第百三十五話:庭には二羽ニワトリじゃない子たちが
おねむの年少組はライラさんに任せて、年長組の孤児たちと一緒に《拠点》の建物内部を確認したあと、一度外を見せておくことに。
敷地の東側には、牛舎、鶏舎、豚舎が一棟ずつ並んでいて、周辺にはなぜか薬草が異常繁茂していて、牛も鶏も豚も、舎内に自動供給されるエサそっちのけで、今日も元気に薬草をもりもり食べていた。
……なんか、どう見てもニワトリじゃないのも混じってる気がするけど……?
鮮やかな黄色の猛禽類っぽい鳥と、虹色に変化する羽毛の鳥が一羽ずつ。
ニワトリたちが薬草をもりもり食べている横で、遠慮がちに薬草の葉をついばむ二羽。
食欲がないのか、薬草は食料にしないのか、食が進まない黄色いのと虹色の二羽へ、ニワトリが薬草をちぎって持っていくものの、一度ついばむ程度でもう食べようとしない。
薬草は好まないか。ならば、ミミズはどうだ? イモムシは? とばかりに、地面から引っこ抜いたミミズなどを食べさせようとぐいぐいよっていくニワトリたちに怯む様子の二羽。
花の蜜とか、果物が好きなのかな? それとも、魚やお肉かな?
よく見てみると、二羽ともニワトリより大きい。
黄色い方は、鷹とかそんな感じの鳥で、頭の毛がミミズクみたいにしゅっと逆立っているようなとげとげしい毛並みで、羽や背中側は黄色やオレンジ色、腹側は白っぽい色合い。
翼を広げると2メートル越しそうな大きな子。
虹色の方は、くじゃくみたいな感じで全体が光の当たり具合で虹色に変化する羽毛で、尾羽に赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍、紫の七色のラインが入っていて、尾羽自体が虹みたいなきれいな子。
「こんにちは。きみたちはどこの子たちかな?」
僕が声をかけると、二羽とも歩いて近寄って……というか、ニワトリたちから逃げるように走ってきた。
『黄色い方がサンダーバードで虹色のはケツァールだな』
「ふわー」
「きれーい」
ヤタの言葉に、年長組の子たちも、二羽に興味津々。
でも、虹色の子ケツァールは飛び上がって僕の肩に止まり、黄色の子サンダーバードはミナトの肩に止まった。
「わっ? ……っと、おまえ、大きいのにあまり重くないな?」
急に僕とミナトの肩に乗ってきた二羽に、ちょっとびっくり。
……僕らは止まり木かな?
でもでも、目を閉じて一息ついている様子の二羽は、ようやく安息の場所を得られたという感じ。
体は大きいのにあまり重くもないし、興味津々なちびっ子たちには悪いけど、この子たちも休ませてあげようか。
「みんな、なんだかこの子たち疲れてるみたいだから、しばらくそっとしておいてね?」
少し声をひそませて言うと、ちびっ子たちもしょうがないねって感じで引き下がってくれた。
「サンダーバードなら、エルフが書簡や小物を送る時に使うけれど……」
ステラはそう言いながらも、どこか違和感がありそう。
「ケツァールも一緒というのが、よく分からないね」
ステラと同じ里のリンドくんも首をかしげてる。
もちろん、僕もミナトもよく分からないので、二人同時に首をかしげた。
ケツァールやサンダーバードも一緒に首かしげ。
その様子がツボったようで、ちびっ子たちが笑って、ステラやリンドくんも笑って。
トールくんは、終始にこにこ微笑んでた。
そのまま少し穏やかに時間が過ぎると、ニワトリたちが僕やミナトのそばに寄ってくる。
コッコッいいながら、ケツァールやサンダーバードを気遣わしげに見上げている。
牛や豚も寄ってきて、ちびっ子たちやリンドくんに撫でろとばかりに頭や体をこすり付けている。
「みんな、ニワトリさんや牛さんや豚さんを優しく撫でてあげてね」
ちびっ子たちは、はーいっ! と元気よく返事して、言われたとおり、牛や豚をそっと優しく撫でたりニワトリを抱っこしてみたりしている。
「ねえ、ステラ、リンドくん。この子たちって、エルフの里の子なの?」
その間に、僕は事情をある程度知っていそうなエルフの二人に聞いてみた。
「サンダーバードは、雷光のような速さで空を飛ぶとされている。その速さから、里では手紙や書簡などを素早く届けるための伝書鳥として訓練されているぞ」
「ケツァールの方は、羽に色に応じた属性が宿るから、抜け落ちた羽は素材として重宝されるよ。主に、装飾品として加工されたものが贈り物として扱われているね」
ステラはサンダーバードのことを、リンドくんはケツァールのことを教えてくれた。
「ミコト、ケツァールの首に何か掛けられていないかい?」
じゃあ、二羽がここにいるのはなんでだろ? とまた首かしげしそうになったとき、トールくんが僕の肩に乗ってるケツァールを見て何かに気付いた模様。
「あ、本当だな。ミコト、ちょっと動かないでくれ。私が確認してみる。リンド兄はミナトのサンダーバードを確認してくれないか?」
左手を胸くらいの高さに上げると、肩からぴょんと腕に乗るケツァール。そのあごの下あたりを指でかいかいしてあげると、気持ち良さそうに目を細めて首を伸ばしていた。かわいい。
「ああ、ミコト、助かる。……小さいが、ネックレスに手紙が収められているな」
ケツァールの首には細いネックレスが掛けられていて、人指し指くらいの大きさの筒がくっついていた。
その筒をくるくる回すとふたが外れて、小さくたたまれた手紙が入っていた。




