第百六十一話:会食
飯テロ注意。
なんか、ヤタがお城でごはん食べたいと王様におねだりして、王様とか王子様とかウィルさんとかウィルさんの奥さん子どもとか含めた人数で、コース料理をいただくことに。
……僕らを入れると10人軽く越えるよね。急に人数増えて、料理作る人たちは大変だったんじゃないかなぁ……?
特に、ウィルさんは2人の子どもたちまで呼ばれてたし。
給仕の人がワインと果汁どちらが良いか? と聞いてくるので、僕たちはみんな果汁を選ぶ。
全員に飲みものが行き渡ると、王様が酒杯を掲げて挨拶をする。
「儂の命を救ってくれた礼としてはささやかではあるが、ほんの気持ちだ。事態の解決に尽力してくれたのは冒険者たちであるゆえ、マナーはうるさく言わぬ。分からぬことがあれば、なんでも問うてくれ。皆で良いひとときとしよう。では、乾杯」
テーブルマナーとかよく分からないので、王様とかの真似をして目立たないようにしよう。
王族が飲みものをぐいーとイッキするので、僕もそうする。
『……ふむ。ワインは初めて呑んだが、悪くない』
って、ヤタ? ヤタはお酒にしたの?
「17年ものでございます。その年はブドウのできが良く、当たり年といわれており、口当たりが良く上品な味に仕上がっています」
あ、料理人みたいな人がニコニコ笑顔で解説してる。
「前菜は、七首鶏の蒸し鶏とゴールドサーモンのカナッペでございます。七首鶏は7本の首がある大型の飛べない鳥でございますが、通常の鶏肉とは違い、長い首の肉が美味でございます。ゴールドサーモンは、全身が金色の鮭で、豊かな川でよく獲れる大きな川魚でございます」
ふむふむ。一口大の小さなパンに薄切りのお肉かお魚の切り身が乗ってるね。
あ、美味しい。ちょっとしょっぱいけど小さいからお腹にたまらないね。
これ、両方、大きな切り身をフライにしてパンにはさんで食べたいなあ。
たぶんどっちも魔物だよね? サーモンとか養殖できないかなあ?
「スープは、王都より南の湿地でよく獲れる泥カニのスープでございます。泥に潜むため、処理せずそのまま出汁をとると、泥臭くなってしまいますが、適切な処理をした場合、香りの良いスープになります」
美味しいけど、自己主張の強い香りが特徴的なスープだね。これがカニの出汁なのかな?
……あ、スープは器を持っちゃダメなんだ。手前から奥に向かってスプーンを動かしてるね。
「魚料理は、先ほどと同じ王都南部の湿地に生息する大沼ナマズのムニエルでございます。白身の淡白な味わいと肉に近い食感が楽しめる一品になっております」
うわあ、魚料理だけど肉厚だなあ。厚さ何センチあるんだろ?
噛むと結構な弾力があって、柔らかい鶏肉の塊を食べてるみたい。身もかかってるソースも美味しいんだけど、僕なら一口大に切って下味つけて唐揚げにするかな。甘酢あんかけとかも美味しそう。
「肉料理は、同じく王都南部の湿地に潜む湿地ウナギのかば焼きでございます。湿地ウナギは魚に分類されますが、肉厚の身と食べごたえから、肉料理に匹敵する満足感を得られます」
わわ、これまた肉厚な。
ナイフが軽く刺さっていくのに、口に運べばタレの味とウナギの芳醇な味わいが。
フワッと柔らかい身だけでなく、食感の違う皮まで美味しいなあ。でもこれ魚料理の枠だよね。
メインディッシュで出されてもおかしくないくらいは美味しいよう。
「ソルベは、レモンのジェラートでございます。魚や肉の余韻を流し、メインディッシュへの箸休めとしておあがりください」
冷たくてさっぱりした、レモン味のかき氷アイスだね。ジェラートともちょっと違う感じ。
濃厚な脂が綺麗さっぱり流されてく感じだよ。
「メインディッシュは、オークキングのレアドロップ《天上の豚肉》のステーキでございます。初めて扱う食材でございますが、全力で挑ませていただきました。フライパンにしく脂も、《天上の豚肉》の脂身を使っております。それゆえ、この肉と脂の香りが、暴力的なまでに食欲をそそります。我ら料理人一同、この食欲に抗うのに必死でございましたが、完璧に調理させてもらいました。
これより仕上げのソースをかけます。皿が大変熱くなっておりますので、やけどには注意してお召し上がりください」
漂ってくる香りを感じて、湯気が上がる焼きたてのお肉を見て、目の前で仕上げのソースをたっぷり垂らされ熱された石の皿でじゅわわわと音をたてるのを聞いて。
ごくり、と、生唾を飲み込んだのは、誰だったか。
あとはもう、夢中で食べた。
気がついたらお肉がなくなっているという、幸福感に満ちたひととき。
魚料理も肉料理もボリューム満点だったから、もうお腹が満杯だよ。
「生野菜は、王都近郊で採れる葉もの野菜を複数合わせています。ほのかな甘味と苦味、ソースの酸味をお楽しみください」
果物っぽい黄色いソースがかけられた葉もの野菜の盛り合わせだね。
何種類かの葉もの野菜を盛り合わせているから、意外なほど味が複雑で彩りも鮮やかだなあ。
苦味は苦手だけれど、それも含めて美味しい野菜だね。
「最後に、デザートは、桃とリンゴのコンポートでございます。大人の皆さまには白ワインで煮たものを、若い皆さまには砂糖水で煮たものをお出ししております」
桃とリンゴを切り分けてから軽く煮たものみたいだね。
もうお腹が一杯だけど、見た目も綺麗だしこれは食べたいなあ。
うん、美味しい。シャクッとして歯応えも軽いけど、味がしっかりしてるリンゴと、柔らかくて甘い桃。
きっと、素材もいいんだろうね。
どっちも好きな味だよ。
ごちそうさまでした。
はー、まんぷくまんぷく。
どれも美味しくて、とっても満足だよ。
『もう少しもらってもいいか? 前菜とか、魚料理とかでいいんだが』
ヤタ、まだ食べるのっ!?
「かしこまりました。妖精様はたくさんお食べになるのですね」
『うん。いや、本当は必要ないし普段はこんなに食べなくてもいいんだが、なんだか今日はそういう気分だ。普段とは違う食材、違う味付けだからか?』
「左様でございましたか。妖精様に料理をお出しした料理人として、また、お代わりを求められた料理人として、大変な誉れでございます。では、すぐにお持ちいたします」
そういって奥に引っ込んだら、ほんとにすぐ前菜を持ってきたよ。
「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ。魚料理の方も、すぐにお持ちいたします」
『頼む』
そういって、ヤタは自分の体くらいの大きさがあるカナッペを、一口で食べているよ。
その様子を、王様とかが興味深そうに見ているね。
ヤタがお代わりをパクパク食べている間、お腹の調子を整えるという温かい薬草茶で食後の一服。
あー、お腹がパンパンで苦しいくらいなのに、その苦しいのが薬草茶を飲んだらスーッと楽になっていく感覚だね。
『お代わり』
もう、ヤタはそろそろ食べるのやめようね?
王子さまとかウィルさんのお子さんとか、顔がひきつってきてるじゃないのさ。
僕は満腹で眠くなってきたよ。
『……げふ、ごちそうさん。……やっぱり、ミコトが作る食事が一番好きだ』
「あんだけ食べといて、そんなこと言うのっ!? それ、料理作った人たちに絶対言っちゃダメだからね!? 絶対だからねっ!?」
※本文内でのコース(メインディッシュ以外は、すべて王都近郊で採れる食材)
・乾杯した食前酒 (赤ワイン/ブドウ果汁)
・前菜(七首鶏の蒸し鶏とゴールドサーモンのカナッペ)
・スープ (泥抜きした泥カニをまるごと使ったスープ)
・魚料理(大沼ナマズのムニエル)
・肉料理 (湿地ウナギのかば焼き)
・ソルベ (レモンのジェラート)
・メインディッシュ(オークキングのレアドロップ《天上の豚肉》のステーキ)
・生野菜(葉もの野菜盛り合わせ)
・デザート (桃とリンゴのコンポート)
・食後の飲みもの(薬草茶)
七首鶏は肉料理、湿地ウナギはメインの予定だったものの、《天上の豚肉》がメインになったため、急遽メニュー変更。
湿地絡みで、すっぽん(カメ)も考えたものの、メニューには入らず。