第百五十六話:二十一日目
《チェインクエスト:ご隠居のおじいちゃんが王都へ向かう準備を整えるまでに、お願いを聞こう》clear!
プレイヤー:ミコトに対しクエストを依頼。
現在《街》には鉄を始め武器や防具の素材になる金属が不足している。
《街》の北にある《魔の森》から東に徒歩で2~3日のところにある《鉱山》から、鉱石を取ってきてもらいたい。
よろしく頼む。
・依頼者:ヘンリー・ナイツ元伯爵
・対象:《鉱山》にて鉱石の採掘。
・報酬:ナイツ伯爵家の紋章が刻まれた短剣。
・備考:鉱石の納入は冒険者ギルドにすること。
・備考:依頼達成した際は、伯爵家に報告すること。報酬は伯爵家にて渡す。
・王都へ向かう準備ができ次第出立するので、道中の護衛依頼を引き受けてくれると助かる。
※冒険者ギルドに納品
・銅鉱石×150
・錫鉱石×50
・鉄鉱石×200
《チェインクエスト:ご隠居のおじいちゃんが王都へ向かうので、護衛をしよう》new!
プレイヤー:ミコトに対しクエストを依頼。
エルフの族長からの書簡を国王陛下の元へ届けるために、ヘンリー・ナイツ元伯爵が王都へ行くことになった。
道中の護衛をしてもらいたい。
よろしく頼む。
・依頼者:ヘンリー・ナイツ元伯爵
・対象:《王都》までの道中の護衛。
・報酬:トーマスの剛剣。
・備考:道中は馬車で7日ほどの期間になる。
・備考:長期の依頼になるので、準備は怠らないこと。
さて、昨日のうちにトールくんのおじいちゃんと会う約束をしておいたから、今日は《街》にいっておじいちゃんと合流しよう。
連日外出しているので、ちびっ子たちのことが気になるけれど、異常繁茂している薬草を引っこ抜いたり、家畜たちの世話をしたり、コボルトのジョンやメグと遊んでいたりするそうなので、あまり心配はなさそう。
その薬草も、冒険者ギルドに持っていって報酬をもらわないとね。
日々変わっていく《拠点》を散歩というか探検するのも楽しいみたいで、笑顔が絶えなくてひそかにホッとしてる。
岩トカゲの背中に乗って岩場を登ってみたり、水トカゲの背中に乗って水辺をぐるり回ってみたり、バフォメットにたかいたかいしてもらったり、だっこしてもらって空を飛んだりと、楽しんでいるみたい。
……バフォメットって、怖そうな雰囲気だけれど、意外なほど子ども好きなんだね。びっくりしちゃったよ。
その事を言ってみれば、
『そなたがそう在るから、我もそう在るのだ』
などと、哲学みたいなことを言われたよ。
ところ変わって、《街》の孤児院に到着。
孤児院を《第二拠点》に設定しているので、移動はホームポータルであっという間。
院長のライラさんとちびっ子たちがいなくなってからは、無人になった孤児院はしんとしていて、寂しげな雰囲気。
外へ出れば、苛立った様子のエルフの男性が待ち構えていた。
「謹慎明けにガキどもの様子を見に来たが、おい、リンド。てめぇがいながら、これはどういうことだ?」
腰に差した剣で、今にも斬りかかってきそうな雰囲気のエルフの男性は、事情を知らないみたいで。
説明しようとすると、
「俺はリンドと話してんだよ。関係ねぇヤツは黙ってろ」
口を開いた段階で睨まれちゃった。
「キトー兄ぃ、その子はミコトといってね」
「今はてめぇと話してるっつってんだろ」
なんか、とりつく島もないなあ。がらも悪いし。
「そのミコトがね、チビたちを引き取って、安全な場所に連れていったんだよ」
「あん? 拉致ったってことか? それにてめぇも噛んでんのか?」
「そうじゃなくてね、キトー兄ぃ」
イライラしているキトーくんにリンドくんが辛抱強く事情を説明しつつ説得することしばし。
「つまり、てめぇが、見ず知らずのガキどもに、住むところも、着るものも、食べるものも、仕事も遊ぶ場所も与えたってことか?」
一言ずつ、確認するように言うキトーくんに、そうだよとうなずくと、ようやく納得したのか、大きく息を吐いて、そうかと呟く。
少しして、なら、いいや。と立ち去るキトーくんの背中に、
「子どもたちを気にかけてくれてありがとうね」
と声をかける。
軽く手を振りながら去る背中に、哀愁が漂ってる気がするよ……。
「どうしよう。リンドくん、あの人あのままでいいのかな?」
「キトー兄ぃは、ギルドマスターの暗殺未遂事件で後輩を紹介した件で、謹慎していたんだ。自主的にね。その間も、子どもたちのことは気がかりだったんだろうね。以前から時々食べものを持っていったりしていたみたいだし」
「ぶっきらぼうでも、孤児たちには優しかったんだ。けれど、人付き合いは苦手な方みたいでさ」
リンドくんとトールくんとが、キトーくんの人となりを教えてくれる。
……なんだか、後輩には優しい、不器用な人みたいだね。
ちょっとしんみりしたけれど、時間は待ってはくれないもので。
ちゃちゃっと貴族街の方に移動して、門番の人に挨拶。
連絡はしてあるので、僕、ミナト、トールくん、ステラ、リンドくん、レーヴェが門の脇の通用口を通って貴族街の中へ。
今日はぐれ太を連れてこない代わりに、レーヴェが護衛役。
門の中で待っていたメイドのカーラさんと合流してナイツ伯爵邸へ。
数日ぶりに会ったおじいちゃんは元気そうで、何日もかけた馬車移動の準備を万全に整えているそう。
「冒険者ギルドから報告は受けている。期間は短いが、よくやってくれた。ワシは嬉しいぞ。これで、鍛冶師組合の方も活気が戻るだろう」
トールくんのおじいちゃんのお願いだし、鉱物は僕も欲しかったからね。
今度はもっと奥の方に行って、良い鉱石を集めたいな。
「では、これが、報酬だ」
おじいちゃんの合図で、執事の人がテーブルに短剣を乗せていく。
「銘を、《操の懐剣》という。鞘を含めて総銀製で手入れが必要だが、銀製の短剣の鞘に赤いリボンを巻いているのは、既に連れ添いが……要は、恋人や婚約者や夫がいる証になる。それを身に着けた者を口説こうとしたりするのは大きな恥とされる。それがあるだけで、悪い虫が寄ってこなくなるから、持っていなさい」
「……恋人……」
「……婚約者……」
「……夫……」
僕も、ミナトも、ステラも、しばしぽ~っとして、つい、声が漏れちゃう。
「トーマスも、こういったことには疎くてな。騎士時代、あれの妻に言い寄る者が煩わしくて、夫婦離れて暮らしていたようだが、家族が恋しくてどうしようもなくなったようでな。剣技、体力、戦闘指揮などで一番の座をもぎ取り、騎士団長になってすぐに辞め開拓村に志願してしまってなあ」
トールくんのお父さんは、相当苦労したみたいだね。
おじいちゃんも、助けになれなくて悔いがありそうだよ。
「我がナイツ伯爵家は、騎士の名門。本拠地は王都に在る。剣をくわえたカラスが家紋だ。その鞘と懐剣の柄に刻んだ我が家紋を見てもなお、言い寄る愚か者がいたならば、王都の騎士に助けを求めるといい。騎士団長は現当主でワシの息子のウィルという。きっと力になってくれるであろう」
操の懐剣 (家紋入り)を入手。
刀身に、《ミコト》、《ミナト》、《ステラ》の銘入り。