第百十四話:《街》
ギルドマスターから書簡を受け取った僕たちは、冒険者ギルドから出て、トールくんの案内で街の散歩がてら貴族街に行って、ご隠居さんと会えるか予定を擦り合わせることに。
この《街》は、北の《魔の森》に対する防壁と、街から北東側にある《鉱山》への中継地点として建造されたのだという。
そのため、高く堅牢な防壁に囲まれている。
門は、北、南、東の3ヶ所。
それぞれ、街道が整備されあちこちに繋がっているという。
街の北側には、冒険者ギルドと武器防具を生産する工房。
東側には、各商店と住宅地。
南側には、旅人用の宿屋や飲食店中心。
中央には内壁があり、いざというときに避難して籠城できる造りになっている。
中央北側は、砦のような領主の館。
中央南側は、貴族街になっている。
そして、西側は貧民街と呼ばれる旧市街地になっていて、孤児院や非合法な組織の拠点もあるという噂がたっているとか。
開拓村が壊滅したあとトールくんが身を寄せたのは、西側の貧民街にある孤児院のひとつなんだって。
「さて、あそこの門の先が貴族街だよ」
冒険者ギルドから内壁の外周ををぐるっと迂回して南下してきたけれど、トールくんが指し示す方を見ると、立派な拵えの門とその両脇に控える槍を持った兵士の人。
街の衛兵の人より立派な鎧を着ているみたいだけれど、ぐれ太に驚いてる姿は同じみたいだね。
「そこで止まれ」
「この先は貴族街だ。平民の立ち入りは禁止されている」
僕らが近づくのに合わせて槍で✕を描くように交差させながら声をかけてくるけれど、
「ぎゅぎゅ?」
(駄目?)
ぐれ太が声を出したら、ビクッとして驚いてたよ。
「トールといいます。冒険者ギルドより、ナイツ伯爵家のヘンリー様へ書簡を届けに参りました。お取り次ぎをお願いしたく」
「……ちっ、赤髪赤目のトールか……。生きてやがったかよ。……取り次ぐからしばし待て」
兵士の片方が舌打ちと共に嫌そうに言って、もう片方の兵士を顎でしゃくるのを見て、ムッとしちゃう。
しゃくれてしまえばいいんだよ。
片方の兵士が門の脇の通用口から中に入っていくと、そのまま待たされることに。
しばしの間無言で待っていると、兵士が戻ってきた。
「ナイツ伯爵家からの伝言だ。『主人は本日都合がつかないため、明日午前の鐘が鳴る頃再度訪ねられたし』だそうだ。悪いが出直してきてくれ」
「午前の鐘?」
トールくんに聞いてみれば、朝、昼、夕方の3回と、朝と昼の中間、昼と夕方の中間の2回の、合わせて1日5回鐘が鳴るみたい。
しょうがないから、今日のところは出直そう。そう決まったところで、今度は西側の旧市街地へ……行く前に、主に食料品を売ってる南東の地区に立ち寄って食材を購入。
あ、鍋とか食器とか必要かな?
それと……。
「ミナト、トールくん、ステラ、お金持ってる?」
ミナトはともかく、トールくんやステラって、無一文なんじゃ……?
「……ギルドに預けてあるよ?」
「……エルフは、硬貨などの金属に触ると肌が爛れてしまうというから、人間の金銭は持ってきていない」
もー、ステラ、そんなんでこの先どうするのさ?
トールくんもたくさん魔物倒してるんだから、ちゃんと渡してあげなきゃ駄目だったね。
スキル《生産》でパパっと硬貨入れ用のベルト付き革袋を生産して、金貨銀貨銅貨を適当にアイテムボックスから取り出して詰め替えて二人に渡す。
ミナトはどうか聞いてみたら、アイテムボックスがバグってて中身は閲覧できても取り出せないみたい。中身も文字化けして一部読めないのがあるって言うし。
……なにそれぇー……。
はいはい、ミナトにもお金用の袋を生産っと。
『おいミコト、あまり人前で《生産》スキルを使うな。ミコトのそれは、全生産スキルが統合された頂点のスキルだ。いくらでも悪用できるぞ』
ヤタぁ、そういうことは早く言ってよぉ……。




