第百六十話:《忌まわしき黒》
「…………これが、《忌まわしき黒》、か…………」
あまりに突然な事態に、呆然とする王様。
今日、もし、僕らが、ここに来なかったら。
……そのifに、意味はない。
けれども、考えずにはいられない。
今日、もし、僕らが、ここに来なかったら。
入れ代わっていたのは兵士の一人だけではすまなかったかもしれないし、王様が暗殺されていたかもしれない。
『…………ふむ、面倒な状況だな』
静まりかえる中で、嫌そうにヤタが呟く。
『……隠居、お前、気づいていたか?』
「……あの兵士に、黒いもやがかかっていたような気がしましたのは、気のせいではなかったというわけですな」
人の皮を被っていた《忌まわしき黒》を、呪いの発動を防ぐために倒したことで飛び散った、汚い液体で汚れてしまったミナトと床をスキルで《浄化》していると、ヤタとおじいちゃんが深刻な顔で言葉を交わしている。
「妖精様。あなた様とヘンリーであれば、この《忌まわしき黒》が成り代わっていても気づけるということですかな?」
王様も、深刻な顔で話に加わる。
『……面倒だな。……ああ、面倒だ。……ミコト、レシピをやる。今すぐ作れ』
レシピ : 心眼鏡 を入手。
レシピ : 耐呪のお守り を入手。
「えーと、《心眼鏡》に、《耐呪のお守り》と。素材はあるし作るのは難しくないから、やっちゃうね」
・スキル《錬金術》を行使。
・石ころ×10=砂×5、
・砂×10=珪砂×5、
・ミスリルインゴット×1+銀インゴット×2+珪砂×4=ミスリルグラス、
・ミスリルグラスにスキル《装備付与》を行使。
・ミスリルグラス×《装備付与》=心眼鏡。
・古びた和紙×2+鬼の反物×1+鬼の血×2=耐呪のお守り。
はい、できあがりっと。
眼鏡にミスリルインゴットを消費するのは痛いなあ。
で、お守りはともかくこの眼鏡、何に使うんだろう?
・心眼鏡 : 真贋を見透す心眼。偽りを暴き、真実をこの眼に。
…………? 要するに?
『ミコト、自分で作っておきながら、これがなんなのかよく分からないって顔をするんじゃない。こいつは、神が与えたもうた奇跡の一つ。真実を見透す力を持つ。つまり、《忌まわしき黒》が成り代わっていても、この眼鏡で見ると分かるというものだ』
へぇーっ! それはすごいね。
……でも、見破るのに神の奇跡が必要とか、大袈裟だねえ。
『ミコト、レシピを紙に書いて王に渡せ。……王よ、それらを量産しろ。そして、《浄化》は自分たちでやれ』
「畏まりました。では、宰相。素材の備蓄と生産可能な人員を確認し、直ちに量産体制に移れ。王場内の《浄化》と平行して、城下町の《浄化》も進めろ。門番にも配備し、いずれはすべての街や村に配備するのだ。……呪いへの対処も忘れるでないぞ」
「仰せのままに」
あらま、王様の後ろに控えていた人って、宰相さんだったんだ。
どうりで、立派なローブを着てるわけだよ。
ところで、宰相ってなにする人なんだろうね?
「妖精様、国を代表して、感謝申し上げます」
『感謝はミコトと隠居にするといい。ミコトが来ると言わなければオレも来なかったし、隠居が王へ話を持っていくと言わなければ、ここに来ることもなかった。……それに、なにも終わっていないのに、感謝するのはまだ早い』
「左様でございますな。では、ミコト嬢とヘンリー、そして、エルフの族長殿に礼をせねばならぬな。欲しいものがあれば、遠慮なく申してみよ」
王様が欲しいものはと聞くので、言うだけ言ってみよう。
「《王都》で活動するための拠点が欲しいな。空き家とかの物件を見繕ってもらえたらありがたいよ」
「ミコトちゃん、王都での拠点などは、ナイツ伯爵家の邸宅にしなさい。王家で押さえてある物件といえば、貴族街の曰く付きな邸宅などの瑕疵物件ばかりだよ」
「そうなんだ? じゃあ、王都ではウィルさんにお世話になるとして、そうすると、今欲しいものは特にないかな」
活動拠点さえあれば、《第二拠点》みたいにホームポータルを設置できるかもだし、各種作業用のゴーレムを作るためのゴーレムコアが欲しいけど、王様にお願いするようなものかな?
「いやいや、まてまて、ミコト嬢。まがりなりにも、儂の命を救ったのだ。きちんとした礼をせねば、国の威信に関わるのだよ。なんでもいいから言ってみなさい。大金でも、財宝でも、一等地の邸宅でも、王の名にかけて、用意してみせるぞ?」
うーん、そういってもなぁ……。
お金は十分あるし、財宝とか別に必要じゃないし、活動拠点はウィルさんのお家にお願いするし。
「……うーん……。ヤタ、なにか欲しいのある?」
『美食。より具体的にいうと、王都周辺で手に入る食材のリストが欲しい。魔物の肉とかも含めたものを用意しろ』
「おお、それでありましたら、直ちにリストアップして提供することを約束しましょう。しかし、非常に申し訳ないことですが、しばしお時間いただくことと存じます。それでも構いませぬか?」
『構わぬ』
「妖精様は、美食に興味がおありで?」
『他の妖精は知らぬが、オレは美味いものを食べるのが好きだ』
「では、会食の席を用意させましょう。皆の分も用意するゆえ、今宵は楽しんでいってほしい」
今は欲しいものとか特にないので、ヤタに話をふったら、なんかトントン拍子で話が進んじゃって、王城で食事することになっちゃったみたい?
・心眼鏡(その他/金属/頭部)
:レア度8
※スキル《心眼》 : 真贋を見透す心眼。偽りを暴き、真実をこの眼に。
・耐呪のお守り(その他/布/その他)
:レア度7
※スキル 呪い無効3 : レベル3までの呪いを無効化し、それ以上の呪い成功率を30%低下する。




