第百十五話:孤児院
「ここが、おれが世話になっていた孤児院だよ」
貴族街から西側に移動した先にあったのは、だいぶくたびれた建物。
一応、教会や一部の貴族などの有志が出資しているというけれど、手入れが行き届いていないことは見れば分かる。
柵はあるけれどボロボロで、役を果たしていない。
庭はあるけれど、ほとんど畑で野菜を育ててる。
建物はあるけれど、雑に補修されていてつぎはぎだらけ。
その上で、日々の食事にも事欠く時もあるそう。
それでも、だいぶましなんだって。
ボロでも着れる服があって、雨風をしのげる家があって、野菜を作れる畑があって、井戸があって、読み書きを教えてくれる院長先生がいて、その院長先生の紹介があれば、働いて日々の食事を得ることができるから。
それに、院を出た元孤児が、たまに手土産をもって様子を見に来るというから。
旧市街地の奥の方は、もっとひどいってさ。
……特に、僕やミナトやステラみたいな女の子は、絶対に入っちゃいけないってさ。
「……あっ! トール兄!?」
畑の世話をしていた子どもがこちらに気付いて声をあげた。
それを皮切りに、外にいた子や建物の中に居た人たちまで集まってきた。
何人かは泣きながら、みんな口々におかえりというので、トールくんも涙ぐんで、ただいまの言葉を絞り出していた。
「お帰りなさい、トール。……よく、よく無事で、帰ってきてくれたわね」
子どもに手を引かれて、慌てた様子で出てきた修道服に身を包んだ年配の女性が、涙をこぼしながらトールくんを抱き締めていた。
「院長先生、ただいま帰りました」
「生きて帰ってきてくれて、本当に嬉しいわ。こちらの女性たちは? これから時間はあるかしら? よかったら中に入って。話したいことが山ほどあるの」
院長先生の言葉に、トールくんはちょっと困った様子で僕の方を見るけれど、僕も言いたいことが山ほどあるので首を縦に振った。
……でも、その前に。
「ご飯を食べよう。子どもたちは全部で何人いるのかな?」
僕の料理スキルが唸りをあげるよっ!
ボロを着て痩せてる子どもたちを片っ端からスキル《浄化》できれいにして、子どもたちにもしっかりと手を洗わせてから手伝ってもらってみんなでスープを作ります。
竈に火を起こして、大鍋に水をはって竈にセット、たくさんの種類の野菜を刻んで、小麦粉を水でこねて大きな団子状にしておいて、オーク肉のブロックを一口サイズの薄切りにして、肉と野菜を煮込んでアク取りして、こねた小麦粉玉をちぎって鍋に投入して、しょう油とみりんとお酒で味付けして、ひと煮立ちしたら完成。
わくわくしながらよだれ垂らして待ってるちびっ子たちに順番によそってあげて、みんな揃っていただきます。
ひたすら恐縮している院長先生が気になったけれど、子どもたちがおいしいおいしいとにこにこしながらおかわりする様子を見ていて、これでいいんだと思う。
『……ふーむ……。肉が少ないな。しかし、美味い。おかわり』
もー、ヤタ、文句言うならおかわりあげないよ?