第十四話:閑話:姫騎士の場合
別のβテスターの場合。
『ダイブ・コンプリート。新たなエデンへようこそ。我々は、あなたの来訪を歓迎します』
新しいVRゲームを先行プレイ出来ると聞いて応募してみれば、見事当選。
義務や制約も少しあったけれど、気になるものでもない。楽しんでプレイして、感想を報告すればいいような感じだったから、 なにも考えずにゲーム開始したものの……。
ぼく、アキラは、さっそく絶望していた。
まずは、身体が女になっていた。
……なんの冗談?
……ううん、冗談なんかじゃない。
髪は金髪になってしかも伸びているし、上は本当に付いているし、下は本当に付いていない。
頭は混乱の極み。けれど、まだまだ序の口だったみたい。
次は、ジョブが、
◯特殊職
・姫騎士
これしかなかったことだ。
これしかないから、これでプレイするしかない。
仕方なく『姫騎士』を選ぶ。
……女になった上、ジョブが姫騎士なんて……。
でも、まだ、これで終わりじゃなかったんだ……!
最後に、スキルが、
・くっ、殺せ!
・心は、屈しない!
・らめえぇぇぇ!
・んほおぉぉう!
・アーマーパージ
これしかなかったんだよ!!
・くっ、殺せ!:
ダメージを受ける、及び状態異常になった際、こんな感じに叫ぶと発動。
HPが減った割合と受けた状態異常の数に応じて、物理防御、魔法防御が上昇。拘束された場合、上昇値は最大になりHPも回復する。
敵全体を、『挑発』する。
・心は、屈しない!:
ダメージを受ける、及び状態異常になった際、こんな感じに叫ぶと発動。
MPが減った割合と受けた状態異常の数に応じて、MPが回復する。拘束された場合、MPは最大になりHPも回復する。
敵全体を、『挑発』する。
・らめえぇぇぇ!:
ダメージを受けた際、こんな感じに叫ぶと発動。
戦闘中に受けたダメージに応じて、物理防御、魔法防御が上昇。拘束された場合、上昇値は最大になる。
敵全体を、中確率で『魅了』する。
・んほおぉぉう!:
ダメージを受けた際、こんな感じに叫ぶと発動。
ノックバック効果を完全に無効化する。
敵全体を、中確率で『魅了』する。
・アーマーパージ:
防具を外す、または、防具が壊れて外れるたび自動で発動。
発動するたび、速度が上がり、敵全体を、『挑発』する。
なんで、こんなことに…………!
『落ち込んでるところ悪いけれど、さっさとチュートリアル始めるわよ?』
ティータと名付けた女性型の妖精は、本当に容赦ない。
今のぼくの姿は、腰まで届きそうな、長く綺麗な金髪に、控えめな胸と細い腰、水着みたいな柔らかい素材のビキニアーマーに、マント。
腰には、太いベルトに取り付けられたミドルソードとダガー。
これだけだ。
…………これじゃまるで、痴女だよ!!
「ねえ、ティータ? せめて、武器スキルとか無いの? でなければ、盾でもいいんだけど……」
既に泣きそうな、ぼくのすがり付くような声にも、妖精さんはどこ吹く風だ。
「普通、『姫騎士』になるには複数のジョブをコンプリートしなきゃならないの。わざわざ『姫騎士』になってまで、初期のスキルは得られないわよ。それと、『姫騎士』は、盾は装備できないわ。避けなさい」
ううう……。ステータス見てみよう。
HP:B
MP:B
力:A
体力:B
耐久:D
器用さ:B
速さ:A
魔力:C
魔防:D
運:E
…………なにこれ? えっ? えっ? なにこれ?
物理特化で、紙装甲で、運は悪くて……。
ダメじゃん!!
『防具なんて飾りよ? ミスリルの全身鎧を装備しても、ドラゴンの攻撃には耐えられないんだから』
避ければいいのよ、避ければ。
ティータはお気楽にそんなことを言う。
けれど、運動も得意じゃないぼくは、チュートリアルのバトルでやられそうだよ……。
……ううう……。魔法職にして、勇くんのサポートをするはずだったのに……。
膝を付いて落ち込んでいれば、ティータにつつかれて建物の外まで追い立てられた。
脇腹をつつくのはやめてよね!
くすぐったいでしょ!
外へ出て建物を見上げれば、レンガを積み上げたような城……じゃなくて、砦?
その砦の、中庭に出たようだった。
『ガイド妖精:ティータが申請。チュートリアル・バトルモード、起動』
光の中から現れたのは、
身長、一メートルくらい。
頭には一本の小さな角。
緑色の汚い体に、汚い腰布を巻いただけの姿。
ファンタジーの定番の魔物、ゴブリン。
いきなりなモンスターの召喚に、慌ててミドルソードを鞘から引き抜……くのがうまく出来ず、左手を鞘に添えて、右手でゆっくりと引き抜く羽目になる。
これが実戦なら、致命的な隙になったと思う。けれど……。
『はあっ? なんでよ? ……それはこっちも……あーもう、分かったわよ。あとで補填しなさいよ?』
ティータは耳に手を当てて、誰かと話しているようだった。
その間、ティータの手から伸びる光の鎖が、ゴブリンの首に絡み付いていて、ゴブリンが苦しみながら逃げようとすればするほど、光の鎖は首に食い込んでいき……。
そして、ゴブリンが光の粒子になって、消えてなくなった。
……あれー?
「ねぇ、ティータ? なにやってるの?」
ぼくが問いかけて、ようやく状況が分かったみたいで、あ……。と呆けた声を出してから、顔をしかめて謝ってきた。
『ごめん。秘匿事項が絡むから言えないけど、とにかくあの汚いゴミを引っ張ってくるから、殺しまくって。理由はあとで話す』
「わ、分かったよ」
それからしばらくの間、ぼくは、光の鎖に拘束されて動けないゴブリンをミドルソードでザクザクやる作業に取り掛かった。
剣スキルとか手に入らないかなーとか考えながら。
小鬼の魔石×100
小鬼の角×100
小鬼の骨×100
小鬼の頭蓋骨×100
汚い腰布×75
鬼の腰布×20
鬼の反物×5
折れた鉄の剣×30
錆びた鉄のナイフ×30
刃こぼれした鉄の鉈×30
『……はあ、バカみたい……』
なんだか、ティータが落ち込んでいる。
どうしたの? と理由を聞いてみれば、上からの指示でドロップ率をいじったらしい。
そうでないと、運が最低値の『姫騎士』は、ロクなドロップがないって言ってた。
うわあ、『姫騎士』、ほんとにダメじゃん。
でも、そうしないと、ぼくが着る服を作れないって言われた。
作れるの? 助かるよ。ありがとうティータ!
万歳してからティータを両手でそっと包むようにして引き寄せ、ほおずりする。
やーめーろー! と騒いでいたけれど、痴女みたいな今の格好をどうにかできるなら、なんだってするよ!!
…………うん、ティータに怒られた。
ティータの小さい体でアッパーされたら、信じられないくらい体か浮き上がり……てゆーか飛び上がり、すぐに意識が遠くなったと思ったら、ベッドの上にいた。
ティータがすぐに目の前に来てたくさん謝ったから、許すことにした。ぼくも悪かったしね。
ぼくが気絶している間に、ティータが色々作ってくれたみたい。
汚い腰布×70を消費して鬼の腰布×7を生産。汚い腰布×5、鬼の腰布×27。
鬼の腰布×18を消費して鬼の反物×3を生産。
鬼の腰布×9、鬼の反物×7。
鬼の腰布×6を消費して、グレーのジーンズ×3を生産。
鬼の反物×3を消費して、白いブラウス×3を生産。
鬼の腰布×3、鬼の反物×4。
ブラウスとジーンズが三着ずつ。今はこれで十分だと思う。
さっそく着よう。……女物だけど。
鬼の反物は、トレードするって言ってた。
なにと交換できるんだろ? ……てゆーか、誰と交換するんだろ?
折れた鉄の剣×20を消費して、鉄の長剣×5を生産。
錆びた鉄のナイフ×20を消費して、鉄のナイフ×10を生産。
刃こぼれした鉄の鉈×20を消費して、鉄の鉈×10を生産。
折れた鉄の剣×10、錆びた鉄のナイフ×10、刃こぼれした鉄の鉈×10を消費して、鉄のインゴット×15を生産。
鉄のインゴット×5を消費して、鉄の胸当て×1、鉄の手甲×1、鉄板入りブーツ×1を生産。
トレード:鬼の反物×4→契約の結晶 (ゴブリン)×2
『今はまだ使えないけど、もう少しレベルが上がれば下僕が出来るから、頑張んなさい』
下僕って……。ティータ、言い方ぁ……。
・リザルト
白いブラウス×3
グレーのジーンズ×3
鉄の長剣×5
鉄のナイフ×10
鉄の鉈×10
鉄のインゴット×10
鉄の胸当て×1、
鉄の手甲×1、
鉄板入りブーツ×1
契約の結晶 (ゴブリン)×2
頭:
胸:白いブラウス
腰:グレーのジーンズ
腕:鉄の手甲
脚:鉄板入りブーツ
外套:鉄の胸当て
その他1:白の水着 (ビキニ・上下セット)
その他2:マント
武器1:鉄のミドルソード
武器2:鉄のダガー
(注)白の水着はビキニアーマーなどではない。
アキラは騙されている。