第百四十一話:《ネスト》
ぐれ太に乗って《鉱山》を目指して空の散歩をすることしばし。
標高何千メートルもありそうな高い山が近づいてくる……というよりは、飛んで近寄っているのだけれど。
その山の、方角的に南の方に、いびつな形の高い塔のようななにかがあるのが見えた。
『……チッ……。ミコト、あの塔のようなものは、ジャイアントアントの《ネスト》だ。潰すぞ』
とても不機嫌そうなヤタの言葉に、ネスト? とおうむ返しに問えば、先日エルフの里に行く際に潰したビッグホーネットの巣の大規模版だそう。
その数、ものによっては数千数万におよぶそうで、《ネスト》があると周辺の生きもの全てが食い尽くされてしまうかもしれないから、見つけた場合は必ず、潰すか最寄りの冒険者ギルドに報告することが義務づけられているとのこと。
その場所に近づくにつれて、黒色のナニかが蠢いているのが分かった。
ソレらは、列を成して土の塔へ戻るモノと土の塔から出ていくモノとがいた。
土の塔は、先日のスズメバチの巣とは比べ物にならない規模。
何百メートルもありそうな高さだけにとどまらず、太さというか幅も、何十メートルにもなりそう。
その土の塔へ戻るアリが、アゴで挟んで運んでいるモノを見て、キレた。
大量の魔物の攻勢に、一人また一人と倒れていく村人たちを、幻視した。
それは、かつての記憶。
僕は、知らないはずの記憶。
けれど、僕の中の誰かが悲鳴を上げた。
かつての惨劇を、思い出して。
「「…………潰す!」」
ミナトと、声がぴったり揃う。
「みんな、戦闘準備! ぐれ太、高度下げて!」
「ぎゃううー」
(数が多いー)
「ぐれ太とレーヴェは空からファイヤー。僕らを巻き込まないでね。……《召喚》!」
ラクシャーサの鬼一、オニの次郎、三郎、オーガの一太郎、二太郎、三太郎、四太郎、甜災大根ヤクシャに大根ヤクシャたち。
一気にたくさん召喚したことでごっそりMPを持っていかれたけれど、姿を現した直後から命令してないのに率先してアリどもを斬り裂き、叩き潰し、蹴散らしていく。
あ、あーっ。行動が早すぎて付与が間に合わないよ……。
「《ウォーターボール》」
「《スラッシュウェイブ》」
「《パワーアロー》」
「《スウィングウェイブ》」
あー、ミナト、トールくん、ステラ、リンドくんももう攻撃始めてるし……。
とにかく、アリの数がとんでもなく多いから、体力だけは付与して……。
『《ダブル》《ウインドボム》《ミラー》』
あーもうっ! ヤタの魔法でそこら中に爆弾放り投げたみたいに風が爆発してるよっ!
と思ったら、土の塔が傾いているし!
鬼一たち、なにやったの!?
視線の先では、天高くそびえ立つ土の塔が徐々に傾き、やがて轟音と振動と土煙を起こしながら倒壊していくのが見えた。
あまりの事態にビックリして固まっていると、倒壊した土の塔から視界を埋め尽くすほどの大量のアリが黒い雪崩みたいな勢いで這い出て向かってくる。
そのうちの一部は、翅を羽ばたかせて大きな体を浮かび上がらせた。
数があまりにも多すぎる。
これはさすがに、逃げるかゴスケさんも召喚するかと少しの間迷うけれど……。
「……あれ? こっちにこない?」
視界を埋め尽くすほどの大量のアリは、鬼一たちを取り囲んで一斉に突撃しているみたい。
『そりゃあな。本拠地を倒壊させたヤツらだしな』
ヤタがあきれたように言う。
僕も、なんというか、言葉を失っている。
鬼一たちが強すぎて。
契約者であるからか、僕には鬼一たちが円陣を組んで全方位から突撃してくるアリたちを次々に撃破している様子が分かる。秒間何十匹って勢いで。
円陣の組み方も巧みで、金棒の一振りが範囲攻撃みたいなオーガの一太郎たちを適度に間にはさんでいて、しかも倒したアリの残骸に埋もれないように常に動いている。
「なあ、近づいて少しずつ間引いた方がよくないか?」
『待て、飛んでるアリの一部がこっちに来るぞ。地上からも上位種が近づいている』
ミナトが鬼一たちを心配するけれど、ぐれ太とレーヴェでさばききれない羽アリと一部の体の大きなアリがこっちに向かってくるのが見えた。
よーし、僕もがんばるぞー! と弓を取り出し矢をつがえると、
「《スナイプ》《ロングアーチ》《ダブルアロー》」
『《ダブル》《エアスラッシュ》《ミラー》』
ステラの弓とヤタの魔法が、僕の射程外の羽アリを次々に撃ち落としていた。
「もー、僕だってやるよー。《狙撃》《遠的》《二本射ち》」
距離的にまだ届かないのがなんとなく分かったので、武技で射程を伸ばしつつ地上から迫る大型の上位種めがけて、能力低下をかけられる《呪与》の効果が付いた古骨の矢を射かける。
攻撃力低下の呪与は、全身が宵闇色の光に包まれ、防御力低下の呪与は、当たった場所が弱点といえるくらいもろくなる。速度低下の呪与は、明らかに動きが遅くなり、こっちに着くまでの時間が余計にかかっている。
大型の上位種は、体高で僕の身長よりも高い大迫力だけれど、ステラの矢が脚の関節を撃ち抜き動きを乱し、トールくんが頭をはね飛ばし、リンドくんが胸を貫き、ミナトが背中に飛び乗って拳で打ち抜いていた。
20を越える上位種と、40を越える羽アリを全部倒す頃には、鬼一たちも大量のアリを残さず倒していた。
・リザルト
・ジャイアントアントを撃破。
・ファイターアントを撃破。
・ソルジャーアントを撃破。
・シーフアントを撃破。
・ニードルアントを撃破。
・アシッドアントを撃破。
・ウォーリアアントを撃破。
・アイアンアントを撃破。
・キャプチャーアントを撃破。
・ウイングアントを撃破。
・ジェネラルアントを撃破。
・クイーンアントを撃破。
※《ネスト LV4》の討伐を確認。
※ワールドパラメーター(非公開)
・全種族 → 人間 への好感度 + 4、エルフ への好感度 + 2。




