第百三十六話:エルフの里からの手紙
ステラが手紙をよこしてきたので、代表して僕が読むことに。
「えーと、なになに……。
『こんにちは。元気でいるかな? ひとまず話し合いの結果を伝えておく。
ポータルの設置はよろしく頼む。場所はこちらで用意しよう。
次に、そちらに行ったリラより文が届いた。聞くところによると、ミードビーの卵を作り出すことができるかもしれないと。
里としては、樹育士リラとその護衛にして娘のステラをすでに向かわせているので、インセクトテイマーの追加派遣はさすがに難しい。が、こちらにミードビーの卵を届けてもらえたなら、責任をもって育成しよう。また、作り出すミードもそちらに分けることを約束しよう』
……だってさ」
エルフの里からの手紙を読み上げて、首をかしげてしまう。
「うーん? この子たちのことは、特に書いてないね?」
「ミコトちゃん、こちらのサンダーバードにも手紙が」
そう言って次の手紙を渡してくるリンドくん。
読めってことね?
「はいはーい……。
『この手紙を届けたケツァールとサンダーバードは、連絡用としてそちらに置いてもらっても構わないし、こちらに送り返してもらっても構わない。
どちらにせよ連絡は密にしたいと願う。
そちらに置く場合は、申し訳ないがエサと寝床を用意してほしい。
必要なことはリラが知っているはずだ。他に知りたいことがあれば、手紙で質問してほしい。
もう一つ。二羽とも貴重かつ有用で有能なので、絞めて鶏肉にするのは勘弁してほしい』
……だってさ」
ニワトリだってまだ絞めてないのに、ケツァールやサンダーバードを絞めるわけないじゃない。
僕ら、そんなに食い意地張ってるように思われてたのかな?
「なあ、ステラ。ケツァールって、美味いのか?」
「いや食べたらダメだぞ!? ……味は、知らない」
ミナトに味を聞かれて、びっくりしているステラ。
いやさ、食べちゃダメって言われたら、食べるに至る理由が気にならない?
「ケツァールは、絞めて食べるより抜け落ちた羽根を素材にする方が有用だから、大切に長く飼育する方が価値が高いよ」
「そうだね、トール。ケツァールの羽根を矢の羽根に使ったら、属性持ちの矢になるから。里では主に素材用として飼育していて、伝書鳥として飛ばすのは聞いたことなかったな」
トールくんもリンドくんも、食べるのには反対みたい。
そりゃあそうだよ。こんなにかわいいんだから。
胸のあたりを指でかいかいしてあげると、頭を寄せてくるので、撫でてあげると気持ち良さそうにしてる。
「ミコト、とりあえずさ、エルフの里に手紙書いた方がいいんじゃないか? こいつらを預かるにしても、じいさんエルフに手紙を送った方がいいだろ」
抱っこしてるサンダーバードが目を閉じてくつろぎモードになってるミナトがそう言うけれど、二羽のことは了解した以外になんて書けばいいのかな?
「うーん、まあ、それはそれで、あとにしとこう。またエルフの里にいかないといけないしさ。そのときに事前連絡として、この子たちに手紙を持たせればいいんじゃないかな?」
今は、手紙よりもちびっ子たちと拠点を見て回ることを優先させてもらおうかと。
「じゃあみんな、そろそろいくよー」
ニワトリ、牛、豚たちと別れてから、南東のじゃがいもやとうもろこし、南西のトマトや豆類、西の果物類と見て回り、北西の樹木類の範囲にさしかかったところで、作業中のリラさんと会った。
「あ、リラさん、こんにちは。なんかね、この子たちがエルフの里から手紙を持ってきたよ。それでね、こっちの子たちは《街》で暮らしていた孤児たちで、ライラさんていうエルフの人が世話してたんだ」
「ええ、こんにちは。……えっ? エルフのライラさん? もしかして、ライラおば様かしら……?」
あや? 知り合いっていうか身内だったのかな?
「ミコトちゃん、里の手紙は後で私にも読ませてね? それより、ライラおば様もこちらに来ているのかしら?」
「うん、この子たちと一緒に。でも今は、年少組の子たちが家で休んでるから、その子たちに付き添ってるよ」
どこか必死なリラさんにライラさんのことを教えると、
「ごめんなさいね。死んだといわれていた身内なの。私は顔を見たいからこれで。……みんなもごめんなさいね。あとで自己紹介させてね? ステラ、あなたも来なさい。紹介したいの」
「母さま、そんなに引っ張らなくても。……母さま?」
必死なリラさんに、文字通り引きずられていくステラ。
死んだと伝えられた人かぁ……。
そんな人が生きていたって知ったなら、複雑かもしれないけれど、やっぱり嬉しいよね? 慕う相手だったなら、特にさ。




