第百五十二話:閑話:敗北
βテストプレイヤーの視点。
『…………ぐはっ』
血を吐くようにむせて、目が覚める。
軽く周囲を見渡せば、《朽ちた地下遺跡群》にある、《避難所》と書かれた安全地帯の内の1ヵ所。
初めての敗北。
初めての死。
気も沈み、体も重い。
ステータスを確認すれば、《デス・ペナルティ》とあり、全ステータスが半減していた。
これが、死に戻りか。
『気分はどうだ?』
強面で筋肉質な妖精が無表情で問うてくる。
『…………くく、……くっくっく、……あっはっはっはっ!!』
『楽しかったか?』
突如笑いだした俺に、呆れたような声が降ってくる。
『期間は短かったが、あれだけ準備して完敗だ。どうしようもねぇな。笑えてくる』
『うむ、完敗だった。完膚なきまでに負けた』
見知らぬ場所に転移して、種族がゾンビになって、動く死体や骨相手に戦う日々の中、日付の感覚などすぐに失せて。
俺の妖精と合流して、この遺跡群の下層へ挑戦して、素材と下僕をかき集めて。
トレードして、儀式を執り行って、下僕を増やし強化して。
やれるだけのことはやった。
二度の種族進化を経て、装備も充実し、下僕どもも進化した個体が出てきた。
自信はあった。
遺跡群の下層と深層を隔てる墳墓に眠るキングマミーと多数の僕を、安定して狩れるようになったことや、モンスターを大量召喚する罠をあえて起動して、問題なく殲滅できるようになったことなどは、確かな自信に繋がった。
妖精の協力のもと、運営に今回の件を申請して通ったときは、他のプレイヤーを踏みつけにして死に戻りのテストにでもしてやろうと、ほくそ笑んだものだ。
誤算は、現地人を巻き込む可能性を考慮することを忘れていたことと、想像を絶するバケモノが介入してくる可能性を排除してしまっていたことか。
緊急クエストという形であれば、妖精と一緒にいるプレイヤーが近くまで転移してくることは予想できた。俺のように。
だが、そこに、現地人が一緒にいることまでは予想してなかった。
地理的には、《街》と《朽ちた地下遺跡群》との間には、いくつか村があるし、街道も通っている。
今回は、プレイヤーだけをボコるつもりで準備したので、《街》までの村や現地人を途中で見つけた場合は、無視するつもりだった。
しかし、対峙したプレイヤーのそばに現地人がいたことで少しの迷いが生じた。本当に巻き込むつもりはなかったから。
だが、すぐに、その迷いは無用のものと思い知らされた。
俺自身にあれこれの知識は少ない。
だが、ドラゴンや鬼はさすがに分かる。
勝てるわけがなかった。
空を飛び火を吐くドラゴン……妖精が言うには、ワイバーン……や、すさまじい速度で剣を振るう鬼……妖精が言うには、ラクシャーサ……は、さすがに想定外だった。
それだけではない。
対峙したプレイヤーも、多数と戦うのは慣れていたようだし、妖精の視点を借りれば、武者鎧を装備したオーガの金棒の一振りで数体まとめて弾き飛ばされていた。
……生きてるオーガは、そんなに強いのか? ここは、表層・下層・深層とあり、下層には、オーガゾンビも出てきた。しかし、あそこまででたらめな強さと速さはなかったと思う。装備の差だろうか?
他にも、なにか草っぽい小さいものが戦場を駆け回っていたようだが、それを確認する前に鎧武者姿の鬼が3体やってきて、進化個体の下僕を次々と蹂躙していった。
6体の進化個体は、まとまれば俺と同等以上の力を持つと思っていたので、レイス系の上位種であるゴースト2体を除く4体が瞬く間に蹴散らされたのを見て、敗北を悟った。
数を無視して先にボスを討ちにきたのかと思えば、500の軍勢はものの10分もしないうちに蹂躙され尽くしていた。
下僕どもが全滅するまで鬼の猛攻に耐えることができたのは、剣と盾の性能だ。それと、鬼が本気ではなかったのも要因の一つだろう。
俺がギリギリ反応できる速度で繰り出される斬撃は、俺の精神をガリガリと削っていった。
勝てないと、分からされた。
『これから、どうする?』
再び、俺の妖精が問うてくる。
『うーん……。手勢は全滅。堅牢な盾も失った。1からやっても、あちらも次はもっと強くなっているだろうな……』
どうするか、しばし悩む。
今勝てないなら、次勝てるように強くなればいいだけだ。
しかし、あのプレイヤーに勝つ意味は?
……もしかしたら、あのプレイヤーにこだわるより、別のなにかをした方がいいのかもしれない。
と、そこで、元々何をしたかったかを思い出す。
『……深層に、いきたい』
『ここのか?』
『ああ。下層までで得られなかった進化先を、得たい。人の姿に、なりたい』
元々は、人の姿になり、昼間でも問題なく活動し、人の街にも行けるようになりたい。
それが、ここで戦う理由の一つだったはずだ。
そして、ここ《朽ちた地下遺跡群》の深層には、更なる進化に必要なものが眠っていると妖精が言った。
だから、行ってみたい。
『分かった。力を貸そう』
そんな、俺の想いに、妖精が応えた。
『我が権能において、貴様の下僕を取り戻そう』
『そんなことができるのか?』
『できるさ。その剣を失う覚悟があれば』
……しばし、悩む。
この剣も、盾と同じく下層で拾った質の良い剣で、刃こぼれが自動で直る付与が付いていた。
手放すのは、正直惜しい。……だが。
『分かった。これを使え』
『うむ。良い覚悟だ』
鞘もない抜き身の片手剣を、妖精に渡す。
妖精が、剣に両手をかざし、目を閉じて、祈るような仕草をすれば、剣が一瞬光って消滅した。その直後、どこからか六条の光が飛んできて、地面に降り立った。
そこには、失ったと思っていた、上位種に進化した6体の下僕の姿が。
レベルも、ステータスも、そのまま。
まさに、俺の下僕たちだ。
最初期に下僕にした奴らだ。間違えるはずもない。
未だ死体のこの胸に、えもいわれぬ感覚が芽生える。
『下僕ども、また俺に、力を貸せ』
6体の下僕は、片ひざを着いて右手を胸に添えた。
それが、恭順の意を示すのは、なんとなく分かった。
やり直そう。こいつらと。
突き進もう。深層の果てまで。
いつか、人の姿を取り戻すそのときまで。
『隠しステータス《カルマ》が変動。現在 +1』
『…………ふむ。魂が善に傾いた、か』
『なにか言ったか?』
『いや、なにも』
俺と、妖精と、6体の下僕とで、《朽ちた地下遺跡群》の下層へと歩を進めた。
※シン/キングマミー
・スキル 《中位アンデッド使役》
・スキル 《下位アンデッド召喚》
・スキル《剛力2》
・スキル《頑強3》
・スキル《俊敏3》
・スキル《疾走2》
・スキル《跳躍2》
・スキル《物理耐性2》
・スキル《魔法耐性1》
・スキル《闇属性/闇耐性6》
・スキル《状態異常耐性5》
・スキル《指揮》
・スキル《号令》
・スキル《剣術2》
・スキル《体術/格闘3》
・スキル《盾術2》
・スキル《体術/歩法3》
・スキル《攻撃魔法:闇1》
・スキル《付与魔法1》
・スキル《防御2》
・スキル《見切り1》
・スキル《貫通1》
・スキル《回避1》
※キョンシー (名称未登録)
・スキル《剛力3》
・スキル《頑強3》
・スキル《俊敏3》
・スキル《疾走2》
・スキル《跳躍6》
・スキル《浮遊1》
・スキル《物理耐性3》
・スキル《魔法耐性1》
・スキル《闇属性/闇耐性6》
・スキル《状態異常耐性4》
・スキル《爪牙3》
・スキル《体術/格闘3》
・スキル《体術/歩法3》
・スキル《状態異常攻撃:毒2》
・スキル《状態異常攻撃:麻痺2》
・スキル《見切り1》
・スキル《貫通1》
・スキル《命中/回避1》
※グール (名称未登録)
・スキル《剛力3》
・スキル《頑強2》
・スキル《俊敏3》
・スキル《疾走2》
・スキル《跳躍2》
・スキル《物理耐性2》
・スキル《魔法弱点2》
・スキル《闇属性/闇耐性5》
・スキル《状態異常耐性4》
・スキル《爪牙3》
・スキル《体術/格闘3》
・スキル《体術/歩法1》
・スキル《状態異常攻撃:毒4》
・スキル《状態異常攻撃:麻痺2》
・スキル《再生2》
※スケルトンナイト (名称未登録)
・スキル 《下位アンデッド使役》
・スキル《剛力2》
・スキル《頑強2》
・スキル《俊敏2》
・スキル《疾走1》
・スキル《物理耐性2》
・スキル《魔法耐性1》
・スキル《闇属性/闇耐性5》
・スキル《状態異常耐性4》
・スキル《指揮》
・スキル《号令》
・スキル《剣術3》
・スキル《体術/格闘2》
・スキル《盾術3》
・スキル《体術/歩法2》
・スキル《防御2》
・スキル《見切り1》
・スキル《命中/回避1》
※スケルトンメイジ (名称未登録)
・スキル 《下位アンデッド召喚》
・スキル《魔道1》
・スキル《剛力1》
・スキル《頑強1》
・スキル《俊敏1》
・スキル《物理耐性1》
・スキル《魔法耐性2》
・スキル《闇属性/闇耐性6》
・スキル《状態異常耐性4》
・スキル《杖術1》
・スキル《攻撃魔法:闇2》
・スキル《付与魔法2》
・スキル《状態異常魔法:暗闇1》
※ゴースト (名称未登録)
・スキル《霊体》
・スキル《俊敏1》
・スキル《浮遊6》
・スキル《物理無効》
・スキル《魔法耐性1》
・スキル《闇属性/闇耐性6》
・スキル《状態異常耐性4》
・スキル《攻撃魔法:闇2》
・スキル《付与魔法1》
・スキル《状態異常魔法:暗闇1》
・スキル《状態異常魔法:混乱2》
・スキル《吸収2》
※ゴースト (名称未登録)
・スキル《霊体》
・スキル《俊敏1》
・スキル《浮遊6》
・スキル《物理無効》
・スキル《魔法耐性1》
・スキル《闇属性/闇耐性6》
・スキル《状態異常耐性4》
・スキル《攻撃魔法:闇2》
・スキル《呪与魔法1》
・スキル《状態異常魔法:恐怖1》
・スキル《状態異常魔法:混乱2》
・スキル《吸収2》




