第百二十五話:土地を所有する
冒険者特典の1つとして、拠点となる家を借りたり、家を新築したり、空き家を購入したりする手続きを、手数料を支払うことで冒険者ギルドの方で代行してくれる。というものがある。
それは、文字通りのことで、収入が不安定な冒険者個人では、支払いがなかなか上手くいかない場合があるようで。
それに対して、冒険者ギルドとしてなら、個人とは規模が段違いなわけで。
規模の大きさはそのまま、信用に繋がるのだとか。
孤児院の土地の所有権を譲渡するためには、申請する僕だけじゃなく所有者であるライラさんが一緒に行く必要があるのだけれど、僕とライラさんが一緒に行こうとするとちびっこたちが不安がる。
なので、トールくん、ミナト、ステラの他に、コボルトのジョンとメグも召喚して置いてきた。
シェパードに似て、精悍な顔つきのジョンと、レトリーバーに似て温和な顔つきのメグは、大きいのでちびっこたちは普通にビビってしまうけれど、僕とミナトがハグしてモフるとちびっこたちも興味を引かれて寄ってきて、もふもふを堪能して喜んでた。
抱きついたり、毛を撫でたり、背中に乗せてもらったりと、ジョンとメグもしっぽフリフリちびっこたちも笑顔で楽しそう。
なので、僕とライラさんが冒険者ギルドに行くまでの護衛は、ぐれ太の他にリビングアーマーのレーヴェ。
知らない誰かが近寄ろうとすると、
「ぎゃーうー」
(ダメー)
ぐれ太が鳴き声と念話で警告を出してくれる。
だいたいそれで去っていくのだけれど……。
キツネに摘ままれたような顔をして行くのはなんでだろうね?
……ライラさんは、なぜかクスクスと上品に笑っているのだけれど。
さて、やってきました冒険者ギルド。
依頼を出すのと同じカウンターで、土地の所有に関する書類をもらい、ライラさんと相談しながら空欄を埋めて、漏れや間違いがないか二人で確認してから提出する。
「……はい、……はい。書類に不備がないことを確認しました。あとは、双方の同意の下、孤児院の土地と建物の所有権を、ライラさんからミコトさんへ譲渡することでよろしいですね? よろしければ、こちらに二人のお名前を記入してください。……はい。結構です。……では、必要料金に加えて手数料一割で、……ええと、これくらいになります。……手持ちは、大丈夫ですか? 結構な額になりますが……」
うーん、金貨11枚かぁ。土地と建物を買い取るのだから、もっとするのかと思ったよ。
「あの周辺は、店舗から離れていて利便性もよくはなく、治安もあまりよろしくないので、この程度のお値段となっています。条件のよい土地や物件ですと、桁が一つ増えることになるかと」
おっと、普通の場所はもっと金貨が必要になるみたいだね。
ある意味、お買い得……なのかな?
「では、ギルド側として、手数料一割を受け取りました。……では、こちら、元所有者への料金になります。…………(金貨10枚にもなりますと、強盗が起きてもおかしくない額になります。ましてや、二人は女性です。帰り道は、どうかお気をつけて)」
受付嬢さんに、ヒソヒソ声で注意されちゃった。
ぐれ太もレーヴェもいるし、そんな危ないこととか起こらないと思うけどな?
もちろん、ヤタもいるしね。
……妖精やワイバーンがいるのに、襲ってくる人とか、いるのかな?
「なぁ、お嬢ちゃん。おばちゃん。ちょっと金貸してくれねー?」
……あれー? なんか、孤児院への帰り道のちょっと人気のないところで、10人くらいに絡まれちゃったよ?
妖精のヤタと、ワイバーンのぐれ太と、リビングアーマーのレーヴェが目に入らないのかなー?
「ちょっとでイんだよ。あるんだろ? だしなよ」
「痛い目見たくなかったらさあ。……お嬢ちゃんの方はキモチイイ目かもしれねーけどなっ」
ぎゃはは、ゲラゲラ。
なんとも下品に笑うみすぼらしい男たちの様子に、ため息一つ。
「…………ぐれ太、怖い声」
「ぐるるぅぅあああ~~っ!!」
(ヤんのか? ゴルァあっ!? ○スぞワルェあっ!?)
ぐれ太が牙をむき出しにして吠えたら、男たちはみんな逃げてったよ。
……でも、……えーと、あれ?
「ミコトさん? ぐれ太ちゃん、なんだか変な念話だったわね?」
僕と一緒にライラさんも首をかしげて困惑していた。
でも、レーヴェが背中をぐいぐい押してくるので、なんだかちょっと納得いかないけれど、その場をあとにした。
あ、そろそろ暗くなってきたね。
早く戻って夕飯の支度しなきゃ。
「ああ、衛兵さん。よかった。ねえちょっと聞いてくださいな。街の中だっていうのに、聞いたこともない恐ろしい声が聞こえてきたのですよ。ええ、ええ、とっても恐ろしかったわ。でも、悪魔の叫びとかそういうものじゃないわ。そういう聞いたら呪われそうなものじゃなくてね、もっと大きくて強い……そう、ドラゴンとかそういう存在の鳴き声だと思ったわ。……ええ? まさか。ドラゴンの鳴き声なんて聞いたことあるわけないじゃない。もののたとえよ。たとえ。でも、仕方ないでしょう? 本当にそう思えたのだから。……ああ、恐ろしい。街中でドラゴンが吠えただなんて、この街始まって以来の大事件じゃないかしら? ねえ、衛兵さん。ちょっと、聞いてます? ドラゴンよドラゴン。周りの人に聞いてみたんだけれど、誰もそんなの見てないっていうのよ~……。でもね、みんな世にも恐ろしいドラゴンの鳴き声は聞いたみたいよ。隣の家の奥さんも、その隣の旦那さんも、そのまた隣のおじいさんも。……あ、そうそう。通りを挟んだ向かいの家の奥さんね、なんでも、不倫してるって噂なのよ~。旦那さんとは違う男の人がね、旦那さんが居ない隙を見計らったかのように家を訪ねてきてね、その男の人が家を出るとき、キスしたのを見た人がいるって噂でね。……ねえ、ちょっと、聞いてます? それでね、三軒となりの家なんだけれど、みすぼらしい格好の変な男たちが夜な夜なその家を訪れて…………」
「……はい、……はい、聞いてますよ。……はい、はいはい。……あー、奥さん、立ち話もなんだから、詳しい話は衛兵隊の詰め所の方でね、聞きますからね。じゃあ、ちょっといきましょうか? ……こない? じゃあ、明日以降で手すきなときに詰め所の方にきてくださいね。夕飯の支度しないと、旦那さんが帰ってきちまうよ。じゃあ、今日のところはこれで」
(…………俺は、いったい何を聞かされたんだ……。まったく要領を得ない話でよお。……とりあえず、ドラゴンの話は広めないように言っておかないとなぁ……はぁ……。つーか、ワイバーンと黒髪のお嬢ちゃんだろ。どうせ、ごろつきどもが絡んできたから威嚇したってところだろ。……つっても、なんの証拠もないしなぁ。噂好きのウソつきおばちゃんの長話を飽きるくらい聞かなきゃならんのか……。……あぁ……憂鬱だぁ……)




