第百四十六話:十九日目
うあーん、寝坊したぁ……。
なんだかいい匂いに目を覚ませば、トールくんが声をかけてくれて。
あわてて着替えれば、もうごはんができてるから呼びに来たと言われてさらに焦って。
……でも、みんないるときは恥ずかしいからと、そっと抱き寄せておはようのでこちゅーをしてくれて。
ふわふわした気分になりながら手を引かれてミナトを起こしにいって。
トールくんがミナトにもおはようのちゅーをして、ふみゃあっ!? って猫みたいに驚いてるのを見て、ほっこりして。
朝ごはんは、角切りのベーコンとチーズが練り込まれた平焼きのパンと野菜スープとカットフルーツの盛り合わせ。
ナンみたいな感じのパンは、そのままちぎって食べてもベーコンとチーズの塩気でじゅうぶん美味しい。
野菜スープもいろんな具材が入ってて、野菜の出汁が利いてて美味しい。
カットフルーツも、3種類を一口サイズに刻んでて、1個ずつ食べてもいいし、何個か口に入れて味の変化を楽しんでもいい。
ああ、美味しいなあ……。
ちびっ子たちも、みんなお行儀よくニコニコしながら幸せそうに食べてる。
今朝の朝ごはんは、リラさんとライラさんに加えて、ステラも手伝ったんだって。
トールくんとリンドくんは、手分けしてちびっ子たちを起こして着替えさせて顔を拭いてあげたと。
寝坊した僕とミナトはなんもしてないよーとしょんぼりしてると、昨日の疲れが残ってるんじゃないかと心配されちゃった。
でも実際は、お札作ってて寝るのが遅くなってその分遅く起きただけだから、心配は要らないんだよね。
それよりはと、朝ごはん手伝えなくてごめんとリラさんライラさんに謝れば、子どもたちにたくさん食べさせることができるから構わないと、ちょっとズレたお返事が。
うーん? と首をかしげると、元々居た《街》の孤児院だと、経営が厳しかったから、3食お腹いっぱい食べさせることが難しかったそう。
できるだけ平等に接していても、食が細い子もいれば、たくさん食べたがる食べ盛りの子もいて、食事量は平等にはならなかったりしたそうで。
だから、少食の子も食べ盛りの子もお腹いっぱい食べさせることができる今の環境は、子どもたちにとって間違いなく幸せな環境だって。
そんな環境を用意してくれたのだから、ごはんくらい自分たちでどうにでもする。と。
材料さえあればね。とウインクするライラさんだったけれど、その材料も、《拠点》に無限供給される麦や数種類の野菜やベーコンなんかがあるし、外の畑で色々育てているしで問題はなさそう。
その材料も、用立ててくれるのだし。と微笑むライラさん。
ちびっ子たちの世話は、僕が好きでやってるのだから、気にしなくていいんだけどね。
そうするべきだと思ったから、あれこれやってるんだよ。
むしろ、お昼ごはんとか用意してないのも気になってるとこなんだよ。
そう、ちょっと申し訳ない気持ちで言えば、私も、そうするべきと思ってやっているのだから、お互いさまね。とにっこり微笑まれてしまった。
ライラさんには敵わないなあ。
さて、今日も同じメンツで空の旅をして《鉱山》へ。
……と思ったら、ヤタが気を利かせて、昨日の塔のようなアリの巣のところにマーキングしておいてくれたから、ショートカットできるってさ。
そんなわけで、パパッと移動。
視線の先には、天高くそびえ立つ《鉱山》。
鉱山内部への入り口はあちこちにあって、そこら中に採掘ポイントがあるけれど、内部の坑道を奥に進んだ採掘ポイントの方が、良い鉱石を採掘できる確率が高いってさ。
麓に降り立ってみると、大きい看板に、『この先、無限鉱山』と書かれている。
無限? と首をかしげてみれば、採掘ポイントを掘り進めると、ある程度で進めなくなって、時間が経つとポイントが回復してまた採掘できるようになることから、無限なんだって。
時間と回数に制限付きの、無限みたいだけどね。
看板の矢印にしたがって砂利が敷き詰められてる道を進めば、すぐに草木がまばらでゴツゴツした岩がむき出しの登り坂になる。
坂道に息を弾ませながら進めば、大きな岩の上でぐでーんとなって日光浴している大トカゲがいたり、まばらに生えている草をはむはむしているヤギがいたりと、一見のどかな風景が。
「なにか来るよ」
なんて思っていれば、トールくんが一声かけながらぐれ太と同時に岩山の上の方を見上げる。
僕らの背丈くらいの大きな岩が、山の上の方から転がり落ちてくる。
ぶつかりはしなさそうだったけど、ぐれ太がちょっと動いて翼でペシッとはたくと、離れた方に転がっていって岩にぶつかり大きな音を立てて止まった。
岩かと思ったそれをよく見てみると、周りの岩と同じ色をした丸まったダンゴムシで、どこか気まずそうに僕らから離れていった。