第百五十五話:へんたいふしんしゃさん
拡張されたり解放されたりした《拠点》の項目を、確認したりあれこれ設置したりで、時間はすでに昼過ぎ。
ちびっ子たちとみんなでお昼ごはんを食べて片付けを済ますと、エルフの里に行くには遅い時間になってしまっていた。
これはちょっと失敗したなあ。
今日のうちに、おじいちゃんエルフのところに行くつもりだったのに。
「と、いうわけで、エルフの里にやってきました」
見上げてもてっぺんが見えない巨大な樹の根元で、ぴっと手を上げる。
今ここにいるのは、僕、ミナト、トールくん、ステラ、リンドくん。
それと、ケツァールとサンダーバード。
エルフの里に行く面子を集めて、ヤタにお願いして妖精テレポートで今に至る。
みんな少し呆れているようにも見えるけれども、そこは気のせいということで。
『先方にも予定や準備があるだろうに。その連絡用としてよこしたのがサンダーバードだろう?』
ヤタもジト目。
拠点の整備にここまで時間がかかるとは思ってなかったんだよね。
しかも、家畜をあれこれ購入したから、人手が足りなくなってる。
ゴスケさんを増やせないかな?
……人手の件も、エルフにお願いしてみようかな?
「ややっ、そこにいる人の子たちは、ミコト嬢とその仲間たちではないかね? そして、リンド、ステラ、久方ぶりであるなっ」
ちょこっと考え事をしていると、なんの前触れもなく突然にょきっと湧いて出たエルフが一人。
「やあやあミコト嬢。我が名はイカレスキー。自他ともに認めるほど頭がイカれている虫狂いだよっ。非常に珍しい虫を任せてくれると聞いたので、こうして出迎えに来たのさっ」
満面の笑顔で自分のことをイカれていると宣言する変な人が、ずずずいっと一気に近付いて来たもので、僕やミナトは後退り。
ステラとリンドくんが前に出て変な人を抑えてくれる。
「この、変態不審者がっ。ミコトに近付くな!」
「イン兄ぃ、落ち着いて。ステイ」
……うわあ……。エルフの戦士二人がかりなのに、徐々に押されてる……。
……なに、この人?
『インスクよ、虫好きのインスクよ、落ち着くのだ。ミコト嬢はそなたに用があって来たのではない。その者たちも忙しいのだ。族長の元へ疾く案内するのだ』
あ、エルフの里のおじいちゃん妖精。
このへんたいふしんしゃさんの名前は、イカレスキーなの? インスクなの? へんたいふしんしゃさんでよくない?
「やあ、皆。リンド、久方ぶりだな。すぐに族長のところに案内しよう。そこの虫好きはまた後でな」
木と蔓でできた昇降機で警備隊長のイケオジエルフが降りてきて、案内役を買って出てくれるけれど、額には汗が。
「ミコト嬢。我らエルフの里は、いつでもそなたたちを歓迎しよう。……だが、来る際は事前に連絡をしてもらえると助かる。常に手すきとは限らぬでな」
……あ、はい。
なんとなく、チラッとミナトを見ると、ジト目で返された。
……なんか、ごめんね。
木製の昇降機で樹の上へ昇り、以前にお邪魔した住居へ。
おじいちゃんエルフと顔を会わせて、挨拶もそこそこに、状況を報告する。
「……ふむ。であれば、人間の権力者に話を通すことはできたのだな?」
「うん。それで、別のもっと偉い人と会ってほしいみたいだけど、会いに行くために準備をしているところだね」
「それは重畳。では、引き続きよろしく頼む」
「うん。任せて」
エルフの里を襲った《忌まわしき黒》のことを記した書簡に関しては、次の段階に。
ポータルゲートを設置する小屋は、材料もあるしすぐに造れるので、どういう形にするかの確認だけ取れればよし。
あとは、ハニータンクとミードビーの卵だけど……。
「我輩の出番であるかな?」
へんたいふしんしゃさんが、呼んでもいないのに、どこからともなくにょきっと現れる。
まあ、用があるのは確かなので、このまま話をしてみようか。
「……ふむ。ハニータンクとミードビーの卵であるな。これらは魔物であるゆえ、我輩のところに持ってきたのは正解である。たとえ外敵の侵入が困難な里内部であっても、内部で発生した魔物には守護が正しく働かない場合もあると文献で読んだことがある。それはつまり、我輩のようなインセクトテイマーの出番ということであるな」
うむうむと一人で納得しているへんたいふしんしゃさん。
一人で納得してないで説明ぷりーず。
「なに、他のインセクトテイマーであれば、卵から孵ったあとにテイムを試みるのであるが、我輩ほどのインセクトテイマーにもなれば、卵の段階からテイムができる。……ところでミコト嬢。この卵は複数用意できるのかね? 1個だけであれば、増やすことは非常に難しくなってしまう。それはつまり、ハチミツもハチミツ酒も大した量は用意できないということである」
饒舌だし一つ一つをはっきりと説明してるのはいいけれど、説明的過ぎてなにが言いたいか分からないところもあるね。
「つまり、どういうこと?」
「里のエルフは皆、果物やハチミツのような甘いものを好む。それは老若男女問わずにな。であるからにして、里の皆という需要に対して、供給を満たすには相応の数の卵が必要なのである。具体的には、20~30個の卵が。用意できるかね?」
ずいずいと距離を詰めてくるへんたいふしんしゃさんに後退りすると、見かねたトールくんが間に入ってくれる。
目から一切視線を切らずセンチ単位まで顔を寄せてくるものだから、せわしなく動く口が顔に触れてしまいそうでかなりヤだよ。
「ええいっ、この、変態不審者がっ。ミコトから離れろ!」
「イン兄ぃ、落ち着いて。ステイ、ステイ!」
……このへんたいふしんしゃさんは、エルフの中でも特別にレアなヒトなんだよね……?
イカれてるって自分で言うくらいなんだし……。
なんとなく、ミナトを見てみたら、涙目でビビっていた。
うん、この人怖いよね。
・リザルト
・エルフの里《世界樹の麓》にポータルゲート設置。
・ハニービーの卵 × 40
・ハニータンクの卵 × 20
・ミードビーの卵 × 10
・ヒールアントの卵 × 30
・ハニーアントの卵 × 20
・バレルアントの卵 × 10
・レシピ
・ミツバチの死骸 + ハチ系魔物の素材 = ハニービー(魔物)の卵
・ミツバチの死骸 + 虫系魔物の魔石 + ハチ系魔物の素材 = ハニータンク(魔物)の卵
・ハニータンク + 虫系魔物の魔石 + ハチ系魔物の素材 = ミードビー(魔物)の卵
・ハチミツ + 酒類 = ハチミツ酒 (ミード)
・ミツバチの死骸 + 虫系魔物の魔石 + アリ系魔物の素材 = ヒールアント(魔物)の卵
・ヒールアント + 虫系魔物の魔石 + ミツバチの死骸 = ハニーアント(魔物)の卵
・ハニーアント + 虫系魔物の魔石 + ミツバチの死骸 + アリ系魔物の素材 = バレルアント(魔物)の卵
・アリ蜜 : ミツアリ系魔物が作り出す回復効果がある蜜。
上品な甘さで栄養価も高く、貴族や王族が追い求める美食の一つとされる。




