第百十七話:講習会
《クエスト:剥ぎ取りと解体をお願い》
一般の冒険者にクエストをお願いするよ。
アイテムボックスに倒したオークがたくさんあるのだけれど、剥ぎ取りをしてない状態のままで入ってて、解体するのが大変だから手伝ってほしいんだよ。
剥ぎ取り・解体が得意な人、丁寧に剥ぎ取りをしてくれる人には、追加の報酬を出すつもりだよ。
戦うことが得意ではない人が参加しても大丈夫だから、たくさんの人に参加してもらいたいな。
よろしくね。
・依頼者:ミコト (プレイヤー)
・対象:冒険者10~20名くらい
・報酬:前金:銀貨1枚、成功報酬:1体解体するごとに最大銀貨5枚。追加報酬アリ。
・備考:経験者優遇。余裕があれば、1人で複数解体してもらえると助かるよ。
・備考:素材を売却したお金の一部を報酬に上乗せ。丁寧に剥ぎ取ったらもらえるお金が増えるよ。がんばってね。
・備考:剥ぎ取った素材の状態があんまりひどいと、報酬を減額させてもらうからね。
特に、お肉をダメにされたら困るな。
「こちらが、解体の作業場になっております」
受付のお姉さんに案内された地下のドアを抜けた先は、広い空間になっていた。
正面は通路になっていて、左右に壁と柱で仕切られたスペースがたくさんある。
それらのスペース一つ一つに、《街》に集められた素材が仕分けされていた。
その中で、魔物を解体して素材とお肉にしているスペースに案内される。
「ダメスさん、お疲れさまです。こちらは解体の依頼を出したミコトさんといいます。今回は大量に解体を依頼したいそうで、後で他の冒険者が依頼を受けてこちらに来ます。対応をお願いします」
「………………ああ」
「ミコトさん、こちらは冒険者ギルドで剥ぎ取り・解体を担当しているダメスさんです。無口ですが腕は確かです」
「よろしくね?」
「………………………………ああ」
紹介された人は、こっちを見ることもせずに黙々とイノシシをさばいていた。
ナイフ1本であっという間に皮を剥ぎ取る様子は、まるで魔法のようで、つい見入ってしまう。
皮が終わったら、次は肉を部位ごとに切り分けていた。
迷いのないナイフさばきは、実に見事だった。
「…………ふぅ」
一仕事を終え、ようやくこちらを見たその人は、立ち上がるとすっごく大きくて、小柄な僕やミナトの倍くらいは大きいんじゃないかってくらい。
……巨人なのかな?
「お久しぶりですダメスさん」
「…………噂は、聞いていた。……が、よく、戻ってきた」
顔見知りらしいトールくんが挨拶すれば、大きな大きな手で、トールくんの頭をワシワシと乱暴に撫でていた。
……解体で、ベトベトになった手で。
…………嫌がらせかな?
「……………………出せ」
何を? 巨人さんがこっちを見たと思ったら、なんか出せって命令口調?
「ミコト、解体してほしいものを出してくれって。ダメスさん、他の冒険者を交えての解体になるので、その」
「…………かまわん。出せ。……いくらでも、やってやる。…………お前の頼みならな」
ああ、これ、親戚の甥っ子を可愛がる不器用な叔父さんみたいな感じに思えるよ。
無表情でイノシシをさばく様子はちょっと怖かったけれど、体が大きくて目付きが悪くて無口な人ってだけなのかな。
……でも、頭撫でるなら、手をきれいにしてからにしてよね。
トールくんの頭がベタベタじゃないのさ。
とりあえずスキル《浄化》できれいにして、と。
「ありがとう。ミコト、ダメスさんは解体をお願いしてもいいそうだよ」
「解体してないオークが300はあるんだけど……」
「…………3日あれば」
「ダメスさん、あなたはそれ以外にもやることがあるのですから、解体依頼の準備をしていてくださいってことですよっ。貸し出す道具の準備とかあるでしょう? せっかく、戦えないような子どもや解体未経験の若手も参加できる依頼なんですから、ちゃんとやってくださいね?」
受付のお姉さんの声に振り返れば、6人の若い冒険者たちの姿が。
冒険者が剥ぎ取りの経験を積む場合は、ギルド主催の講習会に参加するか、先輩冒険者に教えを乞うのが一般的だそう。
けれどそれは、基本有料で、お金のない若手には遠慮したいことみたい。
そうなると、失敗を前提として自分で剥ぎ取りをやってみて、経験を積むしかないみたい。
最初の失敗で苦手意識を持ってしまうと、剥ぎ取りを必要とする依頼を受けなくなる人がいるみたいで、今回僕が出した依頼みたいに、経験を積めてお金ももらえる依頼は、冒険者ギルドとしても大歓迎なことだってさ。
状態の良い素材は、冒険者ギルドとしても利益になるし評判の向上にも繋がる。
だから、腕のいい解体師はギルド職員として雇われることもあるんだってさ。
「…………さあ、出せ」
でもこの人、言葉が少ないよー……。
「…………よく、見ていろ」
あっという間にオーク1体を、皮、肉、オスのアレ、内臓などの食べられない捨てる部位に分けた巨人さんは、さっそく2体目の解体に移ってた。
2体目は、言葉は少なくても解説を交えながらゆっくり丁寧に。
3体目は、冒険者の1人を指名して実際にやらせてみていた。
……でもさ、よりによって女の子の冒険者に、オスのアレを切り落とさせるのは、ちょっとどうかなって思ったよ。
その子泣きそうになってたし、他の男の子の冒険者たち、みんな股間を押さえてたよ。
えっと、その、ちょっとでいいから、配慮をお願いしたいよー。
・現在の参加者 孤児8人 + 若手冒険者6人 =14人
・現在解体したオーク : 3体




