第百五十九話:《王都》・王城
ヤタに《祝福》された白馬が王城へ向かうのを見送りつつ、準備していた馬車に僕らも乗って移動。
常識的な速度で移動する馬車に揺られながら、ヤタに問いかけてみる。
「ねえ、ヤタ? どうしてお馬さんを《祝福》したの?」
僕の問いかけに、頭痛がするとでも言いたげに額を押さえて少しの間沈黙して、それから教えてくれる。
『人間相手の《祝福》なら、隠居一人で十分だ。だが、伝令を《祝福》すれば、立場が上のものでも、伝令の発言を無視できなくなる。ただの伝令ではなく、妖精に《祝福された者》の言葉になるからだ。そうなってしまった者が、増長しない保証などあるわけがない。
それに対して、馬を《祝福》したならば、馬をそのまま寄贈品としてくれてやっても構わないだろう。受け取った側は当然大事にするし、贈った側に感謝すると共に借りを作ることになる』
借り……。
そうなのかな?
ヤタの言葉に首かしげ。
そんな様子を見たおじいちゃんが、苦笑しながら説明を追加してくれる。
「ときおり見つかる《祝福》された品は、持ち主だけでなくその周辺の者にも幸福が舞い降りると信じられているのだよ。……といっても、ほんのささやかな幸福のようだがね」
なるほど?
だからつまり、みんな欲しがるし、もらったら大事にするし、くれた人には感謝するってことでいいのかな?
貴族街から王城へつながる門も、ヤタとおじいちゃんが顔を出すだけですぐに通過。
お城の中庭で馬車から降りて伝令の人と合流。
書状を確かに渡したことを確認すると、一人で帰っていった。
白馬を置いて、徒歩で。
……あれ? お馬さん、本当にお城に寄贈するのかな?
その後、金糸の刺繍がされたローブを着た偉そうな人に案内されて豪華な部屋に通される。
壁際で直立不動の姿勢で待機する、銀色の精緻な紋章が刻まれた鎧を着た兵士の人に睨まれながら、侍女の人が出してくれたお茶で喉を潤しながら待つことしばし。
さっきの人とは別の、金糸の刺繍がされたローブを着た人をお供に連れて、豪華なマントを着て王冠を被った壮年の男性が姿を現した。
「ヘンリー、貴様、隠居の身で儂を呼びつけるとはな」
「国王陛下、ご健勝なようでなによりでございます。突然の訪問、無礼を承知ではありますが、危急の事態ゆえ、まずは情報を」
ちょっとイライラしてそうな王様は、おじいちゃんが、まずはこちらをと示す先を見て、すごくビックリしていた。
「……なんと、この目で、妖精様を拝む日がこようとは……」
ウィルさんよりもさらに驚いている王様。
片ひざをついて指を組んでお祈りのポーズをしちゃったよ。
あ、お供のローブの人もだ。
なんだか邪魔しちゃいけない雰囲気で王様が祈るのを見守ることしばし、ようやく立ち上がった王様は、おじいちゃんの正面に座り、お供の人はその背後に立つ。
「して、ヘンリー。その情報とは?」
「その前に、陛下、先に届けた書状は」
「確認した。それゆえ、謁見の間での謁見ではなく、手続き等無視して、こうして場を設けたのだ。……で? エルフの族長からの書簡とな?」
「はい。こちらの妖精様が寄り添う黒髪の少女が、諸事情あってエルフの里に赴き、族長より書簡を託されたのです。……ミコトちゃん、族長殿からの書簡を」
おじいちゃんが手を差し出してくるので、書簡をおじいちゃんに渡す。
その書簡は、王様の後ろに控えていたローブの人が受け取り、中身を取り出して王様へ。
そこに書かれているのは、エルフ側で起きた異変。
不可侵なはずのエルフの《領域》内で発生した、誘拐未遂事件。
領域の外で活動していたエルフを捕縛し、皮を剥ぎ取って身に纏った、黒いゴブリンのこと。
エルフ側は、そのゴブリンどもを《忌まわしき黒》と特別に呼称し、根絶やしにすると宣言。
そして、人間側でも似たようなことが起きてはいないかという、注意喚起と気遣い。
この件について、情報を共有し、人間側でも《忌まわしき黒》を殲滅してほしいとの要請。
そして、黒髪の少女に寄り添う妖精を通じて、連絡を取り合おうとの提案。
最後に、この案件は、ドワーフや獣人などといった他の種族とも情報を共有するとの宣言。
おじいちゃんエルフの書状を読み終えると、大きく息を吐き目元を揉み込む王様。
場合によっては、複数の種族と連携した巨大な同盟ができるかもしれない、大きな節目。
突然の事態に、事実を受け止めるのに時間がかかる王様。
その書状を、お供の人に読めと渡し、僕に向き合う王様。
「して、そなたの名は?」
「ミコト」
「ミコトよ、にわかには信じがたい情報で、儂も戸惑っておる。しかし、貴重な情報をくれたエルフの族長には、礼をしたい。手紙を書くゆえ、エルフの族長に届けてはもらえぬか?」
『それはいいが、聞け、人間の王よ』
「はっ。妖精様、何事でありましょうか?」
『人間は、いつから、ゴブリンを城の中で飼っている? それも、衛兵として』
「……なんですと!?」
王様のお返事書く宣言から、ヤタが口にした言葉。
それに驚く王様とお供の人。
もちろん、僕らもビックリ。
スキル《鑑定》をすれば、すぐに分かったかもしれない事実。
それは……。
『※※※※※※※※※!』
壁に控えていた兵士の人が、突然叫びだし、腰の剣を抜いて王様へと襲いかかる。
突然の暗殺は、すぐさま反応したウィルさんが間に入ったことによって阻止され、トールくんとリンドくんによってうつ伏せに組み伏せられた。
「陛下、ご無事ですか? お怪我は?」
武器もなければ鎧も着ていない軍服姿のウィルさんは、素手で剣をいなし、奪い取って拳で兵士? の腹を一撃。
わずかに遅れて動いたトールくんとリンドくんが取り押さえた兵士? の鼻先に、奪った剣を突きつけた。
「妖精様は、嘘はつかぬと聞く。なれば、この兵士はゴブリンで、すでに……」
『※※※※※※※※※!』
押さえられたまま顔を上げた兵士? は、突然笑うように叫び、血を吐き出して動かなくなった。
「えっ? どうなったの?」
『条件を満たすと発動する呪いの1種。……まあ、要するに、暗殺失敗で身バレしたから、自害したんだよ』
「……うーん……。これ、どうにかなる?」
『今すぐ仕止めろ。次の呪いが発動する前に』
「……えっ?」
「ちっ。……ドラァッ!」
状況についていけずにうろたえていると、ミナトが舌打ちして飛び出し、兵士? の頭を殴り潰した。
人の血肉とは違う、汚い色の臭い液体が周囲に飛び散るけど、ヤタは平然とした顔でしゃべり出す。
『こうやって、プレイヤーが魔物を倒すと、魔石と素材の一部をドロップする。
そうすることで、贄となる死体が無くなるわけだから、死をトリガーにして死体を贄に発動する呪いを防ぐことができるわけだ』
「………………ねえ、ヤタ? その呪いが発動していたなら、どうなっていたの?」
『さあな? 発動した呪い次第だろ。呪いの種類は多岐にわたる。今のオレでは、発動していない呪いを解析することまではできないな』
・リザルト
・ダークゴブリンナイトの魔石を入手。
・黒ずんだ骨 (呪い)を入手。
・汚染された血を入手。
・ヒトガタの木片 (呪い)を入手。
・ヒトの皮 (呪い)を入手。




