第百四十八話:坑道
「ぎゅううー」
(狭いよー)
坑道に入ろうとすると、入り口がそこまで広くないことに気づく。
人間なら問題ない広さだけれど、ワイバーンのぐれ太は体をどれだけ縮めても入れないことが判明。
しょうがないので、ラクシャーサの鬼一を召喚。
身長2メートルちょっとの鬼一は、坑道の入り口になんなく進入できる。
武者鎧姿で強面で額の上に2本の角が生えててざんばらな長い髪が凄みを醸し出しているけれども、髪を整えたら凄みが減るんじゃないかな?
「僕らは坑道の中でたくさん採掘しなきゃならないから、しばらく戻ってこないよ。ぐれ太はどうする? その辺で遊んでる?」
「ぎゃーうー」
(遊んでるー)
ぐれ太がにこにこしながら遊んでると言うので、送還はしないでそのままに。
テイムした岩ヤギも、坑道には入りたがらなかったので、入口付近で待ってるように言ってから坑道内部へ。
鬼一を先頭にして坑道を進む。
ゴツゴツした岩肌がむき出しの、自然の洞窟といった雰囲気の坑道は、所々に淡い光を放ち時おり明滅するランプが吊るされていて、ランプの光が届かない場所もあり、全体的に薄暗い。
ステータス画面にマップを表示できるけれども、たくさん枝分かれしている坑道はまるで迷宮のよう。
はぐれたら迷子になりそうだなぁ……。
トールくんとリンドくんが歩きながら地図を描いてくれてるので、僕はステータス画面のマップにマーカーをつけて、進んだ道が分かるようにしていく。
その間に出てきた魔物は、鬼一が瞬殺。
岩ムカデに岩クモに岩ヘビ。坑道ネズミに坑道ミミズにコボルト。洞窟コウモリに洞窟アリに洞窟カマドウマ。マッドスライムにストーンパペットにケイブパペット。
坑道の中と外では魔物の種類も違うけれども、外とは違い中ではどれも例外なく襲いかかってくる。
数はともかく頻度が多いので、まともに相手してたらちょっと大変だね。
とはいえ、どれも鬼一がさくさくとやっちゃうので、回収して後でちゃんと解体しなきゃだね。
坑道を移動しながら、見つけた採掘ポイントは積極的にカンカンキンキンやっていく。
ワイバーンの骨で作ったツルハシと、《ネスト》のアリがドロップした《蟻掘鎚アントツルハシ》を交互に使って、いいものが出るかどうかチャレンジ。
「うーん……。中々良いの出ないね」
石ころ、石素材、銅鉱石、錫鉱石、鉄鉱石、石炭。
いいものはそう簡単に出てくるものじゃないとは思うけれども、レア物出ないかなーと。
「ミコト、坑道の浅い区域で石炭が採れるのって、初めて聞いたよ?」
「鉄鉱石の採れる確率が高いのもすごいことだよ」
トールくんとリンドくんが口々に褒めてくれる。
てか、石炭ってレア物なんだ。
「石ころって、何に使うんだろうね?」
「こうじゃねえかっ!」
手のひらサイズの石ころを持って首をかしげていると、ミナトが取って奥の方へ全力投球。
何かの魔物に当たって、倒したみたいだね。
「鬼一、掘ってみる?」
今も周囲を警戒している鬼一に声をかけてみると、えっ? 何で俺? みたいな顔されちゃったよ。
「ヤタ、石ころって何に使うの?」
『石ころは単品だと投げるくらいしかないな。複数をまとめて《錬金術》などで岩にしたり石材にしたりとかだな。他には、大量に集めれば、さっき出てきたストーンパペットのボディとして使えるかもな』
「それを動かすには?」
『ゴーレム・コアが必要になる』
うーん……。パペットかあ。あれ、あまり強くなさそうだったし、コアは別のに使いたいな。
2体目のレーヴェとか、空飛ぶスズメバチ型ゴーレムとかに。
奥に行けばたくさん出てくるかな? パペット。
『ゴーレム・コアがほしいなら、他のプレイヤーにトレード申請してみるか? 成立するとは限らんが、《街》に余ってるかもしれんぞ?』
「あんな便利なものが、余るの?」
『ゴーレムのコア、つまり、ゴーレムを動かすための核になるということを、知らないやつは二束三文で売り払うんじゃないか?』
「あー、黒い丸玉とか、謎アイテム。たまにあるね。……でも、使い道が分からない謎アイテムはどれも安く買い取られるから、そもそも《街》まで持ち帰らないと思うよ?」
アイテムボックスからゴーレム・コアを取り出すと、得心がいったとばかりにリンドくんが言う。
「魔石と勘違いして持ち帰って、謎アイテムだと初めて知って嘆くのも、たまに見るね」
「ナリエさんに聞いたことあるけど、そのまま端金で冒険者ギルドで買い取って、魔道具関係の方に売却されるって言っていたよ。結構な値段で買ってくれるから、ギルドとしては結構なもうけになるってさ」
トールくんが、冒険者ギルドの裏話を、ちょっと嫌そうに教えてくれた。
用途不明だからと冒険者から銅貨20枚で買い取って、安くしとくって銀貨20枚で売却するって、ナリエさんが嫌そうに言ってたって。
ぼろ儲けというよりは、ほとんど詐欺だよね……。




