第百五十八話:《王都》・ナイツ伯爵邸
と、いうわけで、やってきました《王都》。
おじいちゃんとお話ししたあと、護衛の人やお世話する人を置き去りにして、ぐれ太に乗ってひとっ飛び。
以前に作った鉄のケージに、最低限の人だけ乗ってもらい、護衛とお世話する人たちのほとんどは馬車で陸路を行ってもらう。
なんでも、道中にある村や町で、買い物したり宿に泊まったりして、少しでもお金を落としていかないといけないんだとか。
でも、そんなことしてる暇は、ないよね?
そういうのは、護衛とお世話する人たちに任せてさ、おじいちゃんは僕らと先に王都へ行こうよ。
そんなわけで、おじいちゃんと側近の人2人だけ、ぐれ太に乗って空の旅。
大きな街が見えた辺りで地上に降りて、家紋つきの馬車っぽいものを急いででっち上げて、先日購入した家畜の馬を召喚して、馬車っぽいものを引かせている。
街をぐるりと囲む高い防壁には、東西南北の4ヵ所に大きな門が設置されているという話で、その大きな門を通過するために並んでいる人がいたけれど、貴族用の通用口からあっさり街の中に入ることができちゃったよ。
側近の人が手綱を握る馬車は、きちんと手入れされている石畳の大通りを寄り道せずに進み、王城の周辺を護るように配置されているという貴族街の門へ。
ここでも、鎧を着込んだ衛兵さんが槍を持って門を守っていたけれど、伯爵家のゆかりの人だと分かるとすぐに通してくれた。
門を通過するとき、門の上から弓を持った衛兵の人がひょっこり顔を出していたけれど、なんか暇そうだね。
もうすぐ夕方だし、そろそろ交代の時間なのかな?
「おかえりなさいませ、大旦那様」
「うむ。急に来てすまぬが、ウィルはおるか? 事は緊急を要する」
おじいちゃんが至極真面目な顔で言い放ち、側近の人が出迎えてくれた人に耳打ちすると、立派なお屋敷に慌ただしい空気が生まれる。
おじいちゃんは、勝手知ったる我が家といった様子でずんずん進んでいくけれど、僕らはどうしたら……。
と思ったら、振り向いたおじいちゃんに着いてきなさいと言われる。
そのまま入り口に立ってるわけにもいかないので、みんなでおじいちゃんのあとを追う。
お仕事中のメイドさんとか執事さんとかとすれ違うけれど、幾人かはじっとりとした視線を向けてくるなあ。
やがて、ある部屋の前でおじいちゃんが立ち止まり、ドアをどんどんどんと叩いてから、許可もなくガチャリと開け放った。
「ウィル、戻ったぞ。緊急事態だ。至急、国王陛下へ取り次いでくれ」
部屋の中は、執務室みたいな感じで、おじいちゃんによく似た中年の男性と、男性より少し若そうな女性が書類と格闘していた。
「父上、お帰りなさいませ。して、何事ですかな? 先触れも出さずに……」
男性が、ビックリしたような顔でこっちを……というより、ヤタを見ている。
「…………なんと…………。……驚きました。よもや、妖精様と共にこちらに戻るとは」
「ウィル、急を要する書類でなければ、こちらの話を聞きなさい。マリー、すまないが人数分の茶を用意しておくれ」
唖然としている男性に構わず、おじいちゃんはてきぱきと指示をして、テーブルとソファのある方に行って座ってしまう。
「ミコトちゃんたちもこちらに来て座りなさい」
おじいちゃんが手招きするので、テーブルの方にいくと、僕とミナトがソファに座って、トールくん、ステラ、リンドくんは僕たちの後ろに立っていることに。
「自己紹介も後回しにしたいところだが、しなければ話が先に進まぬだろう。ウィル、こちらの黒髪のお嬢さんは、ミコトという。この子が、エルフの里に赴き、族長より重大な事件を記した書簡を渡された。その書状を人間の権力者に渡し、情報を共有しようと。そのためにワシを頼ってきたわけだが、王都より北の街だけの問題ではなさそうでな」
まずはこれを読みなさいと、エルフのおじいちゃんからもらった書簡を差し出す。
ウィルさんは、それを読んですぐに、目を見開き、動揺しだした。
「…………ち、父上……。これは、いったい…………」
「うろたえるでないと言いたいところだが、気持ちはよく分かる。それゆえ、国王陛下に謁見せねばならぬ。取り次げるか? 普通の手段では、時間がかかりすぎるゆえ、文字通り飛んできたのだ。可及的速やかに、この事実を伝えねば」
ウィルさんは、僕とおじいちゃんを交互に見て、僕の頭の上に乗ってるヤタを見た。
「……妖精様が同行してくださるのであれば、陛下もすぐに応じることでしょう。ですが……」
『オレは、このミコトに寄り添っている。ミコトが行くならオレも行こう』
「で、あれば、皆で行きましょう。今から皆で。……マリー、伝令を走らせてくれ。謁見のための書状は今書く」
「であれば、《天上の豚肉》を手に入れたゆえ、晩餐に供する用意があると書いておくれ」
「それは、慌ただしくなるでしょうなっ! 私もご相伴に預かりたいものです!」
ものすごい速度で羽ペンを動かすウィルさんは、《天上の豚肉》と聞いてペンの速度をさらに加速させていた。
おじいちゃんに預けた分だけじゃなく、まだまだあるよって言ったら、ウィルさんどうなっちゃうんだろうね?
(……おい、ミコト。今ここで豚肉出すなよ?)
まだなにも言ってないのに、ミナトからツッこまれちゃった。
「はい、では、書き上がりましたよっ」
「(旦那様、伝令を待たせています)」
ウィルさんが羽ペンを止めると同時に、執事の人が部屋の外から声をかけてくる。
「入れ」
その許可を、おじいちゃんが出してる。
大丈夫?
「これを持っていきなさい。そして、火急の報せだと国王陛下へ取り次ぐように。ワシたちもすぐに向かう。……ミコトちゃんは、族長からの書簡を預かっておくれ」
そう言いながらウィルさんの書いた書状を確認して、伝令の人に渡すおじいちゃん。
僕には、おじいちゃんエルフの書簡を手渡してくる。
失くさないようにアイテムボックスに入れとこう。
なんだか慌ただしくて、マリーさんが用意してくれた人数分のお茶は、無駄になっちゃうかなあ?
「その前に、せっかく淹れてくれた茶を飲んで落ち着こうか。皆もいただきなさい」
『ミコト、茶よりもさっきの伝令を追え。屋敷を出る前に捕まえるぞ』
「うん、ヤタ。じゃあ、僕は先に行くね?」
僕が立ち上がると、皆も一斉に立ち上がって着いてくる。
お茶は結局無駄になっちゃうね。
ヤタの先導でお屋敷を進むと、伝令の人が白毛の立派な馬に乗るところだった。
『うん、間に合ったな。……そなたに、風の祝福を』
ヤタの羽から、キラキラ煌めく鱗粉が、白毛の馬に飛んでいって、包み込む。
ブルルっと白馬が頭を振る。そして、ヤタに頭を差し出す。
『これよりそなたは、風の如き駿馬となった。何人たりとも行く手を阻むこと叶わぬ。疾く、風の如く駆け抜けろ』
ヤタが白馬の頭を撫でれば、白馬が一礼してからいななき、文字通り風のような速さで駆けていった。
……事故とか、起きないと、いいなあ……。