第百二十八話:閑話:採掘隊
「よう、ユーノじゃないか。……また、嫁を増やしたみたいだが、今は何をやってるんだ?」
短髪でタンクトップ姿の、細マッチョな男性。
以前、《大氾濫》を調査する《先遣隊》として同行したベテランチームのリーダー、ダクさんだった。
「うっす。おかげさまで、幼馴染みと合流できました。んで、移動がどうにかならないかって思ってさ。馬とか騎獣とか考えてみたけど……。いや、高すぎてダメだってなったところ」
騎獣に関しての資料 (有料)をシオリに渡して、天井を仰ぎ見る。
「馬や騎獣は、俺たちでも所有してないな。頻繁に使うならともかく、依頼は必ず遠出するとは限らないからな。もし必要なら、必要なときに借りるというのもアリだぞ」
「借りる、かぁ……。……うーん……。あ、他のみんなはどうっすか? 元気だといいんだけど」
「元気も元気。弟のドクとナジャの夫婦は元気すぎて手がつけられねえよ。ところでユーノ、お前らは採掘隊に同行しないのか? 掘る側でも守る側でも、そこそこ稼げるぞ?」
「ああいや、俺たち《街》に着いたばっかでさ。とりあえず移動手段をどうにかしたいと思って、真っ先にここに来たところだよ」
「よかったらこちら、参加してみてくださいね。護衛は冒険者ランクが3以上必要ですが、キングを討伐しているユーノさんたちなら、問題ありませんから」
若くて綺麗で巨乳な受付嬢から依頼書を受け取ると、ウインクされた。
で、シオリとサーシャから両耳を引っ張られることになった。
……なぜだ? 鼻の下なんか伸ばしてないぞ?
で、ダクさんと別れてから騎獣の件は一旦保留して、採掘の依頼書を確認してみたが、明日出発とあって、参加するかどうかをまず決めることになった。
他の依頼も確認してみたが、護衛と採掘どっちが美味しいかでパーティー内で意見を交わすことに。
採掘は、持ち帰った鉱石の質と量次第なところがある。
それに対して、護衛は、報酬ははっきりしてるが、かかる日数からするとどうなんだろう? と、結論が出ない。
冒険者として先輩のサーシャやニア、カティとティアの意見を聞いてみても、同じような依頼はこなしたことがないから分からないという。
ま、分からないなら分かる人に聞けばいいわけで。
「というわけで、さっきの受付嬢さん。パーティー全員で参加した場合、どっちの依頼がおすすめ?」
さっそく頼ると、露骨に色目使って来るわけで。
「……んふっ。パーティー全員での参加でしたら、護衛の方が得だと思いますよ。採掘は、採掘量をごまかされないように、ギルド職員も同行します。《鉱山》の入り口付近にキャンプを設置して、採掘した鉱石はそこで集積・鑑定して精算します。報酬の支払いはここ冒険者ギルドに帰還してからになりますが、持ち帰る量には限界がありますから、報酬の上限は自ずと見えてくるでしょうね。
ああ、食料や水、テントなどの必要な資材は冒険者ギルドからは提供しませんので、ご自分で用意してもらう必要があります。お忘れなく」
……ふむふむ……。
って、あれこれ準備しないといけないんじゃないか?
しかも、今日中に。
「ちなみに、ですが、音が漏れないようにできる静音結界付きのテント……というか、木製のコテージですが、貸し出しは可能ですよ? 同行員が特殊な手段で携行するので、当日現地でも声をかけてもらえれば貸し出します。……その際は、私も同行しますので私に声をかけてもらえますと、お安く……場合によっては、無料での提供も可能になります」
受付嬢さんの目が、欲にまみれて妖しく光る。
……なんの欲かは、知らん方がいいんだろうな。
「お安く?」
「はい。私が満足するくらい、楽しませてくれましたなら。ただし、大変人気なサービスとなっておりますので、お声がけはお早めにどうぞ?」
ま、俺らは《拠点》があるから必要ないがな。
…………だから、ニア? 脇をつつくのやめてくれ?
いくら巨乳な美人さんだからって、鼻の下なんか伸ばしてないからさ。
どう考えても、トラップでしょ。
「とりあえず、参加するって方向で異存は?」
メンバー全員異存なしってことで、往復数日ずつかかる依頼に必要なものを、手分けしてかき集めることになった。
俺、サーシャ、ニアは、タオルとか着替えとかの布製品や追加の食器など各種日用品を。
シオリ、カティ、ティアは、ポーションなどの消耗品を。
アキラとマキさんは、冒険者ギルドの厨房を借りて、スープやメインのおかずなんかを自作するという。
食材を持ち込んで少額の利用料を払えば、厨房を借りられるらしい。
客が少ない時間帯に限定されるらしいけどな。
「街に慣れた人がいると楽でいいな。助かるよ」
サーシャの案内で古着屋に入ったら、俺の相棒が興奮して飛び回ってしまって、慌ててなだめようとしたら、古着屋の店主が「妖精さまがうちの店に……」と泣いて喜んでいた。
なんでも、妖精は信仰の対象で、店に訪れるとその店は繁盛するのだとか。
そんならと、汚れてても穴が空いてても問題ないので、とにかくあれこれ買うことにしたら大分安くしてくれた。
「毎度あり。……いやー、生きてるうちに妖精さまを拝めるなんて、今日はなんていい日なの……」
「おばちゃんとこの店に、妖精の祝福があるといいな」
泣いて喜ぶ恰幅のいいおばちゃんに引きつつ、社交辞令を送って店を出ようとした。
……そのときだった。
『ユーノ、《祝福》すればいいのね?』
ファウが、なにやら天に向けて指をピンと立てて集中すると、ファウの体……というか、トンボみたいな透き通った羽からキラキラ光る鱗粉のようなものが漂って、古着屋のおばちゃんと店に吸い込まれていった。
:《祝福》しました。
思わずステータス画面を開いてログを確認すると、なにやら意味深な文字が……。
「……わぁ……。すごい……」
「……妖精に祝福されるなんて……」
サーシャとニアは、憧れと嫉妬が入り交じったような視線をファウに向けるが……。
『ユーノたちと一緒にいる二人は、もう祝福されているようなものだから、改めて《祝福》しなくてもきっと幸せだよ?』
ファウの言葉に、驚きで目を見開く二人。
俺もビックリだよ。
……でもさ、とりあえず……。
「おばちゃん、このズボンおくれ。……って、何かすごくねぇかこれ?」
新たに入ってきた客の男性が、目を付けたズボンをおばちゃんに持っていくと……。
:『布のズボン+3』
:妖精の祝福を受けた布製のズボン。履いたものに幸運を授ける。
とりあえず、逃げた方がよくねぇか!?
サーシャとニアの手を引いて、急いで古着屋をあとにするのだった。