かりました」
「ねーねー悟さーん、あたしの名前も呼んでくださいよー」
「冴は黙ってろ」
仕事中は公私混同を避けるために名字や肩書きで呼び合っていたが、家に帰ればこんなものだ。
……3人とも、仕事中もたいして変わらんか……?
冴を雑にあしらいつつ風呂にお湯を張り、自室の状態を確認して着替えを用意する。
風呂が沸くまでは少し暇なので、明日のというか日付が変わった今日の予定でも考えるか。
冷凍食品以外は食うものもろくに残ってないので、明日は買い出しに行かないといけないが……。
……たまには、外食でもいいか。
家でゆっくりするのもいいが、外食しながら3人でどっか行くのもいいな。
目的を決めて楽しむのもいいが、予定組まずにぶらりしてもいいだろう。
相談は……明日でいいか。
風呂が沸いたので、先に入れというので風呂に行けば、
「あ、あの、悟さん。お背中、流します」
「悟さーん、お背中流してくださーい」
相棒で同居人な女性2人が、風呂に押し掛けてきて……。
……体洗って流してさっさと出て寝るつもりが、思いのほか長風呂になってしまった。




