第百四十五話:閑話:種族進化
βテストプレイヤーの視点。
現在地:朽ちた地下遺跡群
『……ふむ?』
どこかも分からない遺跡群に転移して、種族もゾンビに変わってしばし。
昼も夜もろくに分からず完全に一人になった上で、疲れは感じないが限界に達すると体がまったく動かなくなる、便利なのか不便なのかよく分からない状態で、周囲を徘徊する死体や人骨を襲ってレベルを上げながら遺跡群を彷徨って地形を頭に入れていく。
幾度かレベルが上がったことを確認した際、ステータス画面が勝手に開いてあることを告げてくる。
『……種族進化?』
『そうだ。貴様は進化できる。現在の腐った死体から、いずれは人を越えた上位存在へと』
低く威圧的な、しかし、聞き覚えのある声に顔を上げれば、
『ようやく見つけたぞ、バカものめ』
声の圧だけで殺意すら感じそうな言い様に、むしろ、笑みがこぼれる。……腐った死体の気味悪い笑みではあるが……見上げた妖精の表情は、心配していたという言葉や態度を無理矢理隠そうとしているように、口はへの字で眉も限界まで寄っている。
『会えて嬉しいぞ。俺の妖精よ』
『うむ。素直である。……それで、貴様、種族進化だ。何に進化するつもりだ?』
一人で腐った死体や動く人骨を倒しているのも自由で気楽ではあったが、やはり妖精が居るのは良い。ほどよい話し相手になってくれる。
その妖精に、今の素直な気持ちを伝えれば、どこか気恥ずかしそうに種族進化を促してくる。
『進化するもなにも、まったく知識がなくてどうすればいいのか分からない。力を貸してくれ』
『よかろう。まずは、貴様はこれからどうしたいかを決めるがいい』
強面の妖精に素直に助力を願えば、満足そうにうなずいた後そんなことを言ってくる。
『どうしたいか、だと?』
『そうだ。このままずっとこの地下遺跡群に引きこもって居るか、外へ出て別の拠点を探すか、人に近い姿になって人の街に行くかだ』
『む……』
後戻りできそうにない重要そうな選択肢を三つも提示されて、思わず呻く。
『同時に、どんな能力が欲しいかも考慮する必要がある。前衛物理型や後衛魔法型、状態異常特化や万能型。それぞれ特徴がある』
物理は分かるが、魔法は操れる気がしないな。状態異常は面白いかもしれないが。
『進化後は、同属下位の魔物を使役できる場合がある。しかし、更なる進化で使役能力を失う場合もあるから、最終的にどうなりたいかをよく考えるがいい』
ステータス画面に、進化ツリーとそれぞれの特徴が簡単に書かれたものが表示される。
・ゾンビは物理系が強いものが多い。
・ゾンビは闇属性から別の属性を持つ種族に進化できる可能性がある。
・ゾンビは基本となる種族なため、同じアンデッド系基本種族のスケルトンとレイスに進化できる。
・スケルトンは物理と魔法それぞれの特化型が居る。
・レイスは状態異常に特化しているが、人の姿からかけ離れた種族への進化もできる。
『ここに居続けるのであれば、各種アンデッドが相性が良いだろう。外へ出るのであれば、アンデッド以外の種族を選ぶのが良いだろう。そして、人の街に行くのであれば、人の姿に近いものを選ぶべきだな』
『ううーむ……。進化したら、もう戻れないだろう? ……悩ましいな……』
『我が権能において、一段階であれば種族を戻すことはできよう。しかし、二段階以上戻すことは今の我ではできぬ』
悔しげな妖精に手を伸ばす。
……が、腐った手では触れることをためらってしまう。
『進化することで、なにかを消費するのか?』
『特には。ただし、進化に条件が必要な場合はある。
進化した場合、進化前の情報が《世界》に記録されて残る。進化を戻す場合は、進化前の情報を呼び戻すことになり、進化後に得られた経験や能力を失ってしまう場合がある』
進化後に得られた経験などは、どこかにストックされるでもなく、進化前に戻ると消えてしまうらしい。
ゾンビから、スケルトンやレイスは同格への進化で、マミーやリビングデッドは上位種への進化。
例えば、マミーになった後にゾンビに戻ることはできても、マミーから直接スケルトンに進化することはできないのが現状だそう。
同格へ進化できて、上位種から下位へ戻ることができるのなら、上位種から同格の別の上位種へ進化できてもおかしくないとは思うのだが。
そう伝えれば、今の権能では、それは叶わない。と悔しそうな返事が。
ひとまずは、今後どうするかを決めなくてはならない。
ここにとどまるか、別の拠点を探して移動するか、人の街に行くか。
……少し考えて、三つ全てを叶えることができるケースを思い付く。
『妖精よ、俺が人の姿になれば、ここにとどまることも、別のところへ移動することも、人の街に行くこともできる。そのために、人の姿に近い種族に進化したい』
俺の訴えに、にやりと凄みのある笑みを浮かべる妖精。
『そうだ。そして、人の姿に近い存在は、ゾンビ系かレイス系がベターだ』
『スケルトン系は、無理か』
『ジュポッコという、死体を取り込んだ樹木を経由する進化の形もあるが、それは日の光を浴びないと成長が遅くなる』
『早いに越したことはないな』
『ゾンビからマミーへ、マミーからキョンシーに進化することもできるが、それはやめておけ』
『なぜだ?』
『顔に貼られている札を剥がすと、暴走して無差別に攻撃するようになる。札が貼られると大人しくなるが、その状態では命令がないと動けなくなる』
『それはダメだな』
『あとは、マミーからキングマミー、そこから条件を満たして聖女になるか、レイスからゴーストになり、ポルターガイストから睡魔を経てサキュバスになるか、ゴーストからクイックシルバーになり、バンシー、セイレーンへとなるかだ』
『なるほど。…………待て。それはおかしい』
進化先の種族を聞いていて、違和感を覚える。
今その違和感を見逃すと、大変なことになりそうな予感がして、妖精に待ったをかけた。
『なにがおかしい?』
『俺は男だ。紛れもなく。だというのに、提示された進化先はどれも女の姿ではないか?』
『そうだ。それらの進化先を選ぶと、性別が女になる』
『待て待て待て。女になるのは嫌だぞ? 男の姿になる進化先はないのか?』
『あるにはあるが、ヴァンパイアやデーモンなど、強力だが明確な弱点がある種族ばかりだ。そうでなければアンデッドや人間からもかけ離れた種族だぞ?』
明確な弱点、と聞いて、それもまた困ると思ってしまう。
そのまましばらく考え込んでいると、妖精がじっと見つめていることに気付く。
『……な、なんだ?』
『いやなに、貴様が思い悩む姿を見ているのは、我が思った以上に至福の時間だと思ったまで』
凶悪な笑顔で悪質なことを言う妖精に、こいつ本当に俺の味方なのか? と疑問に思わざるを得なかった。
結局、ひとまずのところは、マミーを選んで進化した。
・スキル 《下位アンデッド使役》を習得。
・スキル《剛力1》を取得。
・スキル《頑強1》を取得。
・スキル《物理耐性1》を習得。
・スキル《闇属性/闇耐性2》にレベルアップ。
・スキル《状態異常耐性1》を習得。
進化
○付きは、進化のために条件が必要。
・ゾンビ→マミー→○キングマミー→○聖遺骸→○聖人、聖女
・ゾンビ→マミー→○キョンシー→○道士→○仙人、仙女
・ゾンビ→リビングデッド→レブナント→ヴェータラ
・ゾンビ→リビングデッド→グール→火車→猫又→
・ゾンビ→○ダンピール→ヴァンパイア→○ノスフェラトゥ
・ゾンビ→スケルトン、レイス
・スケルトン→スケルトンファイター→スケルトンナイト→○スケルトンジェネラル→○スケルトンキング
・スケルトン→スケルトンメイジ→スケルトンビショップ→○リッチ
・スケルトン→骸骨兵→ガシャドクロ→レギオン
・スケルトン→骸骨兵→黄泉戦→黄泉醜女→炎雷神
・スケルトン→ジュポッコ→マンドラゴラ→アルラウネ
・スケルトン→ゾンビ、レイス
・レイス→ゴースト→スペクター→怨霊→○祟り神
・レイス→ゴースト→スペクター→○神霊→○守護神
・レイス→ゴースト→ポルターガイスト→睡魔→ナイトメア→○オロバス
・ナイトメア→インキュバス
・ポルターガイスト→グレムリン→レッサーデーモン→デーモン
・レイス→ゴースト→クイックシルバー→バンシー→セイレーン
・クイックシルバー→睡魔→サキュバス→○リリス
・レイス→ゴースト→リビングアーマー→ストーンゴーレム
・レイス→ゴースト→リビングアーマー→ガーゴイル
・レイス→ゴースト→リビングアーマー→○デュラハン
・レイス→ゾンビ、スケルトン




