第百四十九話:ザックザク
《トレード申請》
各プレイヤーに対しトレードを申請。
こちらは《ゴーレム・コア》と呼ばれる、人の手のひらに乗る程度の大きさの黒い球体を求めている。
パペットやドール系の魔物から取得できる品だが、現地人を中心に、その価値が分からぬ者どもから『謎アイテム』『黒い丸玉』などと呼ばれ、冒険者ギルドでは安く買い取られているようだが、実際はきちんと用途がある。
プレイヤーであれば、《ゴーレム・コア》かどうかは見れば分かるだろう。
ただし、用途に関しての適性がある者にとっては価値のある物ではあるが、適性の無い者には正しく無価値だと言っておこう。
・依頼者:ヤタ (妖精)
・対象:ゴーレム・コア
・報酬:銀貨10枚 + 付与つきの鉄製品 (ランダム) + 青銅のナイフ
・備考:報酬に関してのクレームは受け付けない。それでよければ交換しろ。
複雑に入り組んでる坑道を進むことしばし。
広く天井も高い空間に出れば、地面、壁面、天井と、場所を問わずにたくさんの採掘ポイントがあって。
……で、その採掘ポイントから生えてる結晶をカジカジやっている虫っぽいのがたくさん。
『オーアバグだな。鉱石喰い虫と言われている。結晶に含まれる鉱石を取り込んで、外殼を強化するのが特徴だ。固いぞ』
鉱石虫たちは、僕らに気づかず一心不乱に結晶をカジカジしてる。
『特定の鉱石を一定以上取り込んだオーアバグの外殼は、取り込んだ鉱石の特徴が反映されるようになる。鉄を多く取り込めばアイアンバグ、と言った具合にな』
その鉱石虫たち、すでに特定の鉱石を取り込んだ個体が多いみたいで、きれいではないけれど色とりどり。きれいではないけれど。
今なら先制攻撃できるかな? と弓に矢を番えると、鬼一が前に出て手で制してくるので、一旦保留。
じゃあどうするんだろうと様子をうかがえば、鬼一は自分の耳をちょんちょんしてから大きく息を吸い込んで、
「耳ふさいで!」
吠えた。
うわすっごい。まるで衝撃波が発生したみたいな大声。
たぶん、《咆哮》ってスキルかな?
それの影響か、地上の鉱石虫はひっくり返って、壁面や天井の虫はぼとぼとと落ちてくる。
「……いや、すごいね」
「……く、……うぅ……」
ステラとリンドくんのエルフ組は、耳が良いせいか強い影響を受けちゃってる。
リンドくんは耳を押さえてる程度で済んでるけど、ステラは立てなくなってるよ。
もう、鬼一。次やるときはいきなりやらないで、少し待ってね?
「じゃあ、ミコトとミナトとで、バグの始末をしよう。首の関節を切り離すんだ。……こんな感じだよ」
ひっくり返って脚がピクピクしてる鉱石虫の首関節に飛竜牙の太刀を添えて、引く。
トールくんの、まるで力を入れてない軽い動作に勘違いしてしまいそうになるけれど、トールくんって剣スキルのレベル高いんだよね。
トールくんによると、武器の切れ味に任せれば無理に振り回す必要がないって話で、僕も武器を飛竜骨の弓から飛竜牙の薙刀に変えて同じようにやってみると簡単に首を切り離すことができた。
ミナトも拳じゃやりづらいだろうから、飛竜爪の小太刀を渡せば、僕よりも素早く正確に首を落としていた。
ひっくり返っている鉱石虫はたくさんいるので、トールくんとレーヴェにも手伝ってもらう。
鬼一は、なんかちょっと、おおざっぱだから……。まだ復帰できてないステラとリンドくんの護衛をやってもらおう。
トールくんとレーヴェが処理している鉱石虫は、あとでちゃんと解体して素材を取り出すつもりだけれど、僕やミナトはプレイヤーなので、鉱石虫の首を落とすとすぐにドロップアイテムに変わる。
僕の場合は、鉱石の原石やインゴットや虫の素材がザクザクと。
ミナトの場合は、ほとんどが虫の素材。それも、数も少なめ。
ここらへんは、運のステータスが高いほど良いアイテムをドロップしやすくなるというから、仕方ないね。
銅のカッパーバグ、青銅のブロンズバグ、鉄のアイアンバグ、鋼のスチールバグ、あとは普通のオーアバグで5種がいたみたいで、鋼のスチールバグはみんな自分で処理せずに僕のところに持ってきてくれる。
スチールバグ一匹で、鋼インゴットがザックザク。
たまに鋼製の武器防具アクセサリーなんかも出てきてるみたいだけれど、山のように積み上がっていく鋼インゴットに、ちょっと引いた。
バグの処理が終わったら、結晶から鉱石を取り出す採掘作業。
鬼一の咆哮から復帰した、ステラとリンドくんも参加して、採掘。
壁面の高いところと天井のはレーヴェと鬼一にお願いするとして、地面と壁面の低いところだけでも何十とポイントがあるので、オニの次郎・三郎、オーガの一太郎から四太郎まで召喚して、大勢でキンキンカンカン採掘大会。
自力で飛べるレーヴェはともかく、鬼一は天井までジャンプして結晶を叩いてる。
オニの次郎・三郎も鬼一を真似てジャンプして壁面の高いところをガンガンやってる。
「ねえトールくんトールくん。斬撃飛ばして上の方の結晶を斬れないかな?」
「いやダメだろ。……ダメ、じゃないのか?」
斬撃飛ばして結晶を切り取れたら楽かなと思ってトールくんに話しかけたら、すかさずステラにダメ出しされちゃった。でも、当の本人もやったことないから、実際のところは分からないみたい。
「できるかどうか、まずはやってみようか。《スラッシュウェイブ》」
問われたトールくんは即行動してくれて、斬撃を飛ばす武技を天井に放つ。
ガキンッと甲高い音が鳴り、結晶が左右に真っ二つになって。
「………………落ちて、こないな」
真っ二つになって、そのまま天井に残っていた。
天井を見上げてポツリとつぶやいたミナトと一緒に、ちょっとの間固まる。
「砕いた方がよさそうだね。《スウィングショット》」
苦笑してるリンドくんが槍を大きく振り、衝撃波を飛ばす。
真っ二つになったまま天井に残っていた結晶は、衝撃波でバラバラになって落ちてきたけれど……。
「…………うーん、《鑑定》しても、小石とか石片とかで、鉱石は見当たらないね」
どうやら、手抜きはできないみたいだよ。
地道にカンカンやるしかないね。
小石 : 小さい石ころ。このままでは役に立たない。
石片 : 細かく砕かれた石のかけら。このままでは役に立たない。
石ころ : 手ごろな大きさの石。投げるくらいしか役に立たない。
石 : 両手で持てるくらいの大きさ。武器になったりもする。
大きな石 : 一人では持てないくらい大きくて重い石。材質によって用途は様々。
岩 : 道具がないと、動かすことも困難な大きさの石。自然石。




