第百三十七話:ダメ。ぜったい。
さて、やってきました北区。
毒草やキノコを植えてるエリアなんだけど……。
「お姉ちゃん、ここ、やだ……」
「怖いぃ……」
「……ぐすっ……ひっく……」
ちびっ子たちは、早くもおそろしげな雰囲気に呑まれて、グズりだしている。
……正直、僕も泣きたい。
「トール、トール、ここは、魔界の入り口なのかい?」
ずっと涼しげな雰囲気だったリンドくんも、なんかビビってるし。
「おれとしては、興味深い場所なんだけど……」
ごめん、トールくん。それに賛成できる人は、ここにはいないみたいだよ。
「……うう……、は、早くいこうぜ……」
ミナトも半べそだしねぇ。
それもそのはず。
なんかここ、来る度にパワーアップしてるし。
毒々しい色の虫たちは生存競争を終えたみたいで、残っているのは手のひらサイズのクモだけ。
大きな巣を張っていて、そこにまゆ玉みたいな白っぽい糸の玉がたくさん……。
これたぶん、あの生存競争で競ってた虫たちなんだろうなあ……。
虫たちの戦いが終わったあとは。植物が生存競争を始めたみたいで、毒々しい色の煙……花粉? があちこちから吹き出ていたり、つるを絡ませて締め付けていたり、ウツボカズラみたいなのが液体をかけると、植物が枯れたりしている。
……植物って、こんなにアクティブだっけ……?
どっからか飛んできた虫がキノコをカジカジしたら、その虫からキノコがにょきにょき生えてきたりとか、ハエトリソウみたいなのが別の植物に噛みついたりとか、なんかもう、普通に危険な光景なんだよね……。
「……ねえ、もう、ここ、一回焼き払った方がいいんじゃないかな……?」
僕もちょっとちびりそうなヤバい光景にビビっていると、どこからかゴスケさんが飛んできて、手で制してくる。
ここを焼き払うなんてとんでもないとばかりに。
「でもさあゴスケさん、虫より植物の方が危なくない? あの煙みたいな花粉とか、吸い込んだら体に悪そうだよ?」
大分オブラートに包んで危険性を訴えるけれど、問題ない。とばかりに親指を立てている。
……あ、とうとうちびっ子が泣き始めちゃったよ。
怖いようと泣くちびっ子に、ゴスケさんはあわてて手を振って、危なくないアピール。
僕からするとコミカルな仕草だけど……。
「ミコトちゃん? その、スケルトンは……?」
あらら、リンドくんはめっちゃ警戒してるね。
「リンドくん、こっちは、スケルトンゴーレムのゴスケさん。みんな、ゴスケさんは怖くないよー。で、ゴスケさん。こっちは《街》にいた孤児の子たちとエルフのリンドくん。仲良くしてね?」
「いや、ミコト。こんなところで自己紹介とかしてないで、場所を変えようぜ。ちびっ子たちがギャン泣きしそうだ」
あ、ほんとだ。
ミナトに促されて、毒草・キノコエリアを移動する。
管理は任せろとばかりに胸を叩いて見せたゴスケさんに任せるけどさ、あの魔界みたいな領域は広げないでね?
ほんと、お願いね?
「そういうわけで、あそこは危ないから入っちゃいけないよ?」
そんな感じにちびっ子たちに注意しながら北東の薬草・甜菜エリアにくると、甘い匂いが漂ってくる。
ちびっ子たちも、甘い匂いに鼻をひくひくさせて、なんの匂いだろうね? って泣き止んでる。
突然聞こえてきた物音に目を向けると、さっきのとは別のゴスケさんが大根ヤクシャを倒したところだった。
大根ヤクシャの頭の葉っぱを掴んで、スキル《錬金術》で種に変換、また植えて数を増やそうとして……。
大量に繁茂している薬草を見て、植えるスペースを探してる。
「みんな、手伝ってくれるかな? あのねー」
ちびっ子たちに声をかけて、薬草を根っこごと引っこ抜いてもらう。
これはもう、増えすぎで大変なので、少しずつ数を減らさないと。
そうじゃないと、せっかくの甜菜を増やすスペースが足りなくなっちゃうからね。
ちびっ子たちが根っこごと引っこ抜いた薬草は、トールくんが根っこについた土をはらって布にはさんでいる。
あ、トールくん主催の『薬草の品質を落とさない採取講座』が始まっちゃったよ。
僕も、飛竜素材のシャベルで周りの土ごと薬草を引っこ抜く。
周りの土ごと引っこ抜いたものは、土と根っこを包むように布でくるんでる。
ミナトはスピード優先で、とにかくたくさん引っこ抜いてスペースを確保しようとしてたみたいで、トールくんにやんわりたしなめられてちょっぴり涙目。
リンドくんは薬草の採取は手慣れてるみたいで、傷つけないように丁寧に採取してる。
こうやってみんなで薬草を採取して、空いたスペースにゴスケさんが甜菜とサトウキビと大根ヤクシャの種を植えていった。
たくさん増えるといいなあ……。砂糖取り放題なくらいにさ。
……うーん? 甜災大根ヤクシャ? なにそれゴスケさん?
リザルト
・ヤクシャの鉈 × 18 入手